phasonの日記: 水滴で論理ゲート 6
うちの大学からだと論文そのものは読めないのでAbstとSupporting Infoしか見られないのですが,面白かったので紹介.
"Rebounding Droplet-Droplet Collisions on Superhydrophobic Surfaces: from the Phenomenon to Droplet Logic"
H. Mertaniemi, R. Forchheimer, O. Ikkala and R.H.A. Ras, Adv. Mater., in press (2012).
この研究グループの研究テーマは超撥水である.超撥水とは,例えば身近なところではテフロンコートされた表面などで見られる現象で,水との親和性の非常に低い表面に水滴を置くいた際に見られる.水同士の結合エネルギーが超撥水表面との結合よりも圧倒的に強いことから,水同士の結合を最大化し,水とそれ以外のものとの結合=水滴の表面を最小化する構造,つまりきれいな球形のころっとした状態になるものだ.この状態では基板と水滴との結合は非常に弱いため,基板を少し傾けただけで水滴は面白いように転がり落ちる.
さて今回著者らが報告しているのは,こういった超撥水基板上の水滴同士がまるで剛体の球のようにきれいに衝突-反発する,という現象だ.つまり,水滴がビリヤード球のように互いに衝突し合うのだ.
論文本体が読めないので詳しい条件は不明だが,微妙な条件をコントロールすることで水滴同士の衝突が剛体球的なもの(ぶつかってきれいに跳ね返る)なのか,それとも融合(二つの水滴がぶつかって一体となる)なのかをコントロールも出来るらしい(ぶつかるときの速度か何かでも影響しているのだろうか?そのうちちゃんと論文を取り寄せて読んでみよう).非常に単純な現象であるが,著者らにとっても意外なことに,この現象はこれまで報告されていなかったらしい.
さて,ただ跳ね返るだけでは面白くない.そこで著者らは,この現象を用いた機械式論理ゲートが実現出来ることを示している.その様子のムービーは
Supporting Information:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/adma.201202980/suppinfo
および
You Tube:http://www.youtube.com/user/hmertaniemi
にて公開されている(同じもの).この動作がなかなか面白い.以下の説明は,Supporting Informationのムービー番号を元に行う事にする.
まず最初の動画Movie001であるが,条件(何なのかは不明だが)を変えることで,液滴同士の衝突が反射なのか融合なのかが変化する様子が示されている.中心軸からちょっとずれた位置への衝突(これは後に述べるフリップフロップ式メモリで重要となる)であっても,正面からの衝突であっても,どちらも反発と融合が実現出来るらしい.
次の動画Movie002は,液滴であるからこその特徴を示す実験だ.赤い蛍光を発している液滴(発光する物質を溶かしてある)に対し,その物質を食って蛍光をとめるような物質を溶かし込んだ別の液滴をぶつける.反発条件でぶつけると,液滴同士の中身は混合しないので,蛍光はそのままである.一方,融合するような条件で衝突させると二液の中身も混合,蛍光が消失する.
これが意味することは,論理演算と化学反応を組み合わせられる,という可能性である.各種の原料を含んだ液滴を液滴機械式計算機に入力すると,液滴同士の衝突に基づく論理演算により得られる特定の組み合わせの順で,計算結果に依存した液滴同士が順番に融合して,内部で順次化学反応が起こる,なんてことも可能になるかも知れない.つまり,外部からの入力に応じて混ざる液滴が自動的に変化し,最適な生成物を作るミニ化学工場のようなものが作れるかも知れないわけだ(道は遠いが).
Movie003はNOTゲートの実装である.A(右上)からの入力が無い状況では,この回路を駆動するための入力(1,左上からの入力)はそのままNOT-Aの出力に流れる.しかしここにAが入力されると,1からの入力とAからの入力が衝突,それぞれの液滴が右下と左下に反射され,NOT-Aへの出力が中断する.この動作はしっかりとNOTゲートになっている.
Movie004はAND/ORゲートである.左上から入射したAは,なにも無ければぐるっとループを描いて左下に向かう.右上から入射するBは,そのままストレートに左下に向かいAと合流する.AとBが同時に入射されたら?この場合は中心位置で衝突し,右下と左下に1つずつ出力される.つまり左下はORになっており,右下はANDにっているわけだ.
Movie005はなかなか面白い.フリップフロップ回路でのメモリーである.この回路は左から1本入射路があり,途中で上下に分岐して二つの出力を持つ.そしてその分岐点の位置にあらかじめ一つの液滴が配置されている.この時,液滴が微妙に上(もしくは下)にずれているのがポイントである.配置されている液滴が,微妙に下にずれていたと仮定しよう.ここに左からもう一つの液滴が入射する.衝突により置いてあった液滴は右に押しやられるのだが,元々いた位置が下寄りのため右下へと運ばれる.一方反射によりその運動量のほとんどを置いてあった液滴に受け渡した入射液滴は,ちょっと下にいた液滴をはね飛ばした結果,自分自身は若干上側に残る.ここにもう一つ左から入射すると,今度は置いてあった液滴は右上に飛び,入射してきた液滴は若干下側で静止する.これは見事なフリップフロップ回路である.左から液滴が入射するたびに,出力は順次上,下,上……と交互に切り替わっていく.
何というか,非常に単純な現象の発見であるが,そこから出てくる現象が面白い.いやほんと,これで実際に動く液滴計算機を作って,様々な反応のコントロールとかを実証してもらいたいものである(単純に見た目の面白さ的な意味で).
液滴計算機、見てみたいですねぇ (スコア:2)
昔何かの雑誌で見た4月号でのエイプリルフールネタの、発掘された古代の陶磁器の表面に刻まれた模様が実は水流を利用したコンピュータだったんだよ!…ってのを思い出しました。
数ビットの液滴加算器が動いている風景はさぞ見物でしょうけど、演算時に液滴同士のタイミングが合っている必要があるので、実際に動くのを組むのは大変そう…。
Re: (スコア:0)
ピタゴラスイッチのスタッフを総動員すれば……
ハイブリッド計算機 (スコア:0)
アナログとディジタルのハイブリッド計算機にならないかしらん。
Re: (スコア:0)
10年ぐらい前からすでに、LSI は高周波アナログ回路ですよ。
Re: (スコア:0)
アナログ計算機って、アナログ回路による計算機という意味じゃなくて、アナログ量を計算(といっても和の積分が主のものに限る)するものですよ。
現在なら、やろうと思えばSPICEかなんかの理想回路でエミュレーションすりゃいいから実機の必要性って無いでしょうけど。
Re: (スコア:0)
量子力学的な限界から完全にアナログな計算機は作れません。(とか知ったようなことを言ってみる)