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日記

phasonの日記: 赤いこびとを巡る七人のこびと 3

日記 by phason

"Seven temperate terrestrial planets around the nearby ultracool dwarf star TRAPPIST-1"
M. Gillon et al., Nature, 542, 456-460 (2017).

NASAの発表が各所で取り上げられたアレである.
そもそも今回話題になっているTRAPPIST-1星系は,昨年の段階で地球型惑星が少なくとも3個周回していることが報告されており,その段階で1つの惑星に関してはハビタブルゾーンに存在することが示唆されていた.そこでその詳細をさらに調べようと観測時間を割いて調査を行った結果が今回の報告となる.
主星であるTRAPPIST-1は限界ギリギリに小さな恒星であり,その質量は太陽の約8.0%(木星のおよそ80倍)と推定されている.太陽質量の約8%が核融合を起こすのに必要な最小の質量を考えられている点からして,TRAPPIST-1は本当に限界ギリギリで恒星となっている星だと言えよう.このため表面温度もおよそ2560 Kと非常に低くなっている(その半径も木星の1.2倍前後程度しかない).このため本星は「ultracool dwarf star」とも呼ばれる.なぜこんな変わった恒星が観測対象になっていたのかというと,こういった軽くて小さい星であれば小型の惑星が観測しやすいからにほかならない.

現在,系外惑星を探査する手法としてはドップラー法とトランジット法が主に用いられている.ドップラー法というのは,惑星の公転に伴いその重力で恒星が微妙に揺動し,その運動を恒星の光のドップラーシフトから検出することで惑星の存在を明らかにする手法だが,当然ながら恒星を十分揺り動かすだけの強い摂動が必要となる.このため木星のように非常に重く,かつ恒星の近傍を周回している惑星(いわゆるホットジュピター)以外を検出することは(現在の観測精度では)難しい.
これに対し,今回用いられたのがトランジット法だ.これは,恒星の手前側を惑星が通過すると,その惑星が恒星の光を遮るため地球に届く光がわずかに減少する.これを検出することで惑星の存在を見つけるのがトランジット法となる.こちらは地球サイズの惑星も検出可能なのだが,それでも大きな恒星の前面を小さな惑星が通り過ぎた際の光の減少は非常に少なくなるため,検出に困難がつきまとう.ところが,今回のTRAPPIST-1の場合はどうだろうか?恒星の大きさがそもそも木星(=地球の10倍ちょっとの直径)と同程度しかないため,その前面を地球サイズの惑星が通過すると,非常に大きな光度の減少が観測されるはずである.つまり,観測が非常にやりやすい.まあそう言ったわけで観測が行われ,地球サイズの,しかもハビタブルゾーン内っぽい惑星だったことから,今回より詳細な観測が行われたわけだ.

では,今回の研究に移ろう.
今回の論文では,非常に多量の観測データが使用されている.論文の最後に一覧として挙げてあるが,以下の通りとなる.なお,各行の最後に示してある「b:13」などは,各惑星(b~hの7つ.aは恒星を指す)のトランジットを何回観測できたか,という事を示す.なんというか,よくもまあこれだけのマシンタイムをかき集めたものだ,と言ったところか.

TRAPPIST-South(トランジット法用系外惑星探査望遠鏡・チリ) 677.9時間 b:13,c:1,d:3,e:5,f:3,g:4
TRAPPIST-North(トランジット法用系外惑星探査望遠鏡・モロッコ) 206.7時間 b:4,c:3,e:1
スピッツァー宇宙望遠鏡 476.8時間(これが最も良いデータで,解析の中心) b:16,C:11,d:5,e:2,f:3,g:2,h:1
LT/IO:O(リバプール望遠鏡赤外光学系) 50.3時間 b:1,c:1,e:1,f:1
UKIRT/WFCAM(イギリス赤外線望遠鏡@ハワイ) 34.5時間 b:4,c:3
WHT/ACAM(ハーシェル宇宙望遠鏡) 25.8時間 b:1,c:1,d:1
SAAO/1m/SHOC(南ア サザーランド観測所) 10.7時間 トランジット未観測
VLT/HAWK-I(ヨーロッパ南天天文台@チリ) 6.5時間 b:1,c:1,e:1,f:1
HCT/HFOSC(ヒマラヤ・チャンドラ望遠鏡) 4.8時間 b:1
HST/WFC3(ハッブル宇宙望遠鏡) 3.9時間 b:1,c:1

これらの観測・解析の結果,以前には3つだと思われていた惑星が実は7つも存在することが判明した.ただし,最も外縁の惑星hに関してはトランジットが1度しか観測されていないため,データはやや不確実である.
続いて,得られたデータの解析結果に行こう.トランジット法では,惑星が恒星を遮り始めてから完全に恒星前面に来るまでの時間から,惑星の大きさを求めることが出来る.さらに,恒星面を通過する時間なども含めればその軌道部分での周回速度がわかり,さらに複数回のトランジットから周期を求めることで公転周期がわかる.公転周期と恒星前面を通過する際の速度の比較から軌道の離心率も推測でき,また他の惑星の重力の影響による周期のふらつきから惑星の質量も大まかに求めることが可能である.さらに,恒星の光量はわかっているので,ある軌道にある天体が,そこに降り注ぐ光を完全に吸収し熱輻射のみで放熱する場合の放射平衡温度を求めることが出来る.無論,実際の惑星の温度においては,大気の存在により温室効果が働き平衡温度より高くなったり(例えば地球の放射平衡温度は-18 ℃になるが,実際にはこれより30 ℃以上も高い),反射率が高いために平衡温度より低くなったりといった違いは生じるのだが,惑星の温度を考える上での目安にはなる.
得られたデータをまとめると,内側から順に以下の通り.ただし質量の見積もりに関しては,0.5地球質量程度の誤差を含むので,大まかな目安にしかならない.また,元論文では有効数字はもっと多いので,詳しいデータが知りたい場合はそちらを参照のこと.

