パスワードを忘れた? アカウント作成
14152033 journal
日記

phasonの日記: 豊かな温帯雨林に覆われていたかつての南極大陸 1

日記 by phason

"Temperate rainforests near the South Pole during peak Cretaceous warmth"
J. P. Klages et al., Nature, 580, 81-86 (2020).
※いくつか間違っているサイトがあるようですが,「温帯雨林」であって熱帯雨林ではありません.

「過去に何があったのか?」に思いをはせるのは人類の知的好奇心の代表的な表れである.これまでにも過去を知るための数多くの努力が費やされ,数々の奇想天外な生物の存在や,全球凍結などのかつては予想もされていなかったような気候の劇的な変動の様子などが次々明らかとなっている.特に過去の気象を知ることは,その時代の生物がどのようにして繁栄したのかを知るための重要な知見になるとともに,我々の世界の気候の行方を推測するための基礎データとしても重要となってきている.

さてそんな地球の気候であるが,研究が進むごとに我々が以前考えていたよりもはるかにダイナミックに変化していることがわかってきている.今回の論文が注目しているのは後期白亜紀の極地における気候なのだが,この時期は火山活動が大幅に活発化し,海洋底が大きく拡大していたこと,火山活動の増大に伴い二酸化炭素濃度が大きく上昇し現在の3倍(1200 ppm)を超えるような状況になっていたこと,それに伴い世界的に非常に大規模な温暖化が起こっていたこと,海水面の大幅な上昇(200 m前後)が起こっていたことが知られており,世界の気候は現在とは大きく異なっていたと推測されている.
当時,世界全体の気温が上がっていたのは確かなのだが,では,極地ではどれほどの温度に達していたのだろうか?極地の氷は溶けていたのかいないのかは,当時の気候をモデル化するうえでも非常に重要なポイントとなる.過去の研究では,8900~8400万年前において(当時の)南極点から2500 kmほどの場所(これは南緯67.5度あたりになる)で,年平均気温が15~21 ℃程度であったという見積もりがなされている.今回の論文は,もっと南極点の近くまで温暖な気候であった,という結果を報告している.

著者らの研究は,西南極のパインアイランド付近での海底掘削によるサンプルの分析に基づいている.この辺りはかつてジーランディア(かつて存在した小さな大陸.現在は大部分が海面下に沈み,ニュージーランドなど一部のみが海上に表れている)が南極大陸とつながっていたあたりになり,当時の南極点からわずか900 km付近,南緯82度のあたりに相当する.
掘削の結果得られたサンプルは,海底下17~24 mあたりまでは砂利を含んだ珪岩であり化石を含んでおらず,あまりデータは得られなかった.ところがそれより深い位置には,薄い硬くなった褐炭の層を挟んで,3 m以上深くまで伸びた植物の根の痕跡が発見された(サンプルのCTによる構造は動画で公開されている).この部分をさらに詳細に分析すると,多数の花粉や胞子が発見され,周囲に多くの植物が存在したことが確認できる.発見された花粉・胞子から存在していた植物を解明し,当時南極大陸に接していたジーランディアに存在していた植物(これは,現在のニュージーランドの地層から発見される植物である)と比較することで,この地層はおよそ8300~9200万年前のものであると結論づけられた.
さらに詳細な分析を行うため,この部分の土壌から有機物を抽出し,そこに含まれる炭素-窒素比,炭化水素の鎖長,異質細胞特異的糖脂質(heterocyst specific glycolipid,シアノバクテリアの作る糖脂質)に含まれるtriolとketo-diolの量の比を分析した.炭素-窒素比や炭化水素の鎖長ははその生物が水棲の場合低い値に,陸生の場合は高い値になることが知られており,また異質細胞特異的糖脂質のtriolとketo-diolの比はシアノバクテリアが生息していた環境の温度等に影響を受ける.つまり,これらを分析することで当時の環境が推測できるわけだ.その結果,この場所はかつて淡水の沼地(とか湿地とか)であったこと,しかも比較的大きなサイズ(いわゆる樹木などのサイズ)の植物も数多く存在したことが判明した.これと無数の花粉や胞子,よく伸びた根のネットワークの存在などと組み合わせると,森のように無数の植物が繁茂する沼/湿地のような場所=温帯雨林であったと言える.ただ,南極には非常に長い夜(いわゆる極夜)があり,1~2か月の間日が差さない.ここを植物がどう乗り切っていたのかはこれからの研究が必要だろう(現在の冬のような状態で休眠か?).
土壌に含まれる鉱物はカオリナイトが70%程度,粘土鉱物のスメクタイトが30%弱であった.これらは化学的な風化作用が強かったことを示しており,現在で言えば熱帯雨林などが対応するが,これは著者らの気温に対する推計には合致しない(推定される気温は次に書くようにもっと低い).そのため,この周囲が沼地などであり,そこで発生する有機酸により風化が促進されていたのだろうと推測される.
今回の結果から推測される年平均気温はおよそ13 ℃であり,年間降水量は1120 mm程度.最も気温が高い真夏の平均気温はおよそ18.5 ℃と推定された.この平均温度は,以前の別の研究でなされた「極点から2500 kmのところで年平均15~21 ℃」と大きな差はなく,南極点に向けての気温の変化はかなり小さい(広い範囲で温度が近い)ことを意味している.

気象モデル(COSMOS)を用いこの夏場の気温を再現するには,1120~1680 ppmの間ぐらいの二酸化炭素濃度が必要と計算される.これは過去の推計と矛盾しない.しかしながら,いずれの場合でも年平均気温は今回求められた13 ℃には遠く及ばず,例えば1120 ppmでは-5 ℃程度,1680 ppmでは0 ℃程度と,かなりの開きがある.これに関しては,今回の計算では植生を固定しての計算であったためで,実際には南極大陸のほとんどが緑地に覆われていてアルベドが低い(氷だと反射する光を吸収するので,もっと温度が上がる)ことなどが効いていると考えられる.逆に言うと,今回のサンプルの分析から推定される温度を満たすには,南極大陸の大部分の氷が消えており,十分植物が繁茂していることが要請される.

そんなわけで,後期白亜紀の少なくとも一時期(チューロニアンからサントニアンのあたり)では南極大陸が温帯雨林の豊かな植生に覆われていたらしい,という研究結果であった.いやー,研究する人の執念というか,いろいろな環境分析手段が開発されてるもんですねぇ.土壌中の有機物を抽出してHPLCで分離,マスで見るとか,これだけ古いものでもできるってのは驚きです.

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

読み込み中...