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日記

phasonの日記: MgOの超高圧下での金属化:レーザー誘起衝撃波圧縮による実験

日記 by phason

"Phase Transformations and Metallization of Magnesium Oxide at High Pressure and Temperature"
R.S. McWillams et al., Science, in press.

極限条件下での物性の研究は,物性物理における一大研究領域である.例えば極低温,超高温,超高圧,超高磁場,超強電場中での物性は我々の身の回りの一般的な現象とは大きく異なる特性を示すことがある.そのため極限物性屋は日々より極端な条件を実現するための手法の開発に血道を上げているわけだ.
さてその中の超高圧であるが,「一般」の超高圧実験ではダイヤモンドアンビルセルが用いられる.これは複数のダイヤモンドの壁面でサンプル(とそれを包む液体の圧力媒体)を囲み周囲から強く押し付けて圧縮する手法であり,通常の装置で数十 GPa(1 GPaはほぼ1万気圧),専用の超高性能なものを用いると100-300 GPa程度が実現出来る.温度面に関してはいろいろ難しい点もあるのだが,それでも一部の高機能な装置ではダイヤモンドを通してレーザーを照射,サンプルの極小領域のみを加熱することで5000 ℃前後なら実現出来るようになってきている.
しかし,である.地球の中心部はおよそ360 GPa,5500 ℃と現在の装置でもギリギリ測定出来る範囲なのだが,最近系外惑星として多数見つかっているスーパーアース(地球の数倍程度のサイズの惑星)の核であるとか,木星型惑星の中心付近での物質の振る舞いを調べようとするとこれでもまだまだ足りないのだ.こういった極端な条件下での物性を調べようと思うと,500-2000 GPa(0.2-2 TPa)程度の圧力で,しかも温度も1-2万 ℃程度を実現したい.

そこで通常のダイヤモンドアンビルを超える圧力を実現するための研究が盛んに行われてきた.初期に考案されたのは,爆薬による圧縮を用いるものだ.これは確かに(当時としては)画期的な圧力を実現出来たのだが,爆圧の時間分布が意外に広くしかも歪な形状をしているため圧縮(とその後の戻り)を解析するのが非常に大変であるとか,物質の応答に変な影響が出たり,また得られる最大圧力が爆薬の爆破特性に依存して制限される(通常数十 GPa),そもそも爆薬なんで使用が大変(あまり実験で使用したくない),などといった問題も抱えていた.
次に考案されたのがこの爆縮法の改善であり,爆薬(後には圧縮空気やレールガンなども用いられる)で飛翔体を加速,これをサンプルに衝突させた瞬間に生じる衝撃でサンプル末端を急圧縮しサンプル内に衝撃波を形成させ,これがサンプル中を伝播していく際の部分的な急圧縮を利用する,というものだ.これは爆縮法よりも優れた手法ではあったのだが,衝突時の均一性を確保するのが難しいこと(固体同士の衝突なので,細かな調節が難しい),衝突速度を上げていくのがどんどん難しくなっている事,などといった欠点がある.

この手法をさらに発展させ,近年になって様々な研究が行われているのが今回の論文でも用いられているレーザー誘起衝撃波圧縮を用いた手法である.ここ何十年かでレーザー核融合の研究が大きく進歩したわけだが,その超高出力レーザーを応用したのが本手法となる.原理は単純で,測定したいサンプルの裏側にアブレーターと呼ばれるレーザーを受けて容易に蒸発する物質を塗布しておく.ここに超高出力レーザーが照射されるとアブレーターは瞬時にプラズマ化,プラズマ(導電性の気体)はレーザー(電場振動をもつ)のエネルギーを猛烈に吸収し加熱される.この膨大な熱でさらに下層のアブレーターが瞬時に加熱され気化・噴出,その反作用でサンプルが一瞬にして押されるのだ.気化の反作用と言っても,超高出力レーザーのエネルギーがそのまま運動に変わったようなものの反作用であり,エネルギー密度的には通常の爆薬による衝撃に比べ圧倒的に大きい.これによりサンプル裏面に瞬間的に超強烈な衝撃波が形成され,それがサンプル中を伝播していく際に瞬間的に超高圧での圧縮(とその後の減圧)をもたらすわけだ.この衝撃波の伝播速度は(物質にもよるが)数十 km/s,圧力は最大で数 TPaに達する.また同時に超高温も実現される.というのも,前述の通りサンプルは衝撃波によって局所的かつ瞬間的に圧縮されるのだが,これはつまり断熱圧縮を意味する(何せ熱が逃げる速度よりも圧縮の方が圧倒的に速い).このため猛烈に圧縮されたサンプルは高温となり,超高圧・超高温が同時に実現されることとなる.
圧縮のされぐあいも,レーザーパルスの形状を制御することで変化させることが出来る.例えばレーザー強度が緩やかに上がって緩やかに落ちるような場合では,ゆっくり圧縮されたゆっくり減圧される状態に近い.逆にものすごく急峻に立ち上がり瞬間的に落ちるδ関数のようなパルスを使えば猛烈な速度で圧縮され瞬間的に元に戻るような圧縮も可能だ.
また爆縮法や飛翔体の衝突ではサンプルが破壊されるのだが,レーザー誘起衝撃波の場合は与えられるエネルギーの総量が少ないため,サンプル自体が破壊されることは少ないようである.

