phasonの日記: シルバーアントの毛は優れた反射・放熱に寄与する 5
"Keeping cool: Enhanced optical reflection and heat dissipation in silver ants"
N. N. Shi et al., Science, in press (2015).
よく知られたように,サハラ砂漠は非常に過酷な環境であるが,多種の生物が存在し独特の生体系を形成している.とはいえ,日中は温度が45 ℃を超えるような事も多いため,ほとんどの生物は地中や岩陰でひっそりと息を潜めているのが普通である.そんな中,日中の砂漠を闊歩し,餌を探し回る生物が存在する.シルバーアント(Saharan silver ants)だ.
このアリは全身が極細の「毛」に覆われており,それが光を散乱することで金属光沢のような反射を示す.これが日光による加熱を防いでいるとされる.また,巣穴から出る際に熱ショックタンパク質(熱により変性したタンパク質を戻す効果があり,細胞の熱耐性を挙げる)をあらかじめ量産しておくことで高温への耐性を上げ,外気温が48~51 ℃程度の温度であっても活動し,餌を探すことができる.ある程度複雑な構造をもつ生物としては,この耐熱性はトップクラスであろう(*).
さてそんなシルバーアントの反射を担っている毛に関し詳細に調べた研究が今回の論文である.
(*)休眠状態でならより高温に耐える生物も居るが,この温度で活動できる生物はほぼ存在しないと思われる.なお,体の一部がこれ以上の高温の環境に接しているものなどが存在するが,体の他の部分が冷たい場所に接していてしっかり放熱できているため自身の温度はもっと低くなっていたりする.
著者らがシルバーアントの毛を電顕で詳細に観察したところ,一辺が1~2 μm程度の三角柱状の構造を持っていることが判明した.その三角柱は一つの面を体に向け,他の2面が外向きに位置するような配置となっているのだが,体に向いた側の表面は平坦になっており,外部側に向いた2面には長軸方向にほぼ平行に細かな凹凸(間隔は100-200 nm程度に見える)が走っていた.いわばレンチキュラーレンズのような構造になっていることも明らかとなった.
この面は凹凸がある→ △ ←この面も凹凸がある
(こちら側がシルバーアントの本体側)※下面には凹凸が無く平坦
この構造は,日中に降り注ぐ太陽光を反射するのに非常に効率的な構造であると言える.
まず一つ目として,毛や表面の凹凸のスケール(それぞれ1-2 μmと100-200 nm)が,太陽光の大部分を占める可視光(およそ350-800 nm)および近赤外(800 mn-2.5 μm)と同程度となっていることが挙げられる.
波長と同程度から数倍程度のサイズというのはミー散乱がそこそこ効いてくるサイズであり,粒子による散乱が大きくなる.もちろんこれ以上に大きな粒子であっても散乱は強いのだが,そうすると体積に占める散乱箇所(界面)の数が少なくなるため,「粒子一つあたりの散乱」は大きくなっても,「ある体積中の粒子全部での散乱」は小さくなってしまう.つまり,シルバーアントの毛は太陽光を散乱するのに都合の良いサイズになっていると言える.
次に,体から遠い側の二面だけが表面に凹凸を持ち,体に向いた側が平坦な点もポイントだ.外部から入射した光は,外側の面(=細かな凹凸がある)によって効率的に多方向に散乱され,毛の内側に透過してくる光は少ない.
透過してきた光は体の方を向いた平坦な面を通って毛の外へと抜けていくのだが,この時いわば「水面での反射」と似たような事が起こり,光の一部は上方へと反射されてシルバーアントの本体へは到達しなくなる.もし体の方を向いた面まで凹凸があれば,そこでさまざまな方向へ散乱され,結果としてシルバーアントの体まで光が抜けていく量が増えてしまうわけだ.
そして今回判明した最も興味深い点が,赤外線の反射率の低さである.
外部から来る光を反射するような構造は,同時に内部から来る光を外に出しにくい,という事でもある(出て行けるなら,同じルートを逆進する光が入ってこられる.よって入って来られないのなら,出て行けない)(**).つまり,「単に光を全て反射する構造」を作ってしまうと,自分自身からの熱による輻射も遮断してしまい,輻射による放熱が行えなくなってしまうのだ.
