phasonの日記: 生物兵器で武装したテントウ虫
"Invative Harlequin Ladybird Carries Biological Weapons Against Native Competititors"
A. Vilcinskas, K. Stoecker, H. Schmidtberg, C.R. Röhrich and H. Vogel, Science, 340, 862-863 (2013).
外来種の繁殖による既存の生態系の変容はなかなか困った問題である.今回の論文で著者らが取り上げているのは日本(を含むアジア)では一般的なてんとう虫の一種であるナミテントウなのだが,これは現在ヨーロッパ各地で一気に勢力を伸ばし,元々のナナホシテントウ系のてんとう虫が数を大きく減らしている.なおこのナミテントウ,アブラムシなどをよく補食することから「自然に優しい生物農薬」ともてはやされてあちこちで導入されたあげく,最終的には外来種として猛威を振るっているのだからどうしたもんだか.
閑話休題.
このナミテントウ,侵入先でなぜここまで繁栄できているのか?という点には謎が多く,様々な研究が行われている.というのも,ナミテントウに非常に近い(が,別の)種では,ここまで猛威を振るっていないからだ.ナミテントウだけに限定的な「何か」があり,それが繁栄を助けていると推測されている.
例えば今回の著者らが以前に見つけたのは,ナミテントウは体内である種の非常に強力な抗菌性物質(ナミテントウの学名であるHarmonia axyridisより,harmonineと名付けられる)を生産しており,これが他地域に行った際にも現地の菌類に対し強い免疫として働き生存を助けている,という事実などである.
今回報告されているのは,ナミテントウはこの防御のためのharmonineに加え,現地の代表的なてんとう虫であるナナホシテントウに対抗するための「生物兵器」まで備えていた,という発見である.
ヨーロッパに元々広く生息しているナナホシテントウは,他のてんとう虫類の卵や幼虫なども捕食することが知られている(餌が少なければ,ナナホシテントウ同士の共食いもする).ところが,ナナホシテントウがナミテントウの卵や幼虫を食べるとその後死んでしまう,という現象が発見されていた.逆に,ナミテントウがナナホシテントウの卵や幼虫を食べても特に何も起こらない.つまり,ナミテントウは体内に何らかの毒を蓄えている事が推測されたわけだ.この毒は競争相手であるナナホシテントウを減らす方向に働くわけだから,外来種のナミテントウが圧倒的な繁栄を見せている原動力の一つだと考えられる.この「毒」の正体がなんなのかに関しては,harmonineがそうなのではないか?という主張も行われていた(卵の中にかなりの濃度で入っていることが発見されていた).
著者らはこの「毒」に関して正体を突き止めるべく実験を重ねた.その結果まず,合成したharmonineを注入した卵をナナホシテントウに食わせても死なないこと,その一方でナミテントウの卵から抽出した液体を注入した卵の場合はナナホシテントウが死ぬことを突き止めた.ナナホシテントウを殺していたのは,hemonineではなく別な何かだとわかったわけだ.
続いて著者らは,ナミテントウの卵を顕微鏡により詳細に調査した.すると,ナミテントウの卵の内部には莫大な数の微胞子虫(菌類の仲間の単細胞生物)の一種が発見されたのだ.微胞子虫は昆虫を含め様々な生物に感染できる病原体であるが,どうもナミテントウ自体はこの内部にいる微胞子虫への耐性が確立されているらしく,かなりの数を抱え込みながらも健康に生きていけるらしい.
では,この微胞子虫がナナホシテントウを殺す原因なのだろうか?著者らはナミテントウからこの微胞子虫を抽出し,ナナホシテントウに投与することにした.その結果,微胞子虫をそのまま投与されたナナホシテントウはかなりの割合で死亡し,その一方で微胞子虫を一度熱処理して殺したものを投与しても大した影響を与えなかった.
これらの実験結果から,著者らはナミテントウの卵や幼虫が持つナナホシテントウに対する毒性は,体内に飼って(共存して)いる微胞子虫によるものであり,ナナホシテントウがナミテントウを補食するとそこから微胞子虫に感染しナナホシテントウが死ぬというメカニズムである,と結論している.
つまりナミテントウは
・未知の病原体から身を守るための強力な抗菌剤であるharmonine
・競争相手を倒すための強力な武器である微胞子虫
の二つで武装していたわけだ.
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