惑星b(トランジットを37回観測)
公転周期:1.51日(地球の1日を基準とする.以下同じ)
離心率:0.081以下
軌道長半径:0.011天文単位
放射平衡温度:400 K
半径:1.08地球半径
質量:0.85地球質量

惑星c(トランジットを29回観測)
公転周期:2.42日
離心率:0.083以下
軌道長半径:0.015天文単位
放射平衡温度:342 K
半径:1.06地球半径
質量:1.38地球質量

惑星d(トランジットを9回観測)
公転周期:4.05日
離心率:0.070以下
軌道長半径:0.021天文単位
放射平衡温度:288 K
半径:0.77地球半径
質量:0.41地球質量

惑星e(トランジットを7回観測)
公転周期:6.10日
離心率:0.085以下
軌道長半径:0.028天文単位
放射平衡温度:251 K
半径:0.92地球半径
質量:0.62地球質量

惑星f(トランジットを4回観測)
公転周期:9.21日
離心率:0.063以下
軌道長半径:0.037天文単位
放射平衡温度:219 K
半径:1.05地球半径
質量:0.68地球質量

惑星g(トランジットを5回観測)
公転周期:12.35日
離心率:0.061以下
軌道長半径:0.045天文単位
放射平衡温度:199 K
半径:1.13地球半径
質量:1.34地球質量

惑星hトランジットを1回観測)
公転周期:20?日
離心率:?
軌道長半径:0.06?天文単位
放射平衡温度:170? K
半径:0.76地球半径
質量:?

得られた結果は,全ての惑星がほぼ同一面内を公転する系であることを示唆していた.また,(周期が完全にはわかっていない惑星hを除く)隣接する惑星の公転周期の比がc/b:8/5,d/c:5/3,e/d:3/2,f/e:3/2,g/f:4/3と全て単純な整数比となっており,これは惑星間に共鳴が起こっていることを示している.こういった軌道の共鳴は惑星の軌道を安定化したり不安定化したりと場合により色々あるのだが,6つもの多くの天体間できれいな共鳴関係が成り立っているのは新記録となる.類似の共鳴は木星の衛星であるイオ・エウロパ・ガニメデ間でも観測されており,今回の観測対象であるTRAPPIST-1がガスジャイアントに非常に近いサイズである事を考えると,木星系の衛星の形成過程と類似の惑星形成過程が考えられるのではないか?と指摘している.
各惑星の質量に関する見積もりは誤差が大きすぎてその組成に関してはあまり大したことは言えないが,惑星fに関してはその密度が0.60±0.17とそこそこの精度で求まっている.密度の低さから,この惑星では比較的揮発性の高い成分(水など)がそれなりに多くある事が期待され,氷の層,または大気のような状況となっていることが示唆される.なお,観測された惑星の質量の合計は主星の質量の0.02%程度で,これも木星とその衛星の質量比に近い.ここからも,類似の過程により形成されたのではないか,と示唆している.

主星からの放射量としては,惑星c,d,fがそれぞれ太陽系における金星,地球,火星とかなり近い値になるそうだ.比較的外側で受ける輻射の少ない惑星であるe,f,gにおいても,主星のスペクトルおよび地球型の大気を想定しての比較的単純なシミュレーションでは液体の海が存在することは不可能ではない,と指摘している.逆に内側の惑星であるb,c,dでは温室効果によりかなり温度が上昇してしまう.ただその場合であっても,一部の限定された地域(極域とか高地とか?)では液体の水が存在する可能性が残る,としている.惑星hに関してはかなり主星から遠いため,表層に液体の水を作る事はほぼ不可能であろう.しかしながら,潮汐加熱が十分に効く場合などでは惑星形成時の熱が逃げるのをかなり遅らせ,液体の水が存在することも不可能ではないだろう,と述べている.まあ,惑星hに関してはかなり難しいと思うが……

そんなわけで,ニュースなどで流れている「7つのハビタブルゾーンの惑星」ってのはやや盛り気味であって,惑星7つあって,そのうちいくつかには液体の水があるかもね,ぐらいな感じであろうか.

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  • by Anonymous Coward on 2017年02月24日 18時38分 (#3166888)

    11.11, 15.21, 21.44, 28.17, 37.1, 45.1, 63 (×10-3AU) ですけど、これがティティウス・ボーデ則 [wikipedia.org] ( 0.39+(0.72-0.39)×2n ) みたく
    11.11, 15.21, 21.44, 27.51, 37.14, 43.91, 63.17 = 11.11×(15.21-11.11)×2n/3 (n=-∞,0,4,6,8,9,11) となるのは偶然なんだっけ?

    • 恐らく偶然なんじゃないかと.
      2n/3のようにn/m乗の形にしてしまうと,mがある程度大きいとかなり細かく数字がとれてしまうのでどうとでも合ってしまいそうな気が……
      #特に,式の形から最初の二つは必ず合うわけで,そうなると残り5つを好きな整数使ってそこそこ合わせるのは難易度低いですし.

      親コメント
    • by Anonymous Coward

      ああミスった…… 11.11+(15.21-11.11)×2n/3

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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

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