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日記

phasonの日記: 過剰な降雨が誘発したハワイ島の火山活動

日記 by phason

"Extreme rainfall triggered the 2018 rift eruption at Kīlauea Volcano"
J. I. Farquharson and F. Amelung, Nature, 580, 491-495 (2020).

ハワイ島のキラウェア火山が2018年5月に非常に大きな活動を見せたことは記憶に新しい.この時の噴火はここ200年でも有数の規模の活動であり,例えば住宅地でも亀裂が生じ溶岩が噴き出すなど,最近の火山活動とはやや異なる挙動がいくつか見受けられた.特に火山学者らが注目したのは,噴火前に山体膨張が見られなかった点である.通常,大規模な火山活動は,深部からマグマが上昇し火山のマグマだまりに供給されることによって生じる.ところが2018年の大規模噴火では,非常に大きな噴火でありながら事前の山体膨張はほとんど確認されていない.これは噴火の原因が,地下深くからマグマが供給されたわけではないことを示唆している.
では,この噴火の原因は何だったのだろうか?今回著者らは,同時に起きていた異常降雨がその原因ではないかと指摘している.
もともと,浅部で起こる火山関連の活動と降雨の間に関係があることはよく知られており,いろいろと研究はある.例えば火口の溶岩ドームが降雨で崩壊することもあるし,浅部地下水がマグマにより加熱され高圧の水蒸気を生じ,それが水蒸気爆発を生じるなどもよくある話である.しかしながら2018年のハワイの噴火では,マグマはもっと深い位置に存在しており,このような深いマグマと降雨との関係は明らかになっていない.

著者らが立てた作業仮説は以下のようなものである.大規模な降雨が陸地にしみこむと,地下深部での圧力が増加する.するとその圧力を受けたマグマだまりの圧も増すため,地殻の弱い部分が突き破られる可能性が増大する,というものである.要するに,カレーパンなりあんパンなりの上から重りをのせれば弱い部分が割れて中身が漏れだす,というようなものだ.
何故著者らがこういった仮説を立てたのかといえば,

・前述の通り,マグマの移動などは事前に確認されていない.それ以外の何らかの原因でどこかが「破れた」と考えられる.
・この年は非常に降雨が多く,2018年の1-3月期の降水量は2.25 mと,例年の2.5倍にも達する.これは統計的に2σを超えるような大きなズレである.
※ハワイ島の北西にあるカウアイ島では,24時間雨量が1.26 mにも達したらしい.

という2点にある.異常な事態が2つ同時に起きていたので,何か関連があるのではないか,というのがとっかかりというわけだ.
そこで著者らは,降雨によりどの程度地下の圧力が増大するのかを,大雑把なモデルで計算した.メインのモデルは,上部(浅部)に水の透過率の高い地表が500 mあり,その下10 kmまでは透過性の低い地層が広がる,というもので,水平方向には均一(つまり,1次元方向のみ考えればよい)というモデルになる.一応他にも3つぐらいのモデルで計算しているようだが,そちらまでは読んでいないので割愛.
そんな単純化したモデルで著者らが計算してみたところ,ハワイ島における異常な降雨の結果,地下でも最大で数十 kPaていどの圧力の増加が生じても良い,という結果を得た.地表近くの急激に圧力が変化する部分を除いても,例えば地下1 kmで1 kPa程度,地下3 kmで0.1 kPa程度の圧力増加はあっても良い,ということになる.この地下3 kmというのは,横方向でのマグマの移動が最も起こっている領域,だそうだが詳しいことは不明.多分,ハワイ島での噴火によく関係する深さ,という感じなのだろう.
0.1 kPaというと,大気圧の変動と比べるとかなり小さいような気もするが,地下数 kmともなると,地上での気圧変化は途中の地殻中での摩擦などで相殺されてしまい,なかなかここまでの圧力はかからない……のだろうか?この辺りは分野外で感覚が無いのでよくわからないが……
過去の研究からは,大雑把にいって10 kPa程度マグマの圧力が変化すると,マグマがどこかを破って噴出する可能性が非常に高いらしい.それと比べると0.1~1 kPaというのは小さいが,もともとハワイ島は非常に噴火しやすい場所であり,あちこちがギリギリ噴火しない程度で保たれていることを考えると,この程度の地下圧力の増大が噴火に繋がるのもおかしくはない,そうだ.
なお著者らは過去の噴火のデータと気象データの相関も調べており,1975年以降の大きな噴火33のうち,20は(降水量から推定した)地下圧力が顕著に増大していた(と考えられる)時期と重なっており,ハワイ島における噴火には降雨がこれまで考えられていた以上に影響しているのではないか,と述べている.

そんなわけで「もしかしたら雨と噴火に関係あるかも?」という論文だった.
ちょっと微妙なところなんで,個人的には「そういう可能性もあるだろうけど,もうちょっと追加の研究待ちかなあ……」という感じ.
Extended Dataとしていくつかの統計的なグラフが載っているが,降雨の多い時期と噴火時期に何の相関もなく単なる偶然だとすると,そういった偶然が起こる可能性は2σぐらいに位置するらしい.まあ,相関はありそうな気がしなくもないが,偶然でもギリギリ文句言えないかなあというところ.

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