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日記

phasonの日記: 地球の核の熱伝導:矛盾する二つの結果

日記 by phason

"Experimental determination of the electrical resistivity of iron at Earth's core conditions"
K. Ohta, Y. Kuwayama, K. Hirose, K. Shimizu and Y. Ohishi, Nature, 534, 95-98 (2016).

"Direct measurement of thermal conductivity in solid iron at planetary core conditions"
Z. Konôpková, R. S. McWilliams, N. Gómez-Pérez and A. F. Goncharov, Nature, 534, 99-101 (2016).

地球の核は高温・高圧の極限状態となっている.例えば最も外側(液状化している外核の一番外側のあたり)ですら4000 K,百数十万気圧であり,内核(圧力により固体化している部分)の内側あたりでは6000 K,三百数十万気圧以上であると考えられている.このような極限状態で,核の主成分である鉄(実際には,これにニッケルと,少量のケイ素や硫黄や酸素等の他の元素が混ざる)がどのような物性値となるのかは,地球科学における重要な問題となっている.というのも,核(やその上部のマントル)における組成や構造,密度,粘性,そして今回の主題となる熱伝導率などは外核における対流に大きな影響を与えるためだ.
よく知られたように,地球の磁場は外核における熱対流が起源となっていると考えられている.自身の発生させた磁場中で導体である液状の鉄が運動すると,誘導電流が発生する.これが磁場を増強し,その結果また電流が……と連鎖した結果惑星の強い磁場が生まれる,というのがダイナモ理論の肝であるが,十分な磁場を発生するためには十分な対流が起こらなくてはならない.もし外核の熱伝導率が高ければ,高温側である内核との接触面と,低温側であるマントルとの接触面との間の温度が近くなってしまうため,内核側が相当熱くないと十分な対流が起こせなくなる.逆に熱伝導率が低ければ(=断熱性が高ければ),内核側がそれほど熱くなくても十分な温度差を作りだし,対流を起こすことが可能になる.

さて,そんな外核の熱伝導率であるが,近年の計算科学の進歩により,高温・高圧状態での熱伝導率の計算が行われるようになってきている.ところがそこから予想された値は,しばしばこれまでの推測値に比べかなり大きくなる事がわかってきた.もし本当に外核がそれだけ高い熱伝導率をもつのだとすると,内核の熱はかなり急速に外へと放出されることになってしまい,これまで考えられてきた以上に内核が急速に冷えていっている,という事を意味する.実は地磁気の研究から約13億年前に磁場の急増があったことが知られており,現時点ではこれは「核の冷却が進み,固体の内核がこの時点で発生したためではないか?」と言われているのだが,もし計算科学が予想するような高い熱伝導性が事実だとすると,内核の発生はもっと最近でなければならず(*),この磁場の急増の原因は別な何かに求めなくてはならない.

*現在のおおよその温度や,核からマントルへの放熱量は推定されている.もし熱伝導率が高かったとすると,核は今まで思っていた以上に急速に冷えてきている,つまり過去に遡っていくと,今まで思っていた以上に急速に熱くなっていく,という事になる.このため,内部が十分冷えて固体の領域ができる温度に到達する時期は,これまでの予想よりだいぶ現在寄りになってくる.

では,実際に外核部分の熱伝導率はどのようになっているのだろうか?もちろん,外核部分まで掘り進めてそこでの熱伝導率を測定することは(少なくとも現在の技術では)できないので,実験室系で何とかして超高温高圧を作り出し測定する事になる.このような実験は各所で行われており,実験技術を競い合っている.
さて,今回報告されたのは,このような高温・高圧状態での外核の熱伝導のモデルとして,純粋な鉄の高温高圧条件下での熱伝導を実験的に決めてやった,というものになる.一つは日本のグループが,高温高圧での熱伝導の主成分となる電子による熱輸送を求めようと電気伝導率の測定を使ったもの.もう一つはイギリス・ドイツなどのグループによる熱伝導の直接測定となる.

