uruyaの日記: 影武者徳川家康(上)(下) / 隆慶一郎
影武者徳川家康(上)(下) / 隆慶一郎
着手 11/25
読了 12/3
感想 ★★★☆☆
慶長五年、関が原の戦いに臨んだ徳川家康は、まさに戦闘が始まったそのとき、島左近子飼いの忍・甲斐の六郎の手により暗殺された!
影武者・世良田二郎三郎元信はとっさに家康になり代わり軍団を指揮。徳川内府討死の噂に浮足立つ東軍を、その酷似した容貌を自軍内に見せつけることにより、そして影武者を勤めるうちに身についた家康の思考法を駆使することにより、勝利に導く。二郎三郎は戦後大津城に入り、遅参した徳川秀忠の元で本多忠勝・井伊直政・榊原康政・本多正信の四将を交え、善後を図る謀議が行われる。そして、家康が征夷大将軍に任命されるまでの一年間、それを秀忠に譲るまでの二、三年、あわせて三、四年を二郎三郎の「任期」とすることで決する。
こうして家康を続けることとなった二郎三郎であるが、しだいに、冷血で酷薄窮まる秀忠と対立していくこととなる。「道々の者」として自由に生きてきた二郎三郎の反骨が、暗君秀忠を前にして頭をもたげてきたのである。
一方、島左近と甲斐の六郎は大坂に潜伏していた。石田三成の処刑に際し旧主と気脈を通じた左近は、二郎三郎が豊臣秀頼に対して慈悲心を抱いていることを知る。そして将来秀忠と二郎三郎が対立するであろうことを予見した左近は、偽家康・二郎三郎の味方となることを決意するのであった。
そして以後十数年に渡り、徳川初期の歴史の流れの陰で、二郎三郎と秀忠の智謀うずまく暗闘が、甲斐の六郎が縁づいた風魔一族と秀忠の某臣柳生宗矩率いる裏柳生剣士たちの死闘が、繰り返されることとなるのだッ…!
──────
単純に影武者の活躍を描く話にあらず。これは世良田二郎三郎、島左近、甲斐の六郎というそれぞれの英傑たちの生き様を描く、英雄譚である。
…うん、そうなんだけど、それだけじゃなかった。
吉原御免状を読んだときには普通に面白い小説を書く人だとしか思わなかったのだが、今回は、多数の人が隆慶一郎を愛してやまない理由がよくわかりました。「何言ってるの、この人?」とリアルで思いながら読んだのは荒山徹以来です。いや荒山徹を隆慶一郎以来と言うべきなんでしょうが。
この人が書きたくて書きたくてたまらないものは、つまるところ秀忠の陰険な暗君ぶりと宗矩の邪悪さなんですね。それをもう、くどくどねちねち、執拗に、脂っこく、上下巻1250ページにわたり、これでもかと描写する。隆慶一郎にかかると、全ての史実は秀忠・宗矩の邪悪さを証明する小道具と化すわけです。全ての文献は秀忠・宗矩の邪悪さを示す傍証となるわけです。まさに全編を秀忠・宗矩の邪悪さを表現することに費やしているわけです。これほど徹底的にやられたらいっそ笑いが浮かんでしまう。
そして隆慶一郎は、それほどまでに描きたい秀忠・宗矩の邪悪さの根拠として、脳内オレ設定を読者に縷々説明するわけです。この説明のユカイさといったらない。
たとえば島左近が駿府城で火事のまぼろしを見る場面。二郎三郎らが宗矩による駿府城放火を事前に知る理由づけとなる場面なんですが、左近が見た情景を告白した後に続く地の文で、
聞き捨てならぬ言葉だった。これは超能力研究の発達した現代から言えば、明白な『予知』である。別に左近が超能力者だったと云っているつもりはない。この能力は誰もが潜在的に持っているものだ。いわゆる虫の知らせであり…
超能力研究て 笑
常に命を駆け引きする武将にあってはその異常に発達した第六感が…とかなんとか言い切ってふんぞりかえってりゃいいと思うんですが、よくわからない話を持ち出してきてはくどくどと説明するのね。得々とオレ設定を述べた後につく語尾は「…と思う」「…ではないだろうか」。センセイ、デタラメ吹くにもほどがあります 笑
挙句の果てに「…ではないか。どうもそんな気がする。」と来た日には思わず噴きました。"そんな気がする"って地の文で書く作家。なんでしょう、これはやはり、己の脳内にあるものの面白さをなんとか読者に伝染させたいという情動の現れなんでしょうか。実に興味深いです。俺がおねえちゃんならセンセーカワイイーとか言うところです。
最高に笑ったのはここですね。ルイス・ソテーロという喰えない伝道師についての人物考察ですが、
日本の歴史学者の評価を並べてみよう。
『空想と事実との分別を失った半狂僧』(姉崎正治博士)
『僧侶としては惜しいほどの策略家』(幸田成友博士)
『極度に熱情性の人で、この性の人になると、自分の夢想したことをも直ちに事実として物語る傾向がなきにしも限らない』(浦川和三郎司教)
と芳しくない。
(中略)
平たくいえば、多分に大ぼら吹きであり、強引で図々しく且つ執拗な説得人であり、時に権謀術数を駆使しまくった喰えない男であるが、それはすべて宗門の発展を思う情熱のあまりであり、絶対に己れ個人のためではなかったということなのだろうか。
ええと、それなんて隆慶一郎? 笑
ここまでだとなんだかキワモノ本の感想みたいに見えますが、決してそんなことはなく。本書は、心震わす英雄達を活写し、ド迫力の戦闘シーンが展開される一大冒険活劇であって、多少というかかなり冗長だし意味不明な繰言を聞かされた感もありますけども、エンタテインメント的には文句なく面白いと言い切ってよいのではないか。わたしはそう思う。(隆慶語)
オレ解釈による英雄像を提示し無限の興奮を読者に提供する隆慶一郎が描くのは漢と書いておとこと読む人間どもであり、簡単に言えば、ちょおかっこいい。ギャル風に言えば、千ョ→ヵゝッ⊇レヽレヽ。漢たちが繰り広げる虚虚実実の智謀戦、風魔忍術対柳生刀術、己の奉じる何事かに命を賭す漢ども。これは、基本的にはそういったお話です。それにプラスして、隆慶萌え要素が満載であると思っていただければよろしいのでは 笑
2006累計 100冊/88タイトル