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日記

phasonの日記: 超高速レーザー溶接によるセラミックの接合 2

日記 by phason

"Ultrafast laser welding od ceramics"
E. H. Penilla et al., Science, 365, 803-808 (2019).

何やらずいぶんと久しぶりになってしまいました.
最近は論文書いたりオープンキャンパスのごたごただったりが重なり,論文,読んではいるんですがこういう形にまとめる時間がなかなか取れませんでした.困ったものだ.

各種の金属材料を局所的な加熱により溶融し接合する溶接は,現代社会のさまざまな製造の現場において欠かすことのできない要素である.
現代社会を支える材料としては金属以外にもいろいろなものが利用されており,例えば各種高分子材料やセラミックはその代表格だろう.高分子材料に関しては比較的低い温度で溶融・成型できるし,またものによっては溶媒に溶かして柔らかくしたりもできるため加工性が高い.
一方,セラミックはその耐熱性,絶縁性(もちろん,電子材料となるセラミックもあるが),安定性などから多くの場所で利用されているが,一度作成した部品を後からくっつけることはその耐熱性が仇となりなかなか難しい.不可能ではないのだが,例えば部品を接合した状態で数百 ℃以上の高温で長時間保持する必要があるなどあまり容易ではないうえに,全体を高温処理してしまうために他の熱に弱い材料(例えば高分子材料であるとか,電子素子類であるとか)を組み込んだ状態では加工ができない.
セラミックにおいても金属と同様の溶接が可能となれば,その利便性は大きく向上することだろう.

(金属の)溶接の手法はいくつか存在するが,今回の論文と関係するのはレーザー溶接である.これはレーザーを金属部品の接合部に集光,局所的に加熱することによりその部分のみを溶融し接合するという手法であり,近年利用が大きく伸びている.このレーザー溶接をセラミックに応用することは可能だろうか?
一般的なレーザー溶接においては,レーザー光が集光された場所では局所的に数千 ℃の高温が発生しており,これにより金属の溶融&気化が引き起こされ溶接されている.この温度はセラミックを溶融するにも十分な温度であり,同様の手法でセラミック部品の溶接が可能になりそうなものである.
そのような観点から過去にいくつかの研究が行われてきたのだが,局所的に大きな熱勾配が発生することによりセラミックにクラック(ひび割れ)が入り部品が破損してしまう,という問題点が明らかとなった.
今回の論文で著者らが報告しているのは,レーザーを非常に短パルスのピコ秒・フェムト秒レーザーとするとこのクラックが抑制され,セラミック材料の溶接が可能になる,というものである.

過去の研究でなぜクラックが入ってしまったのかといえば,レーザーを照射したことで温度が上がり部品の場所ごとの温度差が生じてしまったことが原因である.これを回避できる手法として著者らが注目したのが,2016年に発表されたガラスのレーザー溶接だ.ガラスを普通にレーザー溶接しようとすると温度差によって割れてしまうのだが,超短パルスのピコ・フェムト秒レーザーで加熱すると,一発で吸収される熱の総量が小さくなるため,焦点部位のみ瞬間的に強熱され融解 → 熱はトータルでは少ないのですぐに拡散し冷却,となり,溶融した部分以外での温度勾配がほとんど生じず,レーザー溶接が可能となる.それを著者らはセラミックに適用したわけだ.
なお,こう言った短時間にエネルギーを集中させた強光子場の条件では,非線形的な吸収の寄与が大きくなることが知られている.通常の弱い光では,物体に吸収される光は当てた光の強さに比例する(線形).ところが強い光のもとでは非線形項(光の強さの2乗や3乗などに比例する項)が無視できない大きさとなってくるため,光の強さのn乗(例えばn = 2とか3とか)に比例するような吸収が生じてくる.これはつまり「光の強さが半分になると,吸収される光(熱)が1/4になる(n = 2の場合)」というようなことが起こってくるわけで,通常の線形の吸収の場合に比べ「光の強いところでのみ凄く大きな熱が生じ,そこから少しずれると急激に吸収される熱が少なくなる」という効果をもたらす.要するに,「極短パルスレーザーを使うと,通常以上に狭い領域のみを加熱できる」ということになり,ピンポイントの加熱・溶接に向いているわけだ.

