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uruyaの日記: ぢん・ぢん・ぢん / 花村萬月

日記 by uruya

ぢん・ぢん・ぢん / 花村萬月
★★★☆☆

奥多摩の田舎から新宿に飛び出してきて、浮浪者の仲間になるまで墜ちていた、作家志望の青年イクオは、松代姉さんに拾われることになった。松代姉さんは、美人の奥さんがいる「女好きのオカマ」として新宿では有名人であり、ゴールデン街でバーを開いている。さらに副業で新宿のタチンボのオカマをたばねるヤクザも兼ねている人だ。
作家や編集者が訪れる松代姉さんのバーでバーテンをすることになったイクオは、その店で、最低に醜いドブスな中年女の編集者則江に出会う。そして松代姉さんは則江のヒモになるようイクオに命令する。イクオは逆らえずに則江を犯し、童貞を失う。
それから、イクオのヒモ修行が始まった。新宿に棲む奇怪な面々が教師である。松代姉さんはもとより、義兄弟のヤクザやインテリの浮浪者、ホモの作家などを通して、イクオの前に煉獄が広がる。

─────

ラスト1/5を読む前と後で、全く違う感想を持つ小説が、たまにある。そのパターンだった。

その前の4/5の部分は、とにかく入り込めなかった。あれあれあれ?ダメだ、これは。どうしたことだ、と。その理由はわりとはっきりしていて、主人公イクオが何も背負ってないからである。こいつからは何も伝わってこないし、俺はこいつにどういう種類の共感もすることができなかった。
村上も、山崎も、ロウも、彼ら自身が重い悲しみを背負っていた。鷲津の場合は、背負わされるまでを描いた物語だ。しかしイクオは、一人だけ安全圏にいて老成した達観を見せる、つまらない男にしか見えない。何様だ。一応は悩んだような顔をして思索にはげむものの、結局はご都合主義的な万能型主人公でしかない。
「神の器」を案内役にして見せられる煉獄からは、個々のエピソードの登場人物が持っている悲しさや怒りや業のようなものがストレートに伝わってこない。イクオの目を通すことで全てのエピソードが陳腐化されているように感じた。

ところがですよ。
最後の1/5で、話が転がりだすのだな。全てはこうあるべくしてあったのだと腑に落ちる。
醜さと美しさが等価に描かれる世界の中心にあるように見えたのは、空虚な「性/生」の象徴だった。見事な収束。これは素晴らしい。

だがしかし、イクオの魅力の無さに辟易したのは事実であって、そこ減点。
あとさすがに意味も無くセックスシーン多すぎ。いつも多いけどその二乗くらい多すぎ。俺内許容バッファオーバーフロー。ノーマルなセックス描写は限度を過ぎると読み飽きてくるですよ。「まーたおっぱじめんの?」てなもんで。サクッと脳内映像早送りですわ。これがアダルトビデオならドラマ部分を早送りですが。

まあ総合的には十分に面白かったが、手放しでこれはすごいと言うほどのものでもなく、しかしこのカタストロフはグレイトであると思うわけで、どう咀嚼していいのか俺自身としても微妙である。

ドブスな中年女を相手にしてヒモとなる決心をつけかねるあたりで逡巡したあげく、きれいなオカマと醜い女どっちを相手にする方がマシ?という命題をうんこ味のカレーとカレー味のうんこならどっちを食べる?という究極の選択にすり替える思索には笑った。「以後」の花村萬月にはこういうユーモアもあるということか。

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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