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日記

phasonの日記: 砂のお城を作ろう! 5

日記 by phason

"How to construct the perfect sandcastle"
M. Pakpour, M. Habibi, P. Møller and D. Bonn, Scientific Reports, 2, 549 (2012).

海辺での砂遊びなどはほとんどの方が経験していることだろう.乾いた砂は崩れやすいが,ほどほどに湿らせた砂は固めることが可能で,様々な形に造形することが出来る.さてこの砂の建築,どのような条件でどの程度の高さまで作れるのか?という点に関して,実はしっかりとした研究は無かったらしい.正確に言えば,研究はあるのだが,定量的な一致が非常に悪いそうだ.例として挙げられている過去の研究では,例えば砂の柱は半径によらず20cm程度で崩れると予想されていたり(実際には半径に非常に依存するし,数メートルを超える砂の彫刻もある),といった具合だ.

そんな未知の領域に果敢に飛び込んでいったのが今回の著者達である!
……なんでそんなもんに情熱を傾けてしまったんだ,という気もしなくは無いが.
一応言い訳としては,「粉体の力学は物理的側面から非常に面白い.実用上も,様々な粉体(それこそ砂から小麦粉,各種工業原料まで)の挙動は重要である」とそれっぽいことが書いてあるが,読んだ印象ではこいつら単に砂遊びが大好きなだけなんじゃ無いかと(偏見).

さて,その研究結果である.
まず彼らは,砂の建造物が崩れる際には座屈変形が最大の問題であると考えた.今ここで単純化のために,円柱状の構造物を砂で作ることを考えよう.円柱が長くなった際,この円柱の途中の部分には,上に乗った部分の重量と,それを支えるための下からの反作用がかかっている.この時,上に乗っている部分の重量がある値を超えると,円柱は耐えきれずにぐにゃりと折れてしまう(砂の柱の場合,崩れる).これは細い金属棒を両端から押し付けるとあるところで折れるのと同じだ.
座屈が起きる限界の砂柱の高さhcritを,通常の円柱状構造物の力学的解析から求めることで以下の式を得る.
hcrit = (9J2GR2/16ρg)1/3 (式1)
ここでJは第一種ベッセル関数(v=-1/3)の根で約1.8663,Gは砂柱を弾性体と見た時のヤング率,Rは円柱の半径,ρは密度,gは重力加速度である.砂の円柱が崩れる原因が座屈変形にあるのであれば,様々な半径の砂柱を作ってその限界高さhcritを調べれば,式1よりhcritは半径Rの2/3乗に比例するはずだ.
そこで著者らは半径5 mmから8 cmまでの砂の円柱をせっせと作り,その限界高さを調査した.その結果hcritはRの2/3乗にきれいに比例しており,砂柱の崩壊の原因が座屈変形であることを示唆していた.

著者らはさらに解析をすすめ,定量的なところまで踏み込む.
前述の式で,唯一フィッティングパラメータとなっているのが砂柱のヤング率Gである.さて,この砂柱であるが,微視的に見ればかなり頑丈な砂の粒(親水性)が,わずかな水分によって架橋された構造をとっている.なおここで架橋の原因となる力は表面張力であり,空気-水界面の表面エネルギーが起源となる.さて,こういった「たくさんの粒が,水分により結合している系の力学特性」というのは数年前に同じ著者らが計算しており,その結果水を含んで繋がった砂の集合体のヤング率Gは
G = αa-1/3E2/3γ1/3 (式2)
と書けるらしい.ここでαはマクロな変形により,個々の砂粒を結んでいる水の結合がどの程度切れるかを表す比例定数で,砂粒がどんな形状で互いにどういった配置をとっているのか,という幾何的条件から一意に決まる.もちろん実際の砂粒(雑多な形状,雑多な配置)に関してはわからないが,著者らはとりあえず球形の粒子が単純立方格子を組んでいると仮定,その際に様々な方向へ力がかかった場合を平均し,α = 0.054という値を算出し,これを使用した.aは個々の砂粒の粒径(今回の例では100 μm),Eはその砂粒自体のヤング率,γは水-空気界面での表面張力であり,これらは実際の砂粒の観察やデータによりわかる値である.
さて,このようにして得られた値を式2に代入してGを求める.これを実測値と比較したところ,完全な一致が見られた(見たところ,数%以下程度のズレ).なお,砂に水を含ませた時の強度に関しては,水が少なすぎても多すぎても弱くなる(乾いた砂はすぐ崩れるし,水浸しの砂も強度は無い).最適の強度は加える水が砂に対し1から2 vol%の時であり,計算から求めたヤング率と実測のヤング率が一致するのもこの「強度が最高の場合」である.

