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日記

phasonの日記: 原始惑星系円盤における偏心したデブリ分布は,惑星の証拠とは限らない 2

日記 by phason

"Formation of sharp eccentric rings in debris disks with gas but without planets"
W. Lyra and M. Kuchner, Nature, 499, 184-187 (2013).

恒星が出来たばかりの原始惑星系においては,恒星の周囲を多数の塵や微惑星が周回していると考えられている.我々の太陽系外園に広がるカイパーベルトも,この塵・微惑星の名残であろう.微惑星は衝突を繰り返し,時として惑星へと成長する(と考えられている).塵の円盤の中に惑星が生じると,恒星の周りを何度も周回する間にその軌道の周囲の塵・微惑星に重力による摂動を与え,結果として軌道上から他の天体(塵や微惑星)を排除しリング状の空隙を作ることとなる.また惑星は多量の質量が一点に集まった存在であるため,きれいな回転対称性を持っていた塵の円盤から見ると非常に対称性が崩れた存在である.そのような「偏った重力源」からの摂動は塵・微惑星の円盤を変形させ,偏心した構造(分布の重心が,恒星からずれた位置となるような構造)を生み出すと考えられている.例えばフォーマルハウトにおけるずれた塵の分布は惑星が存在する証拠では無いか?と考えられているし,最近TW Hydraで見つかった原始惑星系円盤の空隙も惑星によるものだろうと推定されている(こちらは主流の惑星形成理論との齟齬が話題になった).

ところが,である.今回の論文で著者らは,「原始惑星系円盤に偏心的な分布があったからって,惑星がいるとは限らないんじゃ無いの?」という事を示して見せたのだ.
話は2005年に遡る.ある研究者らが,「原始惑星系円盤においてガスの影響を考えると,塵は自発的に構造が不安定化してリング状に変形する」という事を指摘した
どういうことかを簡単に説明しよう.原始惑星系円盤の挙動を扱う際には,無数の塵の運動を微小な質点の運動として扱ったり,流体としてまとめて扱ったりしている.しかしながら,原始惑星系円盤においては塵以外にも各種の気体が存在することが知られている.これらの気体はもともとあった気体分子であったり,塵同士の衝突によって放出されたり,恒星からの輻射により塵の表面が気化して生まれたりしている.この気体を含めて考えると,実際の原始惑星系円盤における塵というのは,「(薄い)気体の充満した空間中を,その抵抗を受けながら運動する無数の粒子」として扱う必要があることがわかるだろう.もちろんこれまでの研究においてもこの抵抗の効果を組み込んだ研究は山ほどあったのだが,それらにおいてはこの「気体」を,単なる背景(ある濃度で静的に存在し,抵抗を与えるガス)として扱っていた.2005年の論文が指摘したのは,そのような取り扱いでは不完全である,と言う点である.
原始惑星系円盤に存在する「気体」は,塵に抵抗を与える.塵は「気体」に比べ恒星からの輻射を良く吸収するため,塵の近くに存在する気体は 恒星 → 塵 → 気体 という流れで多くのエネルギーを吸収でき,温度が上昇し圧力が上がる.圧力の高い気体はより多くの抵抗を塵に与えるため,塵はどんどん集まり,集まれば集まるほど気体の温度は上がり圧力を増し,と正のフィードバックがかかる.2005年の論文で示されたのは,こういった正のフィードバックを考慮すると,ガスと塵が均一に混ざっていた円盤から,自発的に塵の濃い領域と薄い領域が発生する,という点である.

そして今回の論文だ.今回の論文の著者らは,この2005年の論文に基づき,気体存在下での塵の挙動をシミュレートし,単なる空隙やリングだけで無く,偏心した構造までも現れることを示して見せた.シミュレーションとしては,3次元メッシュにおいてガスおよび塵を性質の異なる2種類の流体として扱い,両者の間の熱交換(塵が輻射を受け気体が加熱される効果)と抗力(気体の抵抗で塵が引きずられる効果)を取り入れたものと,2次元座標系で塵をちゃんと質点として扱ったもの(気体は流体として導入),の2種類を用いている.
その結果であるが,まずは3次元メッシュでのシミュレートから,気体濃度の高い領域では自発的な不安定化が存在し,勝手に密度の高いところ・低いところに分離することが確認された.これはまあ,以前に報告されている論文の結果を確認するものだ.
続いてこのような自発的な不安定化を示す気体濃度の領域で,塵をちゃんと粒として扱う2次元版のシミュレートを行った.原始惑星系円盤はまず,自発的な不安定化により幾本ものリング状構造へと分離することが確認された.惑星などが無くてもリング&空隙が生じるのだから,(以前の論文で指摘されているように)リングが出来ていたとか明確な空隙があったと言うだけでは惑星の存在証明にはならないわけだ.
さらに系の時間発展を進めると,生じたリングはまるで円形の弦であるかのように振動を始める.安定にリングが存在する条件を見てやると,この振動は軌道の周回と同期しているようだ.例えば一番単純な振動で言えば,リングの「右側」にいる時に恒星に近い方に変位して,逆の「左側」に動いていった時にちょうど恒星から遠ざかるような振動だ.リングの一部だけを追跡してみていくとちゃんと振動なのだが,リング全体で見るとこれは「リングそのものが,ちょっと左にスライドした」と見ることも出来る.つまり偏心したリングであり,これまでは「惑星が存在する証拠」だと考えられていた構造と一致する.
なおこういった構造は,気体による抗力をゼロにすると発生しないので,気体との相互作用が重要であることは確認されている.また単なる流体としての不安定性よりも,塵を通した気体の加熱の効果が大きい事も確認済みだそうだ.

そんなわけで著者らはこの論文で「空隙だの偏心した構造だのそれなりに離心率のある構造だのが出ても,それだけで惑星の証拠とするのは早計じゃない?」と示したわけだ.もちろんこれまでにいくつか見つかっている「多分惑星だろうという系」に対し,「惑星じゃ無い」と言っているわけでは無く,「チェックしないと,確定することは出来ないよね?」と指摘しているので誤解無きように.提言としては,「原始惑星系円盤の観測においては,ガス密度を何とか見積もるとか,そういう観測手法の開発がいるんじゃない?」というニュアンスの事を述べている.
(なお,原始惑星系円盤とは関係ない,十分成長しきった恒星系における惑星発見の話には基本的には関係ないので,これまで多数見つかっている系外惑星の多くにはあまり関係ない)

こうなってくると,原始惑星系円盤からの惑星検出がなかなか難しい事になってくるので,やってる人は大変そうである.

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