phasonの日記: ベテルギウス,球殻状構造の謎 1
"Interacting supernovae from photoionizationconfined shells around red supergiant stars"
J. Mackyey et al., Nature, 512, 282-285 (2014).
ベテルギウスは地球のかなり近傍に存在する赤色巨星であり,まもなく超新星爆発を起こすと見られていることなどから注目を集めている恒星である.まあ,「まもなく」と言っても天文学的スケールではまもなく,であるので,我々が生きている間に爆発する可能性は非常に低いと見られている(*).
*最近の研究では,ベテルギウスは赤色巨星化してから比較的若い恒星であると考えられている.ここ最近見られた大きさや輝度の大きな変化も,(爆発寸前だから起こる不安定さではなく)若いがゆえの不安定さだという意見もあり,超新星爆発は数十万年後と見られている.
そんなベテルギウス,赤色巨星であるために膨大な量のガスを噴出しており,その量は年間で地球1~数個分もの質量に相当する.この膨大な量の恒星風はベテルギウスを中心に広がり,やがて星間ガスと衝突して急速に減速する.この超音速の拡散から亜音速への減速面は衝撃波(末端衝撃波面)であり,バウショックと呼ばれている(太陽系にも存在している).
ベテルギウスのバウショックは最近になって詳細な観測が行われ,非常に鮮明な画像が得られている.画像中央やや左寄りに見える弧状の部分がそれであり,さらに左側にある壁状の構造は詳細不明な星間ガスの集合体である(銀河の磁束か何かにトラップされた星間ガスではないか?とも言われている).ベテルギウスは周辺の星間ガスに対し非常に速い相対速度で画像の左向きに進んでいるので,バウショックは右に尾を引く楕円状の形となっている.
さて,ここで問題になるのが画像中央のベテルギウスを包むように存在する球殻構造である.この球殻構造は非常に密度の高い水素などのガスで出来ている事,そのガスの総量が太陽質量の1割弱程度という膨大な量であることはわかったのだが,何故このような構造が発生するのかは謎であった.定常的な恒星風と星間ガスとの相互作用だけを仮定すると,このような二重構造(内側の球殻と,外側の歪んだバウショック構造)は発生できない(ぶつかる部分にバウショックが一つ出来るだけである).何らかの突発的な爆発により多量のガスが放出された可能性もないではないが,原子からの輝線のドップラーシフトの測定によればこの球殻構造はベテルギウスに対してほぼ静止していることが明らかとなり,過去に起こった爆発で濃厚なガスが放出されたと言うモデル(当然,ガスは高速で拡散していく)とは一致しない.恒星進化や燃焼のモデルに何らかの修正が必要なのかどうなのかを含め,議論が重ねられていた.
今回報告されたのは,この球殻状の構造が,他の恒星などからの宇宙線や光によるイオン化&加熱を考えると既存の枠組み内で非常によく説明できる,というものである.
ベテルギウスのようなかなり重い星が出来たことからもわかるように,このあたりの宙域にはかなりの量のガスが存在していたと考えられる.このためベテルギウスの周囲にもそこそこ多い恒星が存在しており,ベテルギウス周辺はこれらからの輻射や宇宙線を受けている.ベテルギウスから吹き出した恒星風にこれらの輻射が当たると,原子はエネルギーを吸収してイオン化し,吸収したエネルギーの分だけ温度が上昇する.これにより,恒星の周囲には(比較的)温度の低い中性原子からなる恒星風が外に向け吹き出している内部領域と,外部からの輻射により加熱・イオン化した高温の外層が生じるはずだ(外界からの輻射は比較的外側の領域でほとんど吸収されてしまうため,あまり内側までは浸透しない).著者らはこの効果を含めて何が起こるのかを調べるため,簡略化したモデルを用いて計算を行った.計算では,内層部分の中性原子ガスの温度はほぼ一定で100 K程度,外層のプラズマ化した部分の温度は遠方で10000 K(プラズマの温度としてはまあこんなものだろう)になるようにし,その間では両者のガスの混合により連続的に温度が変化するようになっている.中心の恒星からは均一な恒星風により低温のガスが供給され続け,外側からは輻射により加熱のためのエネルギーが加えられ続けて行く.輻射による加熱量や吹き出ている恒星風の量などはこれまでの様々な恒星等の観測からまあ妥当だと考えられる範囲の値が用いられている.
このようなモデルで計算を行ったところ,内層の低温中性ガスと外層の高温プラズマとの間に,ベテルギウスにおいて観測されたような濃厚でほぼ静止したガスの球殻が生成することが再現された.要するに,中心からはどんどん恒星風が吹き付けられ,外側では輻射によるイオン化で高温になったガスの圧力が増して膨張しようとする,するとその間となる領域が両側から押しつぶされ,ほぼ静止した巨大な球殻なる,と言うわけだ.
そこそこ妥当なパラメータの範囲内で調整してやると,ベテルギウスにて実測されたような半径が0.12パーセク弱で周囲のガスの速度が14 km/s,挟まれた球殻状の領域ではガス速度がほぼゼロ,という観測結果をきれいに説明することにも成功している.
また,この球殻の質量は時間とともに増大していく事が予想され,ベテルギウスのように本体の質量が太陽質量の20倍程度ある恒星の場合,最終的には太陽質量の4-7倍という膨大な量のガスが恒星を包む球殻状に集積されることも明らかとなった(当然,中心にある恒星からの恒星風が減れば平衡が崩れて蓄積されているガスの量は減少する).現在の観測では蓄積されているガスの量は太陽質量の0.09倍程度であるが,これはベテルギウスが多量の恒星風の噴出を始めて(=赤色巨星になって)からまだ日が浅く,ガスが十分蓄積されていないことを示唆している.今回のモデル計算からは,ベテルギウスが赤色巨星化してからおよそ30-50万年程度であると推測される.ベテルギウスの質量からすると赤色巨星化してからの寿命はおよそ100万年と考えられているので,超新星爆発が起こるのは50万年以上先と見られる.これは他の観測結果とも大きくはずれていない.
(計算はかなり粗いので多少のずれはあるだろうが,若いことは言えそうである)
何というか,温度やら圧力やらで(最大で)太陽質量の数倍なんて言うとんでもない球殻構造が出来るだとか,非常に面白い話である.さすが宇宙のスケール.
あわてることなかったんだ (スコア:0)
たしか合体戦艦ムサシのコミックスかなんかで
ベテルギウスのほうから来た侵略者がいたような記憶があるんだけど
あのへん、絶版マンガ図書館に入ってこないかなぁ…