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日記

phasonの日記: 空気の上に浮かせた重い液体中での下向きの浮力

日記 by phason

Floating under a levitating liquid
B. Apffel, F. Novkoski, A. Eddi and E. Fort, Nature, 585, 48-52 (2020).

流体の運動は,それを表す基礎方程式から原理的には(極端な条件下を除いて)解くことが可能ではある.ただその式は(一部の単純な条件下を除いて)解析的な解をもたず,しかも場合によっては計算量も非常に大きくなることからさまざまな計算法・近似方が研究されている.特に粘性が大きかったり圧縮が可能な流体がさまざまな境界条件のもとでどのような運動をするのかに関してはまだまだ未発見の現象が隠れており,現在でもいろいろと面白い現象が見つかっている.今回はそんな,流体での面白い現象の紹介である.

さて,水などの重い流体と,油(であるとか,空気であるとか)のような軽い流体が同じ容器の中にある場合を考えよう.この場合,もちろん最安定となるのは重い流体が下に来て,軽い流体が上にある場合である.当然ながら大きな容器に水と空気を入れると,最終的には水が下に来て上が空気で満たされる.例外としては例えば細管であれば毛管力によって水が上に来ることもあるが,まあ普通のサイズでは水が下に来る.
ところが,(私自身は寡聞にして知らなかったのだが)容器中で重い流体が上に来ている場合でも,縦方向の振動を与えることでその状態を維持できる,ということが1970年やそれ以前の段階で発見されているらしい(例えば1970年のPRLの論文).
通常,軽い流体(例えば空気)の上に重い流体(例えば水や油)が乗っていると,摂動(=小さな揺れや傾き)によりその界面の一部が下に落ち始める.そのような変形は,エネルギー的にはさらに拡大した方が(=重いものがより下に落ちていった方が)安定であり,そのため小さな摂動が大きな変形へと拡大,最終的には上に乗っていた液体が下に落下する.ところがこのような二相系が入った容器全体を上下にある振動数で軽くゆする,例えばサンプル瓶に油と空気を入れ,全体を縦方向に軽くゆすると,この振動により界面に発生した「波」の運動が摂動により生じた「液体の落ち始めの動き」を破壊することになる.要するに,上に乗った液体の一部が垂れ下がり始めたところで,液体-気体の界面に生じた波が上向きの運動を引き起こせば,そのような垂れ下がりは引っ込んでしまうわけだ.これにより,「軽いものの上に,重い液体をのせた」状態が安定化され,例えば「空気の上に油が浮いている」という面白い状況を作り出すことが可能となる.
もちろんこの際に振動はどんな振動数でも良いわけではないし(うまいこと表面波を共鳴的に励起できる振動数の必要がある),容器の広さが広くなりすぎるとこの効果よりもどこかで液体が落下する方が強くなってしまうので崩落する.大きな液面を安定化するには,それなりに大きな粘性をもった流体を使う必要がある.

今回の論文で報告されているのは,かなり大きなサイズでの液体の空中浮上と,その下部界面における「逆向きの浮力」(としてふるまう力)である.
著者らが用いた装置は,ガラス製の液体を入れられる容器全体を縦に振動させられるものである.容量的には液体を500 mlほど入れて実験を行っている.てっきりもっと小さいサイズでしか浮かせられないのかと思いきや,なかなかの大容量である.
この容器に,粘性の高い液体としてシリコンオイル(またはグリセロール.どちらでも同じ結果になる)を入れ,振動させる.そして容器の底に向け針を突っ込み,容器の底=液体の下に空気を注入していく.すると液体が見事に空気の上に浮く,というわけだ.もちろん実際には,あらかじめどのような振動数で共鳴するのかをちゃんと求めてやり,その振動数で容器を揺らしておく必要がある(今回の場合,およそ100 Hz程度).そのような条件で浮いている液体の下部界面(下の空気と接している部分)をよく見ると,レイリー・テイラー不安定性により重い流体である水が垂れ下がって落ちようとしても,界面に生じている振動により押し戻され結局浮いた状態が維持されていることが見て取れる.とまあ,グダグダ書くよりも,動画を見てもらった方が早いだろう.

下に空気を注入されても浮いているシリコンオイル
界面の拡大動画
二段の液相を浮かせることもできる

動画で上にあるのが空気,その下がシリコンオイルで,シリコンオイルのさらに下に空気を注入すると,液体のシリコンオイルが宙に浮いた状態を維持する.下部界面をよく見ると,振動により励起された表面波が界面を激しく揺さぶっており,小さな沈降が大きな落下に成長するのを阻害している.

さて,この浮遊した液体で報告された面白い現象が,逆向きの浮力である.例えばこの浮いている液体の上側(ピッタリ半分,というわけではないが)に気泡が入ると,当然ながら気泡は上向きに進む(次の動画の前半部分).ところが液体の下側の方に気泡が生じると,まるで浮力が逆向きに働くかのように,気泡は下側に向けて移動する(動画の中盤).そして容器をゆすっている振動数をうまくコントロールすると,気泡を自在に上に進めたり(=通常の浮力),逆向きに進めたり,ちょうど制止させたりできるのだ.

気泡にはたらく浮力の動画

一応計算としては,単純な気泡にはたらく浮力の式であるF=ρVg(ρは流体の密度,Vは気泡の体積,gは重力)のVとgとして,容器を振動させることでの実効的な重力(とみなせる成分)として単振動する値(g-Aω2cos(ωt))を,そして気泡の体積として圧力により圧縮される効果(ただし,その圧力を生む実効的な重力が前項のように振動する)を入れ計算すると,このような位置(および振動数や振幅)に依存した浮力が導かれ,下方では下向きの浮力,上方では通常通り上向きの浮力が働くことが算出できる(詳しくはSupporting online materialの最初のあたりを参照のこと).
この結果,浮遊している液体の状面では普通に浮き,下面ではまるで重力が反転したかのように逆向きに「浮いた」状態が実現できる(次の動画の後半部分).

界面に浮くフロート

とまあ,何に使えるかは考えないとして,流体の示す面白い現象であった.

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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

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