phasonの日記: サハラ砂漠における大規模な風力発電や太陽光発電は,降雨量や草木の増加をもたらす(※ただし 6
"Climate model shows large-scale wind and solar farms in the Sahara increase rain and vegetation"
Y. Li et al., Science, 361, 1019-1022 (2018).
再生可能エネルギーによる発電コストは年々下がっており,(その変動を補う手段は必要ではあるが)経済的にも資源的にも「割に合う」方式となってきている.なかでも風力発電と太陽光発電は多くの地域で導入が進んでいる発電手段ではあるのだが,その実力を十分に発揮するためには安定した気候と広い空間が必要である.
そのような土地として注目されている場所の一つが,サハラ砂漠だ.広大な土地,安定した日照,比較的小規模な生態系(ゼロではないが).このため,サハラ砂漠に広大な太陽光発電施設やら風力発電所を建設しようという運動はかなりの数存在している(そしてコストの見積もりが甘くてうまくいっていないものが多い).
しかし,野放図に太陽光発電や風力発電を導入すると,それ自体が環境に大きな影響を与える可能性もあるのではないだろうか?
今回の研究は,現時点での気候モデルを用いてそのあたりを突き詰めるものである.
……でまあ,のっけからネタバレ的な感じで何だが,この論文で扱われている条件ははっきり言って実現性は(少なくとも今後おそらく1世紀以上は)皆無というレベルのものとなる.
何せ,計算に使われている発電所の規模がとんでもないのだ.
例えば太陽光発電.サハラ砂漠の面積(約9.2×106 km2,これは日本の陸地面積の25倍程度になる)のうち太陽光パネルの設置に適していると考えられる20%の面積にパネルを敷き詰める,として計算されている.つまり日本の陸地面積の5倍弱の超巨大太陽光発電施設であり,なんというか,どうやるんだというレベルの面積になる.実現は自己増殖的な未来技術にでも期待しよう.なお,これだけの面積に変換効率15%(意外に控えめな数字だ)のパネルを設置すると,年間通しての平均(夜間等も含め平均化した量)で79 TWの出力が見込める.これは今の世界の電力消費の34倍以上であるが,まあ,何というか,そりゃそれだけ広い面積に敷き詰めればそうなるだろうよ,というか.
一方の風力発電の場合,安定してエネルギーが取り出せる量が1 W/m2程度,敷き詰められる領域がサハラ砂漠の面積の0.35程度と考え,出力が3.2 TW程度(世界の電力消費の1.5倍ぐらい)が見込めるそうだ.ちなみにこれ,1 MWぐらいの大きい風車だったとしても,320万基ぐらい設置する必要がある.これまた未来技術にでも(略)
※個人的には,こういう非現実的なレベルでの影響の計算は結構好きである.物理なんかの浮き世離れしたイントロ(数十億年後生き残るためには,とか)とかも好物だ.ただまあ,そういったものをこのクラスの論文誌に載せるべきなのか?に関しては議論もあろう.
まあ細かいことは置いておこう.
実はこういった大規模な建設による気候への影響というのはこれまでにもいろいろと計算があるのだが,著者らはそれらは不十分であると指摘する.というのも,それら建造物により気候が変われば植物の生え具合が変わり,それによりアルベド(太陽光の反射具合)や表面の凹凸具合(風などに影響を与える),植物による蒸散の増加(大気中の水分量を増加させる)はずなのに,既存の計算はそれを考慮していないからだ.
そこで今回著者らは,気候が変わる→植生が変わる→気候が変わる,というフィードバックを取り入れた計算を行った.
では,得られた結果を見ていこう.
まず計算結果として特徴的だったのは,気候の変化が比較的「局所的」であったことだ.といっても,サハラ砂漠全域に設置しているので,ここで言う「局所的」というのは「サハラ砂漠の近傍以外にはあまり影響を与えない」というレベルになる(欧州や他の大陸にはさほど影響がない,という程度).ただし,よく見ると全く影響がないわけでもなく,風力発電所を建設した場合にはブラジルのそこそこの地域で1 ℃以下程度の気温の上昇が見られたり,インド中西部あたりで降水量がやや減少する可能性が見えてはいる.
ではその「局所的」な影響はどんなものかと見てみると,風力発電所が建設されるとサハラ砂漠中心部付近での気温が2 ℃ちょっとほど上がることが示された.同時にサハラ中心部付近での降水量が平均して0.25 mm/day程度増加し,降水量が倍程度に増える傾向が見られた.特に顕著なのがサハラ南端のサバンナとの境目の部分(いわゆるサヘル地帯)で,このあたりでは1.1 mm/dayとそこそこ降水量が増えている.この原因としては,風力発電所の存在により大気に対する摩擦が増え気流が弱まり,その結果砂漠に熱がこもる&熱的低気圧がより発達しやすくなることに由来すると考えられる.降水量の増加は植物の増加を生み,それがさらにアルベドの低下と熱吸収を生む正のフィードバックが働き,これだけの変化を生むわけだ.
