phasonの日記: 折りたたみに失敗した蛋白質に付けられる「不良品」タグ
"Futile Protein Folding Cycles in the ER Are Terminated by the Unfolded Protein O-Mannosylation Pathway"
C. Xu, S. Wang, G. Thibault and D.T.W. Ng, Science, 340, 978-981 (2013).
タンパク質はアミノ酸が無数に繋がった構造からなっており,正しく折りたたまれる(フォールディング)ことで特定の3次元構造となって機能を発揮する.しかしながら,巨大なタンパク質などでは折りたたまなければならないアミノ酸は非常に多く,「可能な折りたたみ方」は数え切れないほど巨大な数になる.このため,タンパク質が誤った別の3次元構造へと折りたたまれてしまうことがしばしば発生する.
誤った構造に折りたたまれたタンパク質は単に機能を発揮できないだけでは無く,時として有害性を持つ.例えばアルツハイマー等との関連が疑われているアミロイドや,各種プリオン病の原因となる異常プリオンなどは,まさにこの「誤った構造に折りたたまれたタンパク質」である.
このため生物の細胞内には,タンパク質の正しい構造への折りたたみを支援するための多種多様なタンパク質(シャペロン)が用意されている.例えば凝集しやすい異常タンパク質にくっついて溶解度を上げるシャペロンだとか(溶液中ではフレキシビリティーが高くなるので,正しい折りたたみ方に戻る可能性が上がる),おかしなねじれ方をした部分を元に戻すシャペロンなどが存在する.
しかしながら,あまりにもおかしな構造に折りたたまれてしまったタンパク質は,正しい構造に戻すのが困難な場合も多い.このような「なかなか正しい構造にならないタンパク質」にかかり切りになってしまうと,数に限りのあるシャペロンをそこに貼り付けておかなければならずに無駄であるし,折りたたみの修正にもエネルギー(細胞内通貨であるATPなど)を消費する.そこで「あまりにも長時間,正しい構造にならないタンパク質」には見切りを付け,廃材としてばらして原料に戻してしまうプロセスが細胞内には存在している.このプロセス,非常に重要であるにもかかわらず,現在までのところその詳しい実体は謎に包まれたままである.
今回著者らが報告しているのは,この「ダメなタンパク質」に対し「こいつはダメだから,もう諦めて分解に回すように」と指示するためのタグ(と思われるもの)を発見した,というものである.
著者らは実験において,緑色蛍光タンパク質(GFP)を含むタンパク質を作るようにした細胞を用い,それが間違った折りたたまれ方をしたり,なかなか正しい構造に折りたたまれなかった時にどのように分解されていくか,を観察した.もともとGFPは折りたたまれにくい分子であることが知られており,折りたたみの試行錯誤が何らかの「閾値」を超えれば,「ちゃんと折りたたまれなかった不良品である」として分解に回される可能性が高い.比較のために,GFPの仲間だが折りたたみが速いタンパク質も用いて実験を行っている.なおこれらのタンパク質は,正しく折りたたまれると緑色の蛍光を発する.
実験の結果であるが,速く折りたたまれるGFPに比べ,なかなか折りたたまれないGFPは正しく折りたたまれる割合が低かった.これはまあ,「長いこと正しく折りたたまれなかったタンパク質は分解に回される」という点から見てもごく普通の結果である.
では正しく折りたたまれなかったGFPはどうなったのかというと,タンパク質自体は残っているのだが,それらはそのまま長時間放置してもそれ以後折りたたまれることは無かった.つまり,何らかの手法で「こいつはもうダメだから,これ以上折りたたむ努力はしなくて良い」というタグ付けが行われていることを強く示唆している.
この「タグ」の正体はなんだろうか?著者らが注目したのが,セリンやトレオニンといった水酸基(R-OH)を持つアミノ酸で起こるマンノース修飾である.マンノースというのは糖の一種であるが,誤った折りたたみをしたタンパク質において,セリンやトレオニンの水酸基がマンノースで修飾されたもの(R-O-マンノース)がこれまでにいくつか見つかっていた.そこから著者らは,「このマンノース修飾は,『このタンパク質はあまりに変な形に折りたたまれているので,修復作業はしなくても良いですよ』というタグとして取り付けられたのでは無いか?」と考えたわけだ.
この仮説を確かめるため,著者らは改めていくつかの実験を行うことにした.
マンノース修飾は,pmt1およびpmt2と呼ばれる酵素によって引き起こされることが知られている.そこで,これらの片方,または両方をノックアウトした細胞を用い,折りたたまれにくいGFPがどの程度生き残れるか,をチェックしたのだ.
前述の通りGFPは折りたたみに時間がかかりすぎるため,途中で「こいつはどうも正しく折りたたむのは無理そうだ」と判断され謎の「不良品タグ」を付けられる確率が高かった(正しく折りたたまれるものが2割弱,残りはタグ付けされる).
ところが,pmt1/2の片方をノックアウトした場合にはGFPの生存率がやや上がり(2-3割程度),両方をノックアウトした場合には6割程度が正しく折りたたまれ蛍光を発したのだ.
これはつまり,pmt1/2をノックアウトすると,GFPが正しく折りたたまれるまで時間がかかったとしても「不良品タグ」が取り付けられない事を意味している.そのためシャペロンやら何やらは長時間だろうが何だろうがGFPの折りたたみに挑戦し続け,ついには正しく折りたためたわけだ.
要するに,折りたためなかったタンパク質に付けられる「不良品タグ」が,マンノース修飾(これはpmt1/2により行われる)であることを強く示唆している.
さらにだめ押しの実験として,細胞中で折りたたまれなかったGFPを抽出,それをさらに「マンノース修飾されたもの」と「マンノース修飾はまだされていないもの」へと精製した.それぞれの再折りたたみの様子を調べたところ,「マンノース修飾されたもの」は時間をおいても折りたたみは進行しなかったのに対し,「マンノース修飾されていないもの」は時間をかければきちんと折りたたまれ,蛍光を発することが確認された.
まとめると,
1. 長期間折りたたまれないタンパク質には,「不良品タグ」が取り付けられ,それ以上の折りたたみの試行は停止される.
2. タグの正体(の一つ)として,マンノース修飾の可能性が高い.
傍証1:マンノース修飾が起こりにくい条件を作ると,長時間の折りたたみにおいても「不良品タグ」は取り付けられない
傍証2:一度マンノース修飾されたものは,放置しても折りたたみは進行しない
となる.
どうやって折りたたみが長時間かかっていることを認識しているのか?とか,マンノース修飾がどのようにしてそれ以上の試行を停止しているのか?などまだまだ今後の課題も多数残っているが,謎の解明のための糸口はつかめたのかも知れない.
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