そんなわけでレーザーで裏面を炙ることで超高温・超高圧が実現出来るので,これを使って極端条件下の物質の性質を調べよう,という実験が最近よく行われている.測定をどうやって行うのかというと,

・温度
瞬間的に圧縮され高温になると,当然ながら温度に依存した熱輻射を行う.もし超高速で撮影出来るカメラがあれば,サンプルから出てくる光を連続的に分析することで衝撃波面部分の温度変化が測定出来る.
(急速に圧縮が起こっている衝撃波面のすぐ後ろでは急膨張により温度が元の値に戻るので,輻射で見えてくるのは衝撃波面直後の圧縮されている部分だけ)

・衝撃波の速度
衝撃波の伝播速度からは,ちょろっと演算してやることでその状態での音速との関係が出る.音速やその分散からは圧力に対する物体の応答,つまり圧縮率が求まる.そんなわけで重要な「衝撃波の速度」であるが,測定にはドップラー効果が用いられる.
衝撃波は,サンプルの裏面から表に向かって抜けてくる.もしここでサンプルが透明であったなら(透明でない場合にも別な手法で測定出来るのだが,今回それは省略),表面からレーザーを斜めに照射して,衝撃波面で反射してくるレーザーを取り出すことが可能である.衝撃波面でなぜ反射されるかと言えば,そこでは物質がものすごく圧縮されているので密度が衝撃波の前後で大きく変化しており,屈折率の違う界面での反射が起こるわけだ(空気からガラス板に入射した光が一部反射されるのと同じ).この反射光の波長を測定すると,それはドップラーシフトを示す.衝撃波が表側に近づいてくる速度が速ければ速いほど,ドップラー効果は大きく波長は短くなるわけだ.といっても波長を直接高速に測定するのは大変なので,この反射してきたレーザーを2本に分け,違う経路で飛ばした後再結合,そこに生じる干渉縞を超高速のカメラで撮影する.干渉縞の間隔は波長に依存して変わるので,これによって波長の変化=ドップラー効果の大きさ=衝撃波面の速度が測定出来るわけだ.

これら二つの物理量と,そして衝撃波面に相当する部分での物質中での粒子の速度(これは別の実験や,結果のフィッティングから求まる)を使い,さらに運動量保存則,エネルギー保存則,衝撃波速度と粒子速度と密度などの関係式といった基本的な等式を用いることで,物質の比熱やら弾性率やら何やらの物理量を算出することが可能になる.つまり,
実験 → 衝撃波速度・温度・粒子速度が求まる → その他のいくつかの物理量が計算出来る
という流れとなる.
なお,測定に必要な「超高速のカメラ」というのはストリークカメラと呼ばれるもので,まあオシロスコープに近い代物だ.例えば平面(XY平面)の検出器に対し,ライン状(Y軸に平行)の入力光を与える.このラインが検出器に当たる位置をX軸方向に高速に掃引すれば,縦軸が位置,横軸が時間という2軸に分解された結果が撮影出来るわけだ.オシロスコープでは縦軸が値,横軸が時間方向を高速掃引したものなのだが,ストリークカメラでは縦軸は空間方向,横軸は時間方向,検出器の反応量が値になる.

今回著者らはこの実験を絶縁性の透明な固体である酸化マグネシウム(MgO)に適用した.MgOは惑星の核などに多く含まれている(と考えられている)物質であり,さらに理論計算によればスーパーアースや木星型惑星内部では導電性の固体へと相転移を起こしていると予測されている.これらの惑星内部では,超高温・高圧により生じた金属性のMgOもダイナモ効果を通じて強い磁場に寄与している考えられているのだが,現在までの高温・高圧実験ではMgOの金属化は確認されていなかった.

さて,そんなわけで著者らが実験を行ったところ,0.45 TPa(9000 ℃程度)に一つ,0.65 TPa(14000 ℃)あたりにもう一つの比熱の異常(圧縮圧力が上がっているのに,あまり温度が上がらない=何らかの転移にエネルギーが使われている)が発見された.なお今回の実験では,ある固定されたレーザーパルスで衝撃波を起こしているので,圧力と温度は独立には制御出来ない(圧力を上げると,圧縮に猛烈にエネルギーが投入され同時に温度がもっと上がる).
理論計算と突き合わせると,最初の転移は通常のMgOの固体相からもう一つの別の固体相への転移(理論予測:0.33 TPa,8100 ℃),次の転移がこの「別の固体相」の液体への融解(理論予測:0.6 TPa,13600 ℃)と考えられる.この「別の固体相」に関しては,最初の転移以上の圧力領域では反射率が大きく増大していくことから,恐らく理論予測通り金属的な状態になっているのだろうと推測している.

今回の実験で示されたように,レーザー誘起衝撃波による超高温・高圧実験は今後様々な極限状態の研究で面白い結果を出していくことだろう.特に物性物理の聖杯の一つである「金属水素」の研究にも最近用いられており,こちらの方でも朗報を期待したい.

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