tsykの日記: Stray Notes of the States (3)
前回〔(1), (2)〕から随分と間が空いてしまったが、レンタルビデオ屋で思い出したのでシリーズを再開してみる。
7~8年前の出張中の話。日本からのFAXが届いているかどうか確かめるために、休日であっても朝だけはオフィスに足を運んだ。緊急事態が発生していなければ、そのまま遊びに出かける。ある日、現地社員のエリックが奥さんを連れて来ていた。日本人がステレオタイプに想像するアメリカ娘のイメージ通りの金髪で色白でグラマラスなひとだった。
我々日本人が珍しかったのか、彼女は色々な質問を興味津々に訊いてきた。特に奇妙だったのは、「どうして日本人はみんな賢そうなのか」というものだ。日本語の会話を聞いて内容は理解できないが知的に感じるそうだ。もちろん僕はそんなことはないと否定して、どちらかと言うと曖昧な日本語よりも英語のほうが論理的に感じると言っても納得してもらえなかった。
ガールフレンドは居るのかという話になり、今は居ないと答えたら、えっ?どうして!と驚かれてしまった。たぶん自分がシャイだから…と言い訳すると、ますます不思議そうな顔をされた。エリックが話に参加してきて、今度彼の家に遊びにおいでと招待された。家までの地図を書いてくれた。どうやら自分一人を招待されたようだが、せっかくなので日本からの同行者と二人で行くことを承諾してもらった。(一台しか借りてないレンタカーを使って自分だけが遊びに出かけたら、同行者がホテルに寂しく缶詰になってしまうという理由)
地図を頼りにエリック夫妻の家まで辿り着いた。天井が高くて開放的な空間の家だった。夕食の準備が出来るまで時間があるのでビデオを借りに行こうということになり、彼の車の先導で再び夕闇の中へ走り出す。アメリカで初めて入るレンタルビデオ屋の大きさに圧倒された。(日本人向けに経営されているビデオ屋は頻繁に利用していた。「電波少年」とか「ごっつええ感じ」とかのテレビ番組の録画テープが堂々とレンタルされているのである。馴染みの客には店の裏から日本版の所謂「裏ビデオ」も出て来る仕組みだ。)
「君が好きなの選んでいいよ」とエリックに言われたが、なかなか決められない。タイトルを観てどんな映画か想像できるのは、日本で既に見てしまった有名な映画ぐらいしか認識できないのだ。日本で未公開の知らないものも多いし、そもそも原題と邦題が全然違うものも少なくないから混乱する。今思えば、ここで無難で有名な映画を選んでおけば良かったと後悔する。観るのが二度目でも問題ないという思考回路が働かなかった。おぼろげな内容だけ知っていたという理由で、マイケル・ダグラスの「フォーリング・ダウン」を選んだ。
家に戻って食事の準備を待っていると、もう一人の招待客がやってきた。美容師をしている知り合いの女性だと紹介された。あぁ、もしかして僕に彼女を紹介するのが目的だったのかと、その時に初めて思った。知人の女性一人と我々日本人二人が夫妻に食事をご馳走になっている間にどんな会話を交わしたか覚えていない。食後にリビングのソファでくつろぎながら五人で鑑賞した「フォーリング・ダウン」は、その場の雰囲気に馴染まない最悪のセレクトだった。
字幕が無いので必死になって英語を聞き取っても僕には内容が半分程度しか理解できない。でも、アメリカ人の彼らでもストーリーの意味については難解だったに違いない。家庭に問題を抱えた男が通勤中に巻き込まれた交通渋滞にブッツンして銃をぶっ放して暴れまくって悲惨な最期を遂げる映画が終わった後、あのリビングに流れた重い空気を忘れない。すっかり日が暮れて真っ暗になった帰り道は、美容師の車に先導してもらった。見覚えのある道路まで来た所で合図をして別れた。彼女の車のテールライトが遠くの交差点で消えていった。
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