この式2を式1に代入することで,最終的な式3を得る.
hcrit = (9J2αa-1/3E2/3γ1/3R2/16ρg)1/3 (式3)

さて,砂柱の強度を上げるにはどうすれば良いのだろうか?式3には変えられるパラメータがいくつかあるが,形状(R)・密度(ρ)をそのままで強度を上げるとすれば,一つには砂粒の粒径aを小さくすることが挙げられる.相対的に表面積を増やし,砂粒同士の結びつきを生む水の架橋を増やすわけだ.他にはαを増やすことも効果的だ.これは砂粒同士がどの程度水の架橋で結ばれているか,砂粒が動いた際にこの架橋がどの程度切れるかを表す量だが,例えば砂をぎゅっと押し固めれば,砂粒がより密にパッキングし,架橋本数や,粒が動いた際に切れる架橋の数を増やすことが出来る.これは実際の砂像の製作などでも行われている事である(事前に砂を適度に湿らせ,その後荷重をかけてしっかり固める).砂を押し固めるとなぜ丈夫になるのか?という点にはいろいろ議論もあったのだが(不規則な形状の砂同士が噛んで動けなくなる,等),今回の結果を見る限り,粒子間の接触を密にして水による架橋が増えることがその原因のようだ.

まあ何にせよ,ついに人類は完全な定量性を持って砂の城の強度を計算する手法を手に入れたのである!
これを利用することで,これまで以上に強度が高く計算され尽くした砂のお城が多数完成されることは疑う余地も無い.人類の(砂のお城の)建築技術はまさに新たなステージへと踏み出したと言えよう.

……絶対この人達趣味でやってますよね?
#過去の業績も,湿った砂の力学とかが結構あるようです.

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by manmos (29892) on 2012年08月06日 18時50分 (#2207354) 日記

    今鳥取では、「まんが王国とっとり」をやっておりまして、沢山の砂の像が作られております。テレビでみた感じでは、結構大きいです。
    ただ、そんなイベントがなくても、砂だけは豊富なので、いつでも、まあ、見事な砂の像はみられます。

    でも、鳥取ですので、「一方日本では」とか言って見たところ、そんなイベントは全国的には誰も知らない。
    鳥取の人は隣の県だとと思っている、兵庫県とかでも、そんなことは、ほぼ知らない。私も今朝、「およはよう朝日」で知りました。

    • by Anonymous Coward

      いっそのこと「鳥取砂まつり」とかどこかで聞いたような名前に変えて、夏の風物詩を目指せば……

      • by manmos (29892) on 2012年08月06日 19時26分 (#2207368) 日記

        「まんが王国とっとり」は「夏オンリー」ではありません。なんと、2012/4-2013/3までの一年間です。開催からすでに4ヶ月もたっているのに、誰も話題にしません。
        うちの会社の鳥取出身者も、取引先の鳥取出身者も…

        テレビで谷口ジロー(鳥取出身。「まんが王国とっとり」のメインの展示は水木しげる、谷口ジロー、青山 剛昌です。)の「孤独のグルメ」が話題になっても、けっして「まんが王国とっとり」は知られていません。

        まあ、境港市の妖怪ロードはなんとか、知られてきましたが、でも、境港って、ほぼ島根だよなぁ。

        親コメント
        • by Anonymous Coward

          ですよねー
          もちろん浦安もほぼ東京

    • by Anonymous Coward

      私が小学生の頃は自治体主催の「砂の造形大会」なるものが毎年行われてました。
      毎年夏前になると公園の砂場で練習させられたものです。

      今もやってるのかなぁ…と思ってググったところ、やってました。 [at-s.com]

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アレゲはアレゲ以上のなにものでもなさげ -- アレゲ研究家

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