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日記

phasonの日記: ウィルスの殻を利用した機能性ナノ粒子 2

日記 by phason

"Use of the interior cavoty of the P22 capside for site-specific initiation of atom-transfer radical polymerization with high-density cargo loading"
J. Lucon et al., Nature Chem., in press (2012).

ナノサイズのカプセルは今後様々な用途に利用されると考えられている.こういった素材は,例えばカプセルの表面を特定の抗体で修飾しておけば,体内をぐるぐる回りながら患部に集結,カプセルが割れて中の薬剤を局所的に放出する事で副作用を減らす,といったドラッグデリバリーであるとか,MRIで見えやすい希土類元素を含むカプセル表面を修飾して初期病巣を発見するだとかそういう用途があるわけだ.
こういったカプセルを作ろうと思った場合,以下のような特性が十分コントロール出来る必要がある.
・サイズの均一性(均一で無いと,反応や分解がきれいに揃わない)
・表面の化学的な修飾の容易さ(ターゲットと反応する抗体などの付けやすさ)
・内部の修飾の容易さ(ターゲットまで運びたい物質をちゃんと中にくっつけられる)
しかしながら,均一で化学的な特性も揃ったナノ構造を量産する,というのは現代の化学ではまだなかなか難しい.そこで研究者達が目を付けているのが天然のナノカプセル,ウィルス(の外殻)である.

ウィルスは,基本的には非常に形の整ったカプセルの内部に遺伝情報である核酸を入れただけの構造を持っている.その外殻はきっちりと配列の決まったタンパク質で出来ており,サイズと形状が一意に決まったナノカプセルだ.しかも壁面の構成要素はタンパク質なのだから,各所に化学修飾出来る置換基を持っている.こいつを機能性ナノ粒子(の殻)として利用してやろうというのだ.
幸い,人類の遺伝子工学はファージなどのウィルスの配列を自由にいじったり大腸菌などに組み込んでそのタンパク質を量産することが出来るほどに進歩している.そのため量産性にも問題は無い.

今回の論文では,著者らは天然のファージP22の遺伝子配列に手を加え,その殻の一部(といっても,周期構造であるので420個の同種の箇所全部)を反応性の高いチオール(-SH)を持つアミノ酸に変更,70nm弱の正20面体の殻で,内側に反応性の点420個を持つナノカプセルを作り上げた.ウィルスの殻自体をナノカプセルに利用した例はこれまでにもあるのだが,この論文の肝はこの遺伝子改変により組み込んだ反応点である.
カプセルが出来たら,まず温度を上げてカプセル構造に小さな穴を開ける.ここから分子の出入りが可能となる.続いて,チオール基に反応する部分&他のポリマーの開始末端となる部位の2つのパーツを持つ分子を導入する.これにより,内側に420個ほどの反応点を持つ70nm程度の直径のカプセルが完成する.後は適当に,この反応点からラジカル重合でポリマーを伸ばしていけば良い.この使う時ポリマーは,後から好きな機能を追加出来るように反応しやすいアミノ基を持つようにしておく.
このようにして出来上がったのは,直径70nm程度の殻の内部に,ぎっしりとポリマーの詰まった粒子である.しかもポリマーの各所には反応しやすいアミノ基がたくさんぶら下がっている.本論文中では,このアミノ基に蛍光性の分子や,希土類元素のGd3+(MRIの造影剤に使える)と錯形成をする分子を多数ぶら下げている.

本手法の優れている点は,ナノカプセル内部をびっちりとポリマーで埋め,しかもそこに多数の機能性分子をぶら下げられる,という点にある.例えば類似のカプセルにGd3+を詰め込んだ系では,これまでは100-1000個程度のGd3+しか詰め込むことが出来ていなかったのに対し,この論文では約10000個ものGd3+を詰め込むことに成功している.これはつまりMRIで検出されるシグナルが10倍以上になるわけで,非常に高感度な検出が可能になる事を意味している.

まだ化学の及ばない部分を生物に頼り,そこにさらに手を加えることで機能性を出す,という手法はもうしばらくは面白い結果を出し続けてくるだろう.本音を言えば,化学をさらに一段引き上げて生物の特性をぶっちぎる,ってところまで行きたいものなのだが,それはなかなかまだ難しい.

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  • by scythe (7906) on 2012年08月28日 22時11分 (#2220391) 日記

    異論がでそうな論文ですね。
    会社にはその雑誌があるんですが、オンライン版は見れないので、何が書いてあるのかわからない状態でコメントしてます。
    (といっても、会社にその号がくる頃には忘れてる気がする・・・)

    機能を詰め込んだ50nmくらいの単分散ポリマー粒子に、
    10nm厚くらいのシリカシェルを付けたほうが、工業生産的にはいけるでしょう。
    Gdコンテンツが問題なら、単分散Gdナノ粒子にシェルを付けた方がラクでは?

    あとは、バイオで生産するって、思ってる以上に大変ですよ。
    不純物がはいってもいい、とか採算度外視とか、少量でもいい、とかならわかりますが、
    たくさん使うんだったら、化学工業的に作った方が、ナンボかましです。

    • >10nm厚くらいのシリカシェル

      シリカシェルに対する利点としては,フレキシビリティを活かした将来的な機能化あたりですかねぇ.特定条件でシェルがばらける,とか.
      あとは(将来的には)ケミカルな活性点の数を制御出来るはずなんで,分子数レベルで厳密に内容物の量とか組成を決めうちしたカプセルとかも可能なはず.

      >単分散Gdナノ粒子

      メタルのGd使っちゃうと,コストが高いんで.あとは毒性があるので,キレート化して固定しないとまずいはず.
      基本的にはGd3+のスピンを使って近くの水素原子の緩和時間を短くする(スピン-スピン緩和を増やす)事でMRIの感度を上げてます.実は濃度が濃ければ濃いほどよい,というものでもなかったり(いろいろ面倒くさい).
      #メタルのGdで出来たかどうかは失念.

      >少量でもいい、とかならわかりますが

      このあたりの研究は,ほぼ全て医学関連なんで,少量生産を念頭に置いていると思います.
      そういう目的でなら,この手のVLP(Virus Like Particle)は既に量産を見据えて臨床に進んでいたりしますので(ワクチン用模擬ウィルスなど),まあ量産性に関しては問題ないんだと思います.
      量産に際しては,ばらばらのタンパク質としてクロマトなどで生成,あとは溶液に入れておいてpHなりなんなりを適切な値にすると勝手に組み上がってまたカプセルに戻る,とかだった気がします.

      親コメント
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計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである

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