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uruyaの日記: アラビアの夜の種族 / 古川日出男 2

日記 by uruya

アラビアの夜の種族 / 古川日出男
★★★★★

ナポレオン軍の侵攻を控えたエジプトの首都カイロ。旧態依然とした騎士たちの迎撃で事足りると考えているの二十三人のマムルーク支配者たちの中で、イスマーイール・ベイだけはフランス軍の近代戦争の実態を知り、危機感を抱いていた。
そんな中、イスマーイール・ベイの奴隷(現代の語感とは違う。家臣くらいの意味)の中でも図抜けた若者アイユーブは、ある書物の話を進言する。「災厄の書」と呼ばれるその書物は、読んだ者を虜にして寝食も全て忘れさせ、何も手につかなくなるほど夢中にさせる力がある。それをナポレオンに渡し、撃退しようというのである。
進言を承認し「災厄の書」の翻訳を指示したイスマーイール・ベイであるが、しかしアイユーブの話には欺瞞がある。「災厄の書」など存在しないのだ。なぜなら、今から作るから。アイユーブら夜の種族たちは、語り部と共に「災厄の書」を捏造し始める。

─────

これはすごい。

まず、捏造された一大叙事詩が面白い。最高に面白い。
アーダンという大妖術師が有為転変の末に蛇神と契約し迷宮を築いて魔王として君臨。数千年の時を経て復活した魔物がうろつく無限回廊に、数多くの痴者が住みつき、冒険者がお宝を求めて彷徨する。その迷宮で頭角を現すのは、白の魔術師ファラーと剣士サフィアーン。迷宮に集った三人の主人公は、最下層の玄室で邂逅する…
まあRPGの王道ですよ。というかウィザードリー世界を捏造してみました、という以外の何者でもないんですが、スペクタクルあふれる剣と魔法のファンタジー世界が、古川日出男の軽妙な文章でテンポよく展開します。長大なストーリーが一切破綻せず緻密に構成されているのも素晴らしい。

さらに話はそれだけに及ばず、最後まで読み通したとき、トリックに満ちた構成が浮かび上がる。アーダンの物語、ファラーの物語、サフィアーンの物語、アイユーブの物語、著者の物語、訳者の物語、そして俺の物語。拡げに拡げた大風呂敷を、そのままのスケールでたたみきっちゃう、いつもながらの力量。スゲェ。感服した。

この作品、形式はファンタジーだけど、たぶんそれは本質じゃないと思われ。これは、本読みの、本読みによる、本読みのための物語だ。本に夢中になって徹夜で読み明かした経験を持つ者ならば、きっと「夜の種族」の意味を共有できるだろう。現世は夢、夜の夢こそ真、と乱歩は言った。

ファンタジーに抵抗のない本読みはすぐに読むべき、と断言したい。傑作である。

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  • by patagon (1453) on 2007年03月05日 12時15分 (#1120775) 日記
    これはフィクションと分かっていても、読んでいると史実みたいに響いてきて、自分自身がとりつかれそうな感じになりました。
    http://srad.jp/~patagon/journal/372335 [srad.jp]
    http://srad.jp/~patagon/journal/374146 [srad.jp]
    • by uruya (22272) on 2007年03月05日 15時18分 (#1120867) 日記
      なんというか、リアルですよね。フィクションとしてリアル。これが全て捏造、構造すら捏造、あげくに読者さえも捏造しようってんだからスゲェですよ。
      あと文体はネット書評なんか見ると「読みにくい」というのが多いですね。個人的には特にそういう印象は受けなかったので、これは波長が合う合わないの問題でしょうか。軽妙洒脱な修辞語やキャラにそぐわない会話文とか、大好きなのです。ドゥドゥ姫がニターッと笑ってちんぽこ連呼なんてゲラゲラ笑いました 笑
      親コメント
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コンピュータは旧約聖書の神に似ている、規則は多く、慈悲は無い -- Joseph Campbell

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