phasonの日記: ミミウィルスに存在した免疫系 1
Natureダイジェスト経由,
"MIMIVIRE is a defence system in mimivirus that confers resistance to virophage"
A. Levasseur, M. Bekliz, E. Chabrière, P. Pontarotti, B. la Scola and D. Raoult, Nature, 531, 249-252 (2016).
論文掲載時に見落としていたものだが,Natureダイジェスト経由で知ったので短めに紹介.
ミミウィルスと名付けられた巨大なウィルスが存在する.本体サイズにして0.4 μm,ゲノムで1.2 Mbと,下手な小型細菌よりも大きく,巨大な遺伝子をもつウィルスである.今回の著者らとそのグループは以前このミミウィルスを発見し,それ以後も「ミミウィルスに感染するウィルス」を複数発見したり,類似の巨大ウィルスであるマルセイユウィルスを発見するなど,この分野で精力的に活動を行っているグループだ.
このミミウィルスを初めとした巨大ウィルス類,無数の遺伝子をもっているだけではなく,その中には自身の複製に関与する遺伝子をいくつももっていたりする(*)など,通常のウィルスとはかなり異なることが知られている.さらに前述の通りミミウィルスに感染するウィルスが存在するなど(正確に言えば,アメーバに感染したミミウィルスが作成する,「ミミウィルスの量産工場」とでも言えるようなシステムに感染し,それを利用して増殖する),巨大ウィルスは「生物(細菌)と無生物(ウィルス)の境界は何なのか?」という部分に再考を促す面白い存在である.
*通常のウィルスでは,自身の複製に関してはほぼ全面的に感染した細胞の能力を利用している.しかしミミウィルスなどの巨大ウィルスでは,翻訳に関わる酵素の合成遺伝子など自己増殖に関する遺伝子をかなり保持しており,そういった意味でも「通常のウィルス」と「通常の細菌」の中間に位置するような,生命とウィルスの境界を曖昧にする存在であると言える.
さてそんな巨大ウィルスに関し今回報告されたのは,このミミウィルスがある種の「免疫系」をもっている,という驚くべき報告である.前述の通り,ミミウィルス(が,感染先であるアメーバ内で構築する自己複製システム)に感染するウィルスの存在が知られている.ミミウィルスには,この「自身に感染するウィルス」を食い止めるための免疫システムがあるというのだ.
いったんウィルスから離れ,原核生物の免疫システムを見てみよう.
原核生物にウィルスなどが感染すると,外来の遺伝子(DNAであったり,RNAであったり)が細胞内にばらまかれることになる.原核生物はこういった外来の遺伝子を検出する原始的なシステムをもっており,それらを裁断し,断片化された外来の遺伝子を自身の遺伝子のCRISPR領域に組み込むことで「記憶」する.こうして記憶されたDNA断片は転写されるとともにCAS酵素というDNAを切断する酵素に結合される.次に同種の外来遺伝子がやってきた際には,転写された断片がそれら外来遺伝子に素早く結合,隣接するCAS酵素により外来遺伝子は即座に裁断され無害化される.CRISPR領域に保存された敵の情報がいわば「抗体」として働き,パターンマッチングにより次からは素早く対処できるようなものだ.
著者らは,このCRISPR的な免疫システムをミミウィルスも備えているのではないかと考え,60株のミミウィルスの遺伝子配列を調べZamilon(ミミウィルスに感染するウィルスとしてよく知られている)の塩基配列(の断片)と一致する配列は無いか調査を行い,実際にそのような部位が存在することを発見した.さらにその近傍には,DNAをバラす酵素をコードしている部分が見つかり,原核生物におけるCRISPR-CAS系と同様,Zamilonのシグネチャと,それを見つけ次第破壊するための酵素からなる免疫系(の候補)が存在することが明らかとなったわけだ.
この部位が実際に免疫系として働いているのかを調べるため,著者らはこの部位をノックアウトしたものと野生型とで,Zamilonへの抵抗性に違いが出るかどうかを調べた.すると野生型ではZamilonのDNAが効率的に排除されたのに対し,CRISPR的な部分をノックアウトしたミミウィルスにおいてはこれらZamilonのDNAの排除がうまくいかず,感染が容易に進行することが明らかとなった.
このことから著者らは,ミミウィルスにおいても原核生物におけるCRISPR的な免疫システムが存在すると結論づけている.
この研究に対しては,ミミウィルスに免疫的なものがあるというのをきわめて明確に示したものとして評価する声が高いのだが,実際にどのように免疫系が動いているのかの詳細が現時点では全く明らかになっておらず,今後そのあたりを詰めるべきだろうという意見も述べられている.
そんなわけで,ミミウィルスの伝説がまた一つ.CRISPRの働きの解明がゲノム編集の有力なツールの開発に繋がったように,このミミウィルスの免疫システムからまた何か面白いものが出てきたりするのだろうか.
CRISPR大活躍 (スコア:1)
科学関係のニュースサイトとかtwitterとか、ここ一年ほど、CRIPSPRの単語が出てこない週が無いくらい。生物系化学は苦手方面なのでタイトルくらいしか見てなかったけど、巨大ウイルスとか化け物学まで進出してくるとなると、がぜん興味がわいてきました。