パスワードを忘れた? アカウント作成
505209 journal

uruyaの日記: 元気なぼくらの元気なおもちゃ / ウィル・セルフ

日記 by uruya

元気なぼくらの元気なおもちゃ / ウィル・セルフ
★★★☆☆

リッツ・ホテルよりでっかいクラック
麻薬の売人だったが、元締めのブツをちょろまかしたのがバレそうになり、軍隊に入って逃亡したダニー。除隊してから職を探していたが、あるときボロい家を修繕しようとして、クラックの鉱脈を掘り当てた。ダニーは弟のテンベを使ってそれを捌かせる。

虫の園
田舎の家は虫だらけ。ハエやダニ、シミ、アリなどなどの虫、虫、虫、虫…
ジョイがいなくなってから異様に虫が気になりだしたジョナサンは、大量のバポナやハエ取り紙を使って虫退治にやっきになっていたが、あるとき、壁から湧き出たシミの群れが文章を形作っているのを目撃する。

ヨーロッパに捧げる物語
高齢出産で子供を授かったミリアムとダニエル夫妻は、言葉を話す年頃にさしかかった息子ハンピーが、意味不明なことばかり口走るため、知能に障害があるのではないかと悩んでいた。
一方、ドイツ銀行の調査部長ツヴァイイェリッヒは、様子がおかしい。

やっぱりデイヴ
カウンセラーのもとを辞去してパブに向かうと、デイヴがいた。デイヴは二人いる。ファット・デイヴとオールド・デイヴだ。パブを出て公園に向かうと、デイヴがいる。いたるところにデイヴがいる。

愛情と共感
遺伝子操作により生まれた身長四メートルの"大きな子供"エモートと、性的関心・肉体的接触を排除した"大人"がペアで生活する世界。そこでトラヴィスはカリンに出会い、デートを申し込む。

元気なぼくらの元気なおもちゃ
代理診療に行った北の町から、千キロの道のりをロンドンに向けて爆走する、女好きの精神科医。妄想じみた思索にふけりながら一路南下する彼は、途中でヒッチハイカーを拾う。

ボルボ760ターボの設計上の欠陥について
ビリーは女房にバレないようにセリーナと浮気するため苦心する。

ザ・ノンス・プライズ
あれから数年、ダニーは売人家業に精を出していたが、昔ネタをちょろまかしていた時のボス・スカンクにハメられて、幼児レイプ殺人犯に仕立てられ刑務所にブチ込まれる。性倒錯犯罪者が保護されている(ヘンタイ野郎は他の囚人に殺されてしまうのだ)房に入れられたダニーだが、所長に勧められてある事をはじめる。

─────

奇想コレクション。

海外版「投げ捨てジャーマンかまして置いてきぼり作家」キター
まずこの著者の場合経歴がすごい。12歳からドラッグに手を出し、コカイン漬けになりながらもオックスフォード哲学科を卒業。どんな天才だよw 25歳のときアル中とヤク中で治療センター送りになり、更正して作家デビュー。現代イギリス作家の中でも奇才中の奇才と称えられる。ねーよw

作風はもう、奇妙奇天烈な作品ばかり。投げっぱなし、殴りっぱなし。その経歴からか、やはりドラッグについての描写が多いのも特徴。ドラッグそのものを扱ったものあり、ドラッグがもたらす幻覚のような幻想的描写あり。さすが英作家というべきか、パンキッシュですな。

一読した感想は「わけわからん」。しかし、読んだ時間を損したという気は、なぜかしなかった。短編集としてまとめた感想を書くのは俺の思考力と語彙では無理なので、ひとつずつ書いていく。

「リッツ・ホテルよりでっかいクラック」
そのまんま、売人とジャンキーの話。ドラッグがもたらすニセモノの万能感とホンモノの喪失感の錯綜がオチ。かな?

「虫の園」
ドラッグ妄想的描写のあるホラー。とてもオチらしいオチがついている作品。

「ヨーロッパに捧げる物語」
SF的にはよくあるような話かと。元東独人の銀行家の死と英国の新生児の対比、そしてこの表題という思わせぶりなお話。

「やっぱりデイヴ」
分裂病的な妄想全開の作品。こういう描写は真骨頂。

「愛情と共感」
これもSF的手法で、皮肉たっぷりに描く作品。解説によるとエモートは"肥大化した内なる子供のメタファー"らしい。その通り、子供のような大人の話。

「元気なぼくらの元気なおもちゃ」
"ロンドンに帰る途中のアル中でジャンキーの精神科医がヒッチハイカーを乗せてインタビューする"という話。それだけ。何の筋もない。正常側から少しだけ異常側に片寄りかけている、要するにイカレてる思索が延々と語られる。やはりこのような、一見意味不明な内面描写がこの著者の面白さなのだろう。ジャンキーの思考というのは、こんな風にイカレてるのだろうな、というリアリズム。

「ボルボ760ターボの設計上の欠陥について」
「元気なぼくらの元気なおもちゃ」と同じ主人公を使って、今度は過去の不倫話のコミカルなエピソード。この辺りでなんとなく読めてくる。一見して支離滅裂でイカレた文章は、むしろそれがために、思わせぶりに解釈できる。それが、ある場合には暗喩に見えたり、ある場合には風刺に見えたり。イカレぶりと同時に存在する皮肉ってのは、訳知り顔に考察したくなるんだな。

「ザ・ノンス・プライズ」
なるほど、オーケー。いい話?どこが?
イカレた馬鹿どものイカレた話だ。

なんとなくだけど、この作家はネイティブスピーカーが母国語で読まないと完全に理解するのは難しいんじゃないのかなあ、という気がした。日本語で言うと、たとえば古川日出男を英訳しても向こうの人に全ては伝わらないよね、というような。
これを訳した訳者の苦労は計り知れないだろうと思われる。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

アレゲはアレゲ以上のなにものでもなさげ -- アレゲ研究家

読み込み中...