パスワードを忘れた? アカウント作成
5950167 journal
日記

phasonの日記: 地下水資源利用状況を見積もる 1

日記 by phason

"Water balance of global aquifers revealed by groundwater footprint"
T. Gleeson, Yo. Wada, M.F.P. Bierkens and L.P.H. van Beek, Nature, 488, 197-200 (2012).

水は重要度の高い資源である.そのため現在我々人類がどの程度の水を利用出来るのか?という点に関しては,様々な試算が行われるとともに,ウォーターフットプリントという概念が生まれ様々な活動における水消費を考え直す気運も高まっている(ただしウォーターフットプリントそのものに関しては,算出法も含め議論がなかなかまとまらない).
さて数ある水資源の中でも,現代において急速に重要性を増しているのが地下水である.過去に蓄えられた膨大な量が地下に存在することと,技術の進歩によりかなり深い位置の地下水も利用出来るようになったことから,特に小雨地域での重要な水資源として大規模に利用されている.

そんな地下水であるが,近年は過剰取水による様々な害や,地下水枯渇の懸念が高まりつつある(というかいくつかの地域で既に枯渇している).その一方で,地下水のバランスシートとでも言うべき水フロー(地下水として蓄積される量と,くみ出されている量との比較)は,(個々の地域での研究例はあるものの)世界全体レベルでのまとまった数値化はほとんど行われていない.
今回著者らは,世界各地の帯水層における水使用量や地下水蓄積速度を推定し,現状をまとめて報告している.

まず著者らは,地下水フットプリント(GF)を
GF=A[C/(R-E)]
で定義している.ここでAはその地下水の存在する地域の面積(単位は[長さ2]),Cは人間による地下水量の減少(単位時間あたりの水面の低下.単位としては[長さ/時間]),Rは地下水の自然回復量([長さ/時間]),Eは地下水から周囲への自然流出量(植物による吸い上げであるとか,わき水としての自然流出.[長さ/時間])である.要は,人為的な組み上げによる単位面積あたりの支出(C)と自然な収入(R-E)の比をとって面積を掛けたものだ.GFが大きなところは地下水の利用が大きい地域(基本的には,使用量が大きく 面積も広い)を意味し,GF/Aが1を超えているところは自然回復量を上回る速度で地下水を消費していることを意味する.

著者らは,GF/A(=自然流入量の何倍を使用しているか)を地図にプロットするとともに,GFが大きい順に15地域をリストアップしている.基本的に,GFの大きい領域はGF/Aも大きい事が多い.
GFの1位はダントツでガンジス上流-パキスタンの地域である.このあたりはかなり昔に地下水の大規模開発&緑の革命により農地の開発が一気に進んだ地域であり,インド・パキスタン両国の膨大な人口を支えるための農地が多数存在している.そしてこの地域のGF/Aはなんと54.2,つまり年間に流入する水の54倍の量を毎年組み上げて使用している.まあ当然ながら近年では地下水の枯渇などに苦しめられているのだが.
GFの2・3位は意外なことにサウジアラビア,そして4,5位はイランである.この両国は降水量が非常に少ないところを,オイルマネーによる井戸開発で水を大量に汲み出すことで凌いでいる.サウジアラビアに至っては大規模な菜園を開発して野菜を輸出するという(ある種の)暴挙に及んでいるわけだが,雨があまり降らない以上当然のことながらGF/Aも大きな値になる.サウジアラビアでのGF/Aは40-50程度,イランの2つの地下水源では20(ペルシャ周辺)と100(カスピ海南側)である.6位にメキシコを挟み,7位に登場するのが世界の穀物庫,アメリカのハイプレーンズである.アメリカは穀物の一大産地であり,例えばトウモロコシで言えば国際市場で取引されている量の半分前後はアメリカ産である.なかでもハイプレーンズは,オガララ帯水層からの汲み上げによる穀物栽培によりアメリカにおける穀物の一大産地である(トウモロコシの半分弱,小麦の1/6程度).当然地下水の使用量も多く,GF/Aでは9になる(上位の国に比べ比較的小さな値なのは,先端灌漑技術の導入による水使用量の削減が大きい).GFのランキングには次いで再びのインド-パキスタンが登場,続くのはエジプトである.エジプトはナイル川依存のイメージが強いが,そこから地下に浸透した地下水の利用も多い.GF/Aは30を超え,やはり使いすぎである.次いで東ヨーロッパ,メキシコを挟み,近年水不足が著しい中国の帯水層が12,13位にランクイン.そしてアフリカの地中海沿岸,アメリカのセントラルバレーと続く.
さて,上述の地下水使用15大地域を除いた他の全地域に関しては,平均するとGF/Aは1.1とほぼ流入と流出が均衡している.つまり地下水に関しては,いくつかの地域が膨大な量を汲み出して使っている点は問題であるが,その他の地域に関しては比較的良い条件であるとは言える.

以前から言われていることではあるが,やはり問題点は
・雨がほとんど降らないのに大都市化している中東諸国
・人口が膨大で,地下水が枯渇すると破滅的なインド-パキスタン地域
・地下水頼みで世界の穀物市場を支えているアメリカ中西部
の3つだろう.渇水が年々深刻化しつつある中国も懸念材料ではあるが,地下水という貯蓄に関してだけ見れば上記3大問題地域ほどの深刻さは無い(まだそんなに使ってないからで今後酷いことになる,という見方も出来るが).
まあ中東諸国は最悪,オイルマネーを活かした海水淡水化か何かを大規模にやれる(かも知れない)し,アメリカは技術と資金の投入で地下水枯渇を先延ばしに出来そうなので(まあいつかは問題に直面するが),インド-パキスタン周りが一番危ないかも.既にぎりぎりな感じになっているしなあ……

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

UNIXはただ死んだだけでなく、本当にひどい臭いを放ち始めている -- あるソフトウェアエンジニア

読み込み中...