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日記

phasonの日記: 鋳型を用いたサブナノメートル合金ナノ粒子の精密合成

日記 by phason

"Atom-hybridization for synthesis of polymetallic clusters"
T. Tsukamoto, T. Kambe, A. Nakao, T. Imaoka and K. Yamamoto, Nature Coomun., 9, 3873_1-7 (2018).

金属ナノ粒子は触媒としての活性が高いことから,さまざまな工業的な用途で利用されている.なかでも,複数種類の金属元素を組み合わせることで合金化したナノ粒子は,触媒粒子の電子状態や各種分子との親和性をコントロールできるために特に重要な研究対象である.またナノサイズの領域では通常では合金化できないような原子の組み合わせ(つまり,単に混ぜると自発的に分離して二種類の金属の混合物になる)も容易に合金化する事が知られており,これまでにない触媒が実現できる可能性もある.
そんなナノ合金であるが,サイズや組成を厳密に制御した精密・大量合成法が無く,実用化の際の問題の一つとなっている.
今回紹介する論文は,デンドリマーと呼ばれる樹状高分子を用いてサイズや組成が精密に制御された合金ナノ粒子(というか,金属原子クラスターというか)を合成した,というものになる.

デンドリマー(dendrimer)は,その名が樹木(dendron)から来ている事からも明らかなように,樹木のように枝分かれしながら伸びた高分子である.例えば中心に炭素原子を置くと,そこから4本の結合が伸びる.これら四本の「枝」の先に,Y字型に分岐する分子を次々に繋いでいけば,先端が4本 → 8本 → 16本 → 32本……と,枝分かれしながら樹状に広がった高分子が得られる.枝分かれを何段伸ばすのかをきっちり制御できるため,構造もサイズも揃った高分子が得られる事,また先に行くほど枝の本数が増え混み合うことで球殻状になり,中心部がスカスカなカプセルとして反応場などに利用できる事などが知られている.
今回の研究が行われた東工大の山元・今岡研は,このデンドリマーを反応場(鋳型)として使う事で原子数が制御されたサブナノメートルサイズの金属ナノ粒子の作成法を開発している研究室である.使用するデンドリマーとして窒素原子を含むものを用いると,その部分を使って金属イオンに配位する事ができる.デンドリマーの中心部分ほど配位能が高く,外側に行くほど配位能が低くなるので,溶液中に入れる金属イオンの量を調節する事で,例えば中心から3世代目(=中心から見て3回目の枝分かれのところ)までの窒素(1世代目4個,2世代目8個,3世代目16個)に配位させれば金属原子を28個球殻構造内に取り込んだデンドリマーができるし,2世代目のところまでしか配位しないようにすれば12個の金属イオンを取り込んだデンドリマーができる.こういったものを作成しておいて,強力な還元剤を使って金属イオンを還元すれば,サイズどころか含まれる金属原子の数まで統一された金属ナノ粒子が作成できるわけだ.

今回の論文では,さらにこの考えを進めて最大で5種類までの金属原子を集積,組成とサイズが厳密に決まった合金ナノ粒子を作成する事に成功した.
まずは用いた分子を見ていこう.オープンアクセスの論文なので,論文本体Figure 2を見ていただきたい.中心の炭素原子から4方向に腕が伸び,それぞれが途中で窒素原子を挟みながら二つに分岐していくデンドリマーである.ただちょっとだけ工夫がしてあって,中心近くのベンゼン環4つのうち一つだけが窒素を含むピリジン環に変更されている.このピリジン環が一番金属イオンを配位させやすい事に加え,ここから伸びた枝は同等の世代の他の枝に比べわずかながら金属イオンに配位しやすい,という差が生じてくる.
単に同じ枝を四方向に伸ばしただけだと世代の同じ窒素原子は全て同等の配位能をもつが,今回の場合はこの改変により配位能がピリジン環(1箇所)>ピリジン環の先の第1世代の窒素(1箇所)>その他の第1世代の窒素(3箇所)>ピリジン環の先の第2世代の窒素(2個)>その他の第2世代の窒素(6箇所)>ピリジン環の先の第3世代の窒素(4個)>その他の第3世代の窒素(12箇所)……と,金属イオンへのくっつきやすさの異なる多数のサイトが存在する事になるわけだ.
要するに,この分子を含む溶液中に金属イオンを入れると,

