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日記

phasonの日記: 簡単な構造で実現できる音ダイオード構造 8

日記 by phason

"Sound Isolation and Giant Linear Nonreciprocity in a Compact Acoustic Circulator"
R. Fleury, D.L. Sounas, C.F. Sieck, M.R. Haberman and A. Alù, Science, 343, 516-519 (2014).

電流を一方にしか流さない素子であるダイオードは非常に多くの場所で使われているし,光学的なダイオードの類似物である光アイソレータ(一方向に光を通し,逆には通しにくい)も非線形光学効果や磁気光学的な効果などを使うことで実現されている.
その一方で,同じような波による物理現象である音に対しては,一方向にのみ音を通すいわば音のダイオード的なものの開発は難航している(*).

*音の非線形効果を使ったりした実験はあるが,効率が悪かったり大がかりな装置が必要.

今回報告されたのはこの「音版のダイオード」を,非常に単純な構造を使って実現した,というものである.
原理を説明するためにまず,ドーナツ型の空間を考えてみよう.この空間内の一点から音を発するとする.まずは簡単のために一定の周波数の音が鳴り続けているとしよう(音が戻ってくるまでの時間が短ければ,この条件はほぼ満たされる).この音は当然右回りと左回りに進んでいくのだが,空間が馬鹿みたいに広くない限りは減衰しながらも音は一周してきてまた元の場所へと戻ってくる.戻ってきた音は出発点で発されている音と干渉するので,一周するのにかかる時間とその音の振動数の組み合わせにより,ぐるっと回る音が強めあったり弱め合ったという事が起こる.
では次に,このドーナツ状の空間内に右回りの風が吹いていたとしよう.音を伝える媒体が右回りに動いているのだから,右回りに進む「音」の実効的な音速(外部から見た進む速度)は当然早くなる.逆に,左回りの音は遅くなるわけだ.すると,音の発生源から右回りに音が進むか,左回りに進むかによって出発点に戻ってくるまでの時間が変わってくる.という事はすなわち,出発点に戻ってきた瞬間に波が強め合うのか弱め合うのかが,右回りの音と左回りの音で違う場合が出てくるわけだ.波長と風速の関係をうまく選べば,右回りの音だけが干渉で強めあって,左回りの音は干渉により格段に弱くなり,という事が可能になる.

これを使ったのが今回の著者らの実験である.
まず,分厚い六角板状の金属ブロック(蓋は取れる)の中にぐるりと円形の溝(というか,トンネルというか)を掘ったものを用意する.Supplementary MaterialのPDFファイル中のFig. S1を見ていただけるとどんなものかがわかるだろう.この六角形の各辺をとりあえず上,右上,右下,下,左下,左上と呼ぶことにする.トンネルの内の左上,右上,下の3つの方向にはCPUファンを3基設置し,このトンネル内に風を流せるようにする.風速はCPUファンに流す電流でコントロール可能である.残りの3方向である上,右下,左下の3辺には穴が空いており,外部と音のやり取りが可能となっている.
実験は単純であり,音を上方向から入れ,右下および左下それぞれからどの程度音が出てくるかを観測する.風が全く無い状態では,当たり前の話だが上から入った音は右下と左下から同じだけ出てくる(何せ右回りも左回りも対称だ).次に右回りの風を起こすことで右回りと左回りの音速に差をつけ,右回りの音は強め合い,左回りの音はちょうど弱め合うようなセッティングとする.
するとどうなるか?左回りの音は一周すると自分自身と干渉して弱め合ってしまうので,あまり存在できない.一方右回りの音はちょうど強め合う干渉となっているので,元気に右方向へと進むことが出来る.その結果,このトンネル内では右方向に進む音ばかりが存在するようになる.さらに,音はどうしても進む間に減衰を起こす.そのため,上から入った音が右回りに移動していくと,最初に出会う右下方向の出口にさしかかった時にはまだ十分な強さがあるものの,さらに進んだ左下方向の出口では音はかなり弱くなってしまっている.この結果,上から入れた音は,右下からは出てくるが左下からはほとんど出てこない.今度は右下から音を入射すると,右回りに少し行った左下からは出てくるものの,上方向からはほとんど出てこない.つまり,上 → 右下へは音が伝播するのに,右下 → 上へは音が伝わらないという,音のダイオード的な構造が実現できたわけだ.
ちなみにA → Bでの音の強さとB → Aでの音の強さの比(順方向と逆方向での音の伝わりやすさの比)は40 dB程度まで行ったらしい.結構良い値である.

何というか,凄まじく単純かつ明快な構造である.こんなもんで(特定の波長用とは言え)音版のダイオードが出来るってのは,これまでの様々な研究での検討は何だったのかと言いたくもなる.
この構造,波長と同程度かそれより小さいぐらいのサイズで実現できるところもポイントで,さらに流体を加速するポンプかファンがあれば良いという単純さ.流体の速度を変えるだけで(ある程度の幅で)一方通行になる音の波長も変えられる.
何に使えるのかはさておき,アイディアの勝利と行ったところか.

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あと、僕は馬鹿なことをするのは嫌いですよ (わざとやるとき以外は)。-- Larry Wall

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