著者らは今回,レーザー溶接をデモンストレーションするにあたり材料としてイットリア安定化ジルコニア(いわゆるキュービックジルコニアの仲間.透明な材料も作れる)およびアルミナを用いている.これらはいずれも融点が高く溶融させての接合がなかなか大変であるが,工学的な用途が非常に多いセラミック類である.
今回セラミックのレーザー溶接法としては,以下の2つの配置を試している.

一つ目は円筒型のセラミック(不透明)に対し円盤状のセラミック(透明な窓)をはめ込み,その接点をレーザーで加熱して融着する方法だ.この部材全体を回転台に乗せ,パルスレーザーを照射しながら回転させることで一周ぐるりと溶接する.
この場合,はめ込んでいる窓が透明であるため比較的自由な位置に焦点を持っていくことが可能で,深さ方向にも焦点を変えながら溶接を行うことができる.
著者らはデモンストレーションとして半導体のチップを中に入れた状態で蓋を溶接して見せ,「熱に弱い部材を中に入れたまま,セラミックを溶接して封入できるよ」ということをやって見せている.窓材は透明なものを用いているので,やろうと思えば中に光通信が可能な回路などを封入した,「セラミックにより外部環境から守られたまま,光(や電波)で外部と通信するアイテム」が作成可能になると考えられる.

二つ目に行ったのは,二つの円筒(不透明)の接合である.この場合は部材が不透明であるので,一般的な金属のレーザー溶接と同様に二つの部材をかなり短い距離(10 μmぐらい)だけ離して設置し,その隙間部分にレーザーを集光する,という方法で溶接している.集光部の周辺が熱で溶けて広がり,狭い隙間を埋めることで部材が溶接される.円筒を中心軸に沿って回転させながら溶接することで,一周ぐるりと溶接して繋げた一つのパイプへと加工している.

短パルスレーザー溶接により接合された部材は非常にきれいに接合しており,例えば真空チャンバーにつないで真空にひいてやると超高真空ぐらいまで引けているし,剪断応力を見てやると通常の加熱接合により金属につないだ場合と同程度の40 MPaという結構な強度を実現できている.なお強度に関しては,今回は最適化までしていないので,今後もっと上がる可能性もある,とは書かれている.
また,局所的な加熱であるため既存の電気炉を用いた融着(部材に応力をかけながら数百 ℃に加熱,長時間放置することで原子を拡散させ融合させる)に比べエネルギー効率が高いことも謳われている.著者の言うところでは,電気炉を使うと5 kWh程度の電力が必要なところが,25 Whでよい,ということになるわけだ(ただし,同じ電気炉で複数の部材を同時に処理すれば,電気炉側の効率はもっと上がるが).

そんなわけで,セラミックに適用できるレーザー溶接であった.論文ではほかにも,パルス幅や繰り返し周波数の影響などについても実験・考察が行われていたが割愛.
これがどの程度産業的にインパクトがあるのかはわからないが,素人目にはなかなか面白い展開がありそうな印象も受ける.

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  • by Anonymous Coward on 2019年08月27日 18時44分 (#3676200)

    専ら金属同士を付けるような仕事をしているものです。
    セラミック同士ではないですが、金属とセラミックの異種接合をしたい、というニーズであればあります。しかし、ある程度広い範囲を加熱して接合する手法の場合、材料同士の熱膨張率差によって生じる応力でセラミック側が破壊してしまいます。ろう材を使用して広い面でろう付けする手法もあり、その場合はろう材が熱膨張率差の緩衝材となっているのかもしれません。
    本手法が異種材料間の熱膨張率差問題を解決できるのであれば、工業的にもニーズはかなりあるのではないでしょうか。

  • by Anonymous Coward on 2019年08月28日 20時38分 (#3676886)

    集積回路からマザーボードまで、光コンピュータに必要なほとんどの製造技術の基礎になりそうな。

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