uruyaの日記: 十三角関係 山田風太郎ミステリー傑作選 2 -名探偵篇- / 山田風太郎
十三角関係 山田風太郎ミステリー傑作選 2 -名探偵篇- / 山田風太郎
着手 12/12
読了 12/16
感想 ★★★☆☆
チンプン館の殺人
もじゃもじゃ頭で頬に三日月型の傷、ガックリガックリ跛行で歩き、大兵肥満でいつも酔いどれ、巷の大医と自称して主にパンパンの堕胎をし、警察にもやくざにも顔のきく怪人物、荊木歓喜先生。
先生の住むアパート、チンプン館には四十九歳のパンパン、シベリア帰りのサンドイッチマンなどなど、妖しげな人々が住まっている。そのチンプン館で、殺人が起こった。モヒ中毒にさせて女を手玉に取る梅毒病みの麻薬ブローカーが、女に刺されたのだ。
抱擁殺人
見世物にされるため、どんな表情でも笑顔にしか見えないような手術を施された少年。敗戦後の中国から彼を連れ帰った麻薬ブローカーの老人は、一通の手紙を持たせ、ある屋敷を訪ねれば必ず下男として雇われると言い、彼を送り出す。老人と顔見知りだった歓喜先生は、そこに通りかかる。
西条家の通り魔
ちょっと知恵の足りない迷子を見つけた歓喜先生。血相を変えて駆け寄って来たその子の親は、歓喜先生の旧友だった。なんでも、その子だけを狙った誘拐犯に、何度も付け狙われているのだという。
女狩
歓喜先生が盲腸で入院した病院では、若い医師たちと一人の看護婦が、男女七人夏物語状態で恋の鞘当てを演じていた。ある日彼らは富士山の洞窟へピクニックに出かけるのだが、そこで恐ろしい事件が起こる。洞窟の中で何者かにいたづらされた看護婦が、恐怖のあまり発狂してしまったのだ。さらに事件はそれだけで終わらず、次には女医のひとりが青竹に串刺しになって発見される。
お女郎村
歓喜先生は往診に訪れた村で、新宿の名物的女傑で娼館の女経営者、鴉田笛とその息子玄一郎に遭遇する。お笛は、昔から身売りする者の多いその村の、出身者だったのだ。玄一郎によると、お笛は手狭になった別荘の代わりにと、今や斜陽である村の名家、保科家を買い取るつもりだという。そして歓喜先生は、玄一郎が想いをよせている保科家の娘に交渉の現場を見せたくない、一時連れ出してくれと頼まれる。
怪盗七面相
最近世間を賑わせている怪盗七面相が、七條家に忍び入り、美術品を全て偽者にすりかえた。しかし、普段は人に危害を加えない怪盗が、このときばかりは主人に硫酸を浴びせたという。かつて七條家に女中を斡旋したことがある縁で、歓喜先生が解決に乗り出すが…
落日殺人事件
戦後のどさくさでヤクザ者に土地を騙し取られた芦刈氏と、老人性脱疽に罹り足を悪くした元警視総監の薬師寺氏は、薬師寺氏の妻を介した旧友であった。再会し旧交を温めあう彼らを通して出会った芦刈氏の娘と薬師寺氏の息子は、すぐに恋に落ち、結婚を申し出る。ところがなぜか、薬師寺氏は、娘が処女であることを証明せよ、と条件をつけるのだった。二人は、旧知の歓喜先生を訪ねて相談する。
帰去来殺人事件
発狂し失踪したチンプン館の住人石黒を捕らえに、彼の生家のある村に住む後輩を訪ねた歓喜先生。そこには複雑な事情が絡み合っていた。石黒の母親は既に何者かに殺されている。村の有力者真金家では若旦那が結核で臥せり、叔父が家を宰領しているが、その叔父は女癖が悪く、石黒の腹違いの精神薄弱の妹を孕ませていた。石黒を虐待していた盲目の継父はそれを盾に真金家を強請っている。そして、真金家の叔父と石黒の継父は、歓喜先生と浅からぬ因縁があったのだ。
十三角関係
あやしい男どもが集う酒場に現れた、場違いに可憐な十七八の少女は、「恋ぐるま」の場所を教えてくれと尋ねる。そこは、高名な猛女が経営する妓楼であった。案内をかって出た歓喜先生が道々に少女から事情を聞くと、現在精神病院に入院している少女の母親は女経営者のマダムと旧知の親友であり、どういう意味あいがあるのか、一冊の聖書をマダムに送るように頼まれたのだという。
そして大きな風車のギミックを看板としている「恋ぐるま」に着いた二人は、異様な光景を目にする。四本の風車の羽根に、バラバラにされたマダムの四肢と首が括り付けられ、くるくると回っていたのだ…
妓楼に勤めるパンパン達と、当日マダムの元に来客した男たち、そしてマダムの旦那や息子の証言により、徐々にマダム周辺の事情が明らかになっていく。そして、彼の少女の母親と、父親であるモヒ中毒の元医者、マダムとがかつて三角関係にあったことも判明するのだが…
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短編集「帰去来殺人事件」と長編「十三角関係」を合本し、荊木歓喜先生シリーズを集めた名探偵編。
相変わらずのエログロてんこもりっぷりで展開される乱歩的あやしい世界と、容貌魁偉な怪人物だが情に厚い歓喜先生のキャラクターが魅力的です。医者が探偵というのは山風らしい。
「十三角関係」を除いては短編ばかりなので、トリック的な大技・ひねりは少なく、わりあいストレートだったり、小手先技だったりするものが多かった。特筆するとすれば「女狩」の大仕掛け、「落日殺人事件」のホワイダニットくらいでしょうか。
ただし「帰去来殺人事件」だけは別格で、長編にできるほどの話をコンパクトに詰め込み、歓喜先生の来歴が語られ、犯行動機やトリックも緻密に構築されて、あっと驚く仕掛けもありの、盛りだくさんな傑作短編でした。
そして長編「十三角関係」も、傑作と言ってよいでしょう。猥雑な世界で起こる惨劇、錯綜する登場人物たちの情念、意外な犯人、緻密なトリック、驚くべき動機。過不足がない。完成されつくした推理小説であり、人間ドラマであります。
作中に出てくる"嘘倶楽部"ってのがまた山風らしくて良いですね。
「人間はほんとうのことを百いっても、ひとはまあ五十くらいしか信用してくれない。また、百うそをついても、五十くらい信用してくれる。おなじことなら、うそをつけ!」
うむ、まさに山風そのものではないか。奔放な空想と奇想で読者を驚かし続けた山風が語る嘘談義。まことに興味深い。
memo
1. 眼中の悪魔 本格篇 読了
2. 十三角関係 名探偵篇 読了
3. 夜よりほかに聴くものもなし サスペンス篇
4. 棺の中の悦楽 悽愴篇
5. 戦艦陸奥 戦争篇
6. 天国荘奇譚 ユーモア篇
7. 男性週期律 セックス&ナンセンス篇
8. 怪談部屋 怪奇篇
9. 笑う肉仮面 少年篇
10. 達磨峠の事件 補遺篇
2006累計 104冊/92タイトル