実験手法であるが,両グループともダイヤモンドアンビルセルで鉄のホイル(と,圧力媒体として入れている化学的に不活性な塩や酸化物の粉末)を圧縮して超高圧にし,その状態でレーザー加熱を行うことで高温に加熱している.なお,サンプルの温度は熱輻射を測定する事で決定しているが,当然ながらそんなに高い精度は出ない(数十度単位で温度を決定するのは無理).

日本のグループは,この状態で電気伝導度を測定し,そこから伝導電子による熱伝導率を推定している.高温の金属では格子振動による熱伝導よりも伝導電子による熱伝導の方が熱伝導率への寄与が大きいため,これによりサンプルの熱伝導率がほぼ決定できる,というわけだ.
測定の結果であるが,まず,高温側で抵抗が頭打ちになる傾向が見られた.温度が上がると格子の熱振動による抵抗が増大するため,通常は高温ほど抵抗が高くなる.しかしどこまでも抵抗が上がるわけではなく,抵抗が飽和していくような挙動が見えたわけだ.これに関しては,伝導電子の平均自由行程(=平均して,どの程度進む間に散乱されるか)が原子間距離程度になると,それ以上散乱が増えない(格子振動=原子による散乱なので,原子より短いスケールは意味が無い)ためであろうと考えられている.この結果,高温でも抵抗は比較的低い値に保たれ(=伝導率はある程度以上高い値をキープし),結果として熱伝導率も比較的大きな値となっており,求められた熱伝導率は226(+71 -31) Wm-1K-1であった.この実験は単なる鉄を用いたわけだが,実際の外核部分ではニッケルやケイ素も混在していると考えられている.それによる散乱の寄与を考慮すると,140 GPa,3750 Kの条件で熱伝導率はおよそ88(+29 -13) Wm-1K-1程度になるものと著者らは推測している.
この値は,地球の核がかなりの熱伝導率をもっており,急速に冷却されていることを意味しており,内核が発生したのは7億年ほど前という比較的「最近」であることに対応する.よって,約13億年前に起こった地磁気の増大は,内核の発生以外に理由を求める必要があるだろう.

と,これだけなら良かったのであるが,同じ号に続けて掲載されたKonôpkováらの報告は,これと真っ向から対立する結果である.Konôpkováらは,同様にダイヤモンドアンビルセル中の鉄ホイルを扱っているのだが,加熱状態のサンプルにさらにパルス状にレーザーで加熱することで高温の部分を作成,それが鉄ホイルの裏面や横方向にどの程度の温度・速度で伝播するのかを計測することで,熱伝導率の直接測定を行っている.そうして求まったデータをフィッティングした結果から,外核-マントル境界あたりに対応する3800~4800 K,136 GPaでの熱伝導率は33±7 Wm-1K-1,内核と外核の境界に対応する5600~6500 K,330 GPaでの熱伝導率が46±9 Wm-1K-1程度,という値が求まっている.さらに実際の核がNiやSiを含むことを考慮し,実際の値はこれらより10~40%低い程度であろう,と結論づけている.これは電気伝導率から熱伝導率を推計した日本のグループによる結果よりかなり低く,むしろ古典的な推計に近い値である.

真っ向から対立する二つの結果が報告されたわけだが,どちらがより正しいと言えるのだろうか?
熱伝導率を直接測定しているKonôpkováの報告の方が正しいのかというと,実はそうとも言い切れない.測定的に,熱伝導率を測定するよりも電気抵抗を測定する方が遙かに容易であり,技術的な完成度も高い.今回のような熱伝導率の測定では,強烈な輻射のある中で,その微妙な変化を測定せねばならず,測定上の難易度もかなり高いだろう.
一方の日本のチームの測定も,これはこれで電気伝導率の測定から熱伝導率に直す部分が本当にそれで良いのか,というところに弱点を抱えている.測定難易度が高いが直接的な物理量が測れる手法が良いのか,測定は精密だが求めたい値そのものは求まらない間接的な手法が良いのか,これは一概には決めかねる状況だ.
そんなわけで,ますます混迷が深まってしまった地球の核の熱伝導である.今後も各地のグループがそれぞれの手法で結果を出してくるのであろうが,しばし注視していきたい.

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