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tsykの日記: Stray Notes of the States (4) 2

日記 by tsyk
もう10年前の話。何回目の出張だったか、同行者の居ない1人だけの空の旅にも慣れた頃だった。成田を離陸したデルタ航空機が水平飛行状態になった頃、隣の座席の同い年ぐらいの若い女性が本を読み始めた。手元が暗い状態のまま読んでいるので、ライトを灯すスイッチの在り処を教えてあげた。

「目に悪いからライトを点けたほうが良いですよ。」
「あっ、どうも。」

彼女はしばらく本を読んでいたが、どうも落ち着かない様子だった。やがて読書を止めてしまった。僕が持参した文庫本を読み耽っているとき、彼女から急に話し掛けてきた。

「あのう、すみません。ちょっとお話して良いですか?」
「えぇ、いいですよ。」

何の本を読んでいたのか、お互いの目的地は何処か、どんな用事で行くのか、ありふれた話題だ。しかし窮屈な狭い座席に押し込められて、至近距離で暫しの会話を交わせば、いやでも親密になるのが道理だ。僕はポートランド経由でアトランタまで行くと現地デバッグが待っている。彼女はポートランドで降りて知人宅にホームステイしながら輸入雑貨店のための勉強をするらしい。父に教えられて将棋が趣味だとか、彼女のほうはそんな話も教えてくれた。海外は初めてじゃないようだが、やけに饒舌で、そのことが逆に妙な緊張感を漂わせていた。

その理由は珍しいものだった。前回の旅行で何かのトラブルによって強制送還されたというのだ。だから今回の入国の際には何やら特別な書類を提出して入国審査官を納得させる必要があるらしい。フライト・アテンダント(つまりスッチー)を呼んで、その書類を見せてアドバイスを貰っていた。

ポートランドに到着し、入国審査の行列に並んでいる間、不安げな彼女を遠くから心配して見ているしかなかったが、どうやら無事に通過できたようだ。僕はターンテーブルに出てきたスーツケースを再び預けて乗り換えを待つ。そこで彼女を見送って別れた。

この偶然の出会いの後に続くドラマチックなストーリーは期待に反して有りません。お互いの連絡先や名前さえ知らないまま、それっきり。それから1ヶ月近くの滞在中、休日を利用してアトランタからポートランドまで飛行機に乗って遊びに行ったら面白かったかもなぁ、とか、ときどき思い出しては今でも残念に思うエピソードです。

※訂正(2003.08.03 18:24): ユナイテッド航空→デルタ航空
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  •  Stray Notes of the Statesを楽しみにしています。
    事実は小説よりもなんとかと言いますが、じっさいは何にもないものですよね。
    僕も似たような経験がありますけど、逆に何もなかっただけに、
    いつまでも記憶が残っているというか。。

    >やけに饒舌で、そのことが逆に妙な緊張感を漂わせていた。

     その雰囲気、とってもよくわかりますよ。
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未知のハックに一心不乱に取り組んだ結果、私は自然の法則を変えてしまった -- あるハッカー

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