太陽光発電の場合は,光を吸収することにより似たようなフィードバックが発生する.このためやはり砂漠の温度が上昇し,砂漠と特にサヘルでの降水量が増加する.ただその程度としては風力発電の場合の半分程度の影響にとどまっている.
太陽光発電と風力発電を両方導入すると,効果は可算的になる.砂漠中心部での気温の上昇は2.65 ℃に達し,降水量の増加は砂漠中心部で0.35 mm/day程度,サヘルでは最大で年間500 mm程度にも達し,非常に豊かな生態系が成立する可能性がある.
なお,太陽光発電の場合の影響に関しては,パネルの変換効率に対する依存性が大きい.変換効率が高ければ,熱となるエネルギーが少ないため,パネルの設置による影響は小さくなる.変換効率が30%を超えたあたりで影響がほぼ無視できるようになり,さらに効率が高いと逆に気温を下げる&降水量を減らす方向の影響となる.
というわけで,「サハラ砂漠の有意な割合を覆い尽くすほどの風力発電所(や太陽光発電所)が建設されると,砂漠は暑くなるがサヘルのあたりは雨がバンバン降って豊かな土地になる」という計算であった.
……いや,まあ,何というか,「そうですか……」とか「お,おう……」としか言えない研究だが,それはそれとして面白くはある.
天気力エネルギーじゃけん (スコア:2)
以前、漠然と想像していた内容として。サハラの中央部に太陽エネルギー発電設備(太陽電池なり、熱発電なり)を並べてアルベドが下がっても、その熱の影響が周辺地域に波及する前に、夜間のうちに地球外に放熱しつくされそうだし、地球全体ではインパクト小じゃないのかなー、などと思っていました。
その際は、今回の報告ほどスケール大きくするところまでは想像していなかったですが…、うん、まあ、これだけ大規模にしても、地球全体の影響としては小さそうだ、ということなんですね。ヨカッタ…。
ただ、シミュレーションの精度にここまでこだわるなら、増えた発電量分の電力が地球のどこかで消費されることになる、あたりも考慮してほしかったような気も。
太陽から入る輻射の0.1%くらいが現在の人類の利用エネルギー総量ですが、これがまあ(一次近似として)すべて電力だったと仮定すると、サハラ発電所の発電量はこの30倍。太陽からの輻射の3%分が地上で最終的に熱になるわけで、それはどうなのよー、とちょっと心配です。
大気に対する摩擦 (スコア:0)
流体の場合は抵抗って書いた方が適切に感じるんですが、
なぜだろうと思って突き詰めると摩擦はトライボロジーで語る範囲の現象ということになるんでしょうかね。
Re:大気に対する摩擦 (スコア:1)
朧気な記憶の彼方では,流体力学でも摩擦損失(?)とか摩擦係数(?)とかあったような……
Re: (スコア:0)
調べてみましたが、流体でも摩擦という表現を使う派閥もあるみたいですね。
ですが、流体の抗力は二体間の境界で生じるものではなく連続体のせん断によって生じるものなので、摩擦と書くと気持ち悪いという派閥で私が育ったようです。
一方でジャーナル軸受の摩擦は軸と穴の間の潤滑剤のせん断抵抗で決まる純然たる流体現象なのですが、摩擦として扱わないとなんだか収まりが悪いです。
常在低気圧 (スコア:0)
物語には常に霧に包まれた島とか出てきますが、現実にはあまりそういった島はないようですね。
とはいいつつも、マラカイボの灯台のようなのがあるから、上昇気流が雷雲を生むと、サハラのキラメキとか名前がついちゃったり?
あるいは、宇宙から見るとそこを中心に渦を巻いて、木星の大赤斑よろしく常在渦巻が出るようになったりしないかなとか、妄想してしまいます。
ソーラーパネルを設置すると広大な日陰もできますから、そこには、草などの植物、それらを食べる動物など食物連鎖がそれなりにできそうですね。
保水力も上がって、そのうち表土が構成されてとか考えると生態系も大きく変わりそうに思います。
地球上でのテラフォーミングみたいな感じかなぁ……いや普通に砂漠緑化でしょ :-)
建設コストを別にしてなかなか面白いことが考えられて、やっぱり science fiction は大好きですというと研究者に失礼かな?
Re:常在低気圧 (スコア:1)
そういや「シムアース」だと文明の発展した地域のアルベドって変わったかなぁ?覚えてないや。
ただ「デイジーワールド」ステージだと動物や文明のいるマスはデイジーがすぐに食い尽くされて岩肌になる(そして動物がいなくなるとまたデイジーが繁茂してくる)から気温が激動したのは覚えている