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日記

phasonの日記: 銀河を繋ぐ架け橋 1

日記 by phason

"A filament of dark matter between two clusters of galaxies"
J.P. Dietrich et al., Nature, 487, 202-204 (2012).

恒星,銀河,銀河団といった高密度な構造の形成には暗黒物質が重要な役割を果たしたと考えられている.そもそもこういった構造が生じるためには,何らかの原因で物質がどんどん集まってこなくてはいけない.この原動力としてすぐに思い浮かぶのは重力であって,例えば均一なガスであっても偶然に揺らぎとしてある程度物質が集まった領域が生じれば,重力の効果により質量が質量を呼ぶ連鎖が起こり恒星や銀河を作ると考えられる.
ただし事はそう単純には解決しない.原初にあった物質の揺らぎの程度は,WMAP衛星などによる背景輻射の観測からわかる.ところがその密度揺らぎと当時のガスの温度を考えると,あまりにも圧力が強すぎて十分な大規模構造を作る事は出来ないのだ.つまり,多少の密度揺らぎで粒子が集まった領域が出来ても,(光子を介した)粒子間の相互作用が強すぎる&温度が高すぎるため,それ以上揺らぎが成長する前に拡散してしまうのだ.

これを解決する鍵が暗黒物質である.暗黒物質の正体はともかく,それは質量を持ち,さらに重力以外では粒子間でほとんど(もしくは全く)相互作用しないと考えられている.粒子間で相互作用がないという事は,圧力による膨張を考えずにどんどん集合していける事を意味する(もちろん,運動エネルギーによる拡散はあるが).このため,通常物質がその圧力によりなかなか凝集出来ない間にも暗黒物質は重力による凝集が進み網状の構造を構築.その後ようやく温度が下がり凝集出来るようになった通常物質は,先に凝集している暗黒物質の大規模構造の重力に引きつけられ,同じような位置に集まって恒星や銀河,銀河団といった構造を作ったと考えられている.
このモデルは非常にうまく現状を説明出来るのであるが,観測面で大きな問題を抱えていた.通常物質の背景となるべき「暗黒物質の網目状大規模構造」がまだ観測されていないのだ.暗黒物質の存在そのものは,重力レンズ効果などにより確認されている.また,銀河団同士が衝突している部分の重力レンズ効果の観測により,銀河と重なるように暗黒物質の塊が存在している事もわかっている(物質同士は相互作用が強いので摩擦ですぐに減速する一方,暗黒物質は相互作用が弱いのでより遠くまで行って戻っての振動を長く続けるため,両者の分布にしばらくの間ずれが生じる).

しかしこういった銀河団などの通常物質とともに動いている暗黒物質ではなく,前述の網目状構造を取っている背景としての暗黒物質というのはこれまで観測されていなかった.というのも,暗黒物質が多量に集まっている点というのは当然通常物質も引きずり込まれて集まっている(=銀河となっている)わけで,通常物質を伴わない暗黒物質の網(=密度の低い暗黒物質の構造)を重力レンズで見つけるのは非常に困難だからだ.幸いな事に,今回著者らが解析を行った銀河団の間の暗黒物質フィラメントは非常に観測しやすい方向になっており,それが本論文の発見に繋がっている.

解析の対称としたのは,Abell 222および223という近接した銀河団である(後者は実際にはかなり近接した二つの銀河団からなる超銀河団であるが).この両銀河団の引き起こす重力レンズ効果による背景の歪みに対し,様々な質量分布を仮定してその時起こる歪みと比較・フィッティングを行う事で実際の質量分布を求めている.初期値としては見えている銀河団と一致する大きな質量+単純に両者を結ぶ線状の質量分布を用い,そこからマルコフ連鎖モンテカルロ法でランダムに変化させながら最適(に近い)解に落とし込んでいる.
その解析の結果,両銀河団(正確に言えば,Abell 223は2つの銀河団を含むので3銀河団)の中心に大きな質量があり,それとは別に両者を繋ぐ回廊部分にもほどほどの量の質量が観測された.この部分には目立った通常物質は存在していないので,これは両銀河団をを暗黒物質のひもが結んでいる事の一つの証である.解析結果から求めた質量はAbell 222が太陽質量の2.7*1014程度,Abell 223が3.4*1014程度であったが,これは以前に求められた結果(ここでは,両銀河団を結ぶフィラメント状の暗黒物質の分布は考慮されていない)の半分程度となる.つまり,両銀河団に匹敵するような質量が両者を結ぶ暗黒物質のひもとして存在しているわけだ.なお,光学的な測定から推測したこのフィラメント領域での通常物質のガスの量は太陽質量の6*1012程度と見積もられており,この部分での質量の大部分は暗黒物質由来であると考えられる(ガス量の見積もりにはかなりの単純化が入っているが,まあそれでも暗黒物質が主である事は動かないだろう).
このフィラメント状構造が見えたのには,その角度が観測に適していた,という点も指摘されている.両銀河団のハッブル定数の差から,これら二つの銀河団がどういう位置関係なのかが推定されている.その結果,この2つの銀河団を結ぶ線(暗黒物質のフィラメントの方向と一致)は,地球から見ておおよそ45度の角度に位置しているのだ.ひもを横から見ると距離は長いが(視線方向の)密度は低い.逆にひもが視線方向と一致していると密度は高く見えるがひもの両端の銀河団と重なってきて見分けにくい.今回の場合,斜めになっている事で視線方向の密度が高くなりつつ(=重力レンズ効果が測定しやすい),両銀河団はほどほどに離れている(=分解能的に分離しやすい)という状況だったわけだ.

今後はさらに高感度・高分解能な衛星の打ち上げなども計画されており,この手の発見は数を増やしていくものと思われる.

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  • by Anonymous Coward on 2012年07月12日 17時48分 (#2192156)

    逆関数を求めるのが困難なのでのランダム入力シミュレーションでしょうが、
    比較・フィッティングのくだりはハッシュ値の衝突をあてずっぽに探すのに似ている?
    もちろん、この場合のf(x)は自然モデルなので(そんなに)捻くれていません(線形?)し
    求めるものは近似ですが。計算量はどんなもんなんでしょうね。

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クラックを法規制強化で止められると思ってる奴は頭がおかしい -- あるアレゲ人

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