(**)対流を使わずに輻射による放熱を行う系統のヒートシンク類では,表面をアルマイト処理するなどして反射率を落とす.これも,「反射率が高いと輻射が小さい」という事に関係する.
ではシルバーアントはどうなっているのか?著者らが反射率を測定したところ,可視光から7 μmあたりまでの波長では毛の存在により反射率が高くなっていた(=日光を良く反射する)のに対し,8 μm以上の長波長領域ではむしろ毛がある方が反射率が低くなっていたのだ.この長波長の赤外線は,室温付近(サハラ砂漠の気温程度も含む)の物体が熱輻射をするときの中心的な波長である.つまりシルバーアントの毛は,降り注いでくる日光は反射して熱せられるのを防ぐが,自分自身が出す長波長の赤外線に対してはむしろ反射せず,逆に反射率を下げて輻射を増やすことで放冷を促進する,という効果まであったわけだ(反射が少ない≒輻射が多い).
どうやってそれが実現されているのだろうか?
これもまた,毛のサイズと形状が絶妙な働きをしている.長波長の赤外線から見ると,毛のサイズは十分小さいため,もはや微細な構造による散乱はほとんど影響を与えない.その結果,この波長の赤外線にとって,毛のある領域は「ちょっと密度の小さい均一な物質」=「アリ本体より屈折率の低い物質」に見えている.しかも,三角柱状であるので,アリの体に近い側ほどする毛の比率が高い=屈折率が高く,アリから離れるに従い徐々に毛の比率が低い=屈折率が低くなる.
するとどうなるか?アリ → 外気と直接接していると,その間に屈折率変化の大きい界面が存在するので界面での反射が起こり,輻射効率が下がってしまう.
ところがアリ → 徐々に屈折率の下がる領域(三角柱状の毛) → 外気となっていると,屈折率が連続的に外気の値へと変化していくので,界面での反射が生じない.このためアリ本体からの輻射はスムーズに外部へと放出され,冷却が効率的に起こることとなる.
生物がナノ構造を巧みに利用しているというのは現在ではよく知られたことであるが,それにしても良くできている.単に反射だけでなく輻射のコントロールまで行うというのは素晴らしい.
また毛の話してる...AA略 (スコア:1)
タイトルはまあいいのですが。
熱というか光というか電磁波の浸透膜というかゴアテックスという話だと思いますが、
人為的な製品でなんかあったような気が...熱とか温度の文脈でなく...波長によって透過率が違うマジックミラー?。
#量子学的マクスウェルの悪魔...じゃないよな
生物のナノ構造(毛)でそれが実現されている事が画期的という事か。
もう某社(具体的には知らんけど)がアップを始めたというか走ってたりして。
そうだ、冒頭はマクラだと思うのですが、生物単体の熱容量と放熱量の比とか体液の熱粘性かな?あたりはスルーしといたほうがいいですか?昆虫の活動限界にそんなに気温関係するかな....活動量はそりゃ影響はあるだろうが。
#クマムシという例もありますし
##いや、それは例がおかしいだろう
###時期は未定なのですが、ガチで頭の良い人とガチで話ができる機会がありそうなので、練習というかトレーニングで書いてみました。それっぽく書けてますでしょうか?
#存在自体がホラー
Re: (スコア:0)
基本的に、温度が10℃上がると化学反応が2-3倍の速度に加速されます。そのため体内での反応のバランスが崩れ、適温から外れると生存に不利になります。
またタンパク質の折り畳みも影響を受けますので、高温での生存は困難です。
例えば乾眠状態のクマムシでも100℃強、活動状態なら50℃付近で死にます。
Re:また毛の話してる...AA略 (スコア:1)
なるほど、そういえば、主な構成物質はタンパク質でした。
#基本的な認識が落ちるというのはやっぱり素人ですね
#存在自体がホラー
Re:また毛の話してる...AA略 (スコア:1)
あと、ほんとの高温だとタンパク質の熱変性で機能が維持できなくなる...でしょうしね。
# そこまでのはなしではないかもだけど、体積が小さいと、局所温度で高温になる可能性はありそう。
M-FalconSky (暑いか寒い)
Re:また毛の話してる...AA略 (スコア:1)
忘れていました。回答頂き、ありがとうございました。
#存在自体がホラー