1番目にくっつきやすいサイト(1箇所)
2番目にくっつきやすいサイト(1箇所)
3番目にくっつきやすいサイト(3箇所)
4版目にくっつきやすいサイト(2箇所)
5番目にくっつきやすいサイト(6箇所)
(以下続く)

という順序で金属イオンがくっついていく.従って,デンドリマーの分子数(1当量)に対し,

1当量の金属イオンAを加える
1当量の金属イオンBを加える
3当量の金属イオンCを加える
2当量の金属イオンDを加える
6当量の金属イオンEを加える

とやって,その後強力な還元剤で還元するとA1B1C3D2E6という組成を持った金属ナノ粒子が選択的に得られる.もちろん,同じ金属イオンを続けて入れても良く,例えば

2当量の金属イオンAを加える(1番目と2番目のサイトが埋まる)
5当量の金属イオンBを加える(3番目と4番目のサイトが埋まる)
6当量の金属イオンCを加える(5番目のサイトが埋まる)

とやれば,A2B5C6という金属ナノ粒子が得られる.

本当にこんなふうに順番に配位サイトが埋まっていくのか?という事を著者らはまず可視紫外吸収で確かめ,0~1当量(1番目のサイトが埋まる)まで,1~2当量(2番目のサイトまで埋まる)まで,2~5当量(3番目のサイトが埋まる)まで,5~7当量まで(4番目のサイトが埋まる),7~13当量まで(5番目のサイトが埋まる)で,それぞれ違う金属イオンが綺麗に配位する事を確認している(ただし,配位結合が強い金属をあとから入れると,既存のイオンを押しのけて自分が内側に入り込んで入れ替わる事もある).

この方法で,著者らは多種多様な組成の金属イオンをきちんと制御された数取り込んだデンドリマーを多数作成した(Figure 3).続いてこれらのデンドリマーを強力な還元剤である水素化ホウ素ナトリウムで還元する.得られた金属ナノ粒子を電顕で確認すると,そのほとんどが1 nm弱の直径をもつサブナノ粒子であった.このサイズは,5番目のサイトまでの金属原子(13個)が還元されそのままナノ粒子化した場合に予測される直径と一致している.得られたナノ粒子のサイズは非常に均一で,このことからも余計な融合や組成の変化は生じず,デンドリマーに取り込まれた金属イオンが,そのままの個数・組成で還元されナノ粒子化したと考えて矛盾しない.
電顕を使ったEDSによる元素分析では,ある程度の範囲に含まれるナノ粒子の平均組成が狙った個数比と一致する事も示された.
※EDSはあまり細かい範囲での分析ができないので,今回のようなサブナノメートルサイズの場合はある程度の個数をまとめて測る事しかできない.

XPSによる電子状態の分析では,金属元素の内殻電子のエネルギーが,それぞれの金属元素の単体のナノ粒子などと比べて多少シフトしている事が確認された.これはナノ粒子中で各元素の軌道が混ざり合っている,つまり異なる金属元素同士が分離するのではなく,同一粒子内で合金化している事を示唆している.
また作成されたナノ粒子は同等サイズの単一元素からなるナノ粒子とは異なる光吸収を示し,こちらの結果も合金かを支持している.この吸収は,DFT計算による電子状態計算とも整合している.

という事で,原子数レベルで組成をきちっと決めたナノ合金の作成法であった.
非常にクレバーな手法で,結果も綺麗に出ている美しい仕事である.

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