uruyaの日記: 一夢庵風流記 / 隆慶一郎
一夢庵風流記 / 隆慶一郎
★★★★☆
前田慶次郎利益は滝川一益の従兄弟の子で、尾張荒子城主前田利久の養子であった。前田家は信長の横槍により利久の弟利家がこれを相続することとなり、利久と慶次郎の義父子は諸国を放浪する。その後信長が本能寺に滅び、利家が加賀へ入るとようやく利久と慶次郎は前田家に身を寄せ、前田家の三兄で重臣である前田安勝の娘との間に幾人かの子を設けた。
そして利久が亡くなると、慶次郎と前田家との関係は急速に薄れる。安勝の娘である妻と子の身は安泰であり、義父の死によって養子としての義理は全て果たされたのである。
身長190センチ体重90キロを超える雄大な体躯を持ち、戦場にあっては朱柄の長槍を振り回して一騎で敵に切り込む天下無敵のいくさ人、駆る馬は天下の駻馬・松風号。さらにはまた一代の風流人でもあり、自由奔放に生きた最強の傾奇者、前田慶次郎が加賀を出奔して後の波乱万丈な活躍を雄渾に描く。
─────
いやいやいや、面白いのなんの。なにせ前田慶次郎のキャラクター造形が凄すぎる。カッコよすぎる。
言わずと知れた『花の慶次』の原作だけど、そちらは全く未見。しかし原哲夫がこれをコミカライズしたなら、それもまた面白いだろうなあ。松風なんてまんま黒王じゃないか。それにこの慶次郎なら、その末期には「わが生涯に一片の悔い無し!」くらい言いそうだ。「天へ帰るに人の手は借りぬ!」
脇を固める登場人物らもいい味出してる。捨丸や骨といった、一度は慶次郎の命を狙うものの人物に惚れ込んで味方に回る忍者たちや、直江兼続の颯爽とした人物像。ちらっと出てくる秀吉や家康なども溢れんばかりの人間的魅力を垣間見せる。あと吉原御免状を先に読んでいるとニヤッとするようなエピソードもあり。
そして松風だ。人ではない松風が慶次郎の相棒として一番頼もしく見える。
ストーリーは至って単純明快。出奔して京に上った慶次郎が秀吉から気儘御免の許しを得、天下を股にかけて大暴れするという、娯楽大作。京で直江兼続と親友になり、また、ある人との恋愛の末に別れざるをえなくなって、失恋の痛手を忘れるためいくさを求めて越後上杉家へ加勢。越後から帰ると、石田治部少輔に睨まれて一転、朝鮮へ渡る。そこに待ち受けていたのは悪行の限りを尽くす両班が飼っている朝鮮柳生剣士たち。魔剣をかいくぐり今はなき伽耶国の血をひく少女を救出した慶次郎に、さらに朝鮮妖術師の放つ暗黒妖術が襲い来る。開戦が迫っている朝鮮出兵、壬辰倭乱に関する家康の密書の内容とは何か。慶次郎は恐るべき陰謀の渦中へ飛び込んでゆく。途中から嘘です。すみません。むしゃくしゃしてやった。
まあ嘘はおいといて、この作品はまさしく自由気儘に、生きたいように生きている気持ちのいい男を描いたものでして、隆慶一郎が一貫して描いているところの《道々の輩》のような"自由を愛し、権力と戦う人々"と、スーパーヒーロー的主人公とを掛け合わせたパーフェクトな人物像が、この前田慶次郎という男であります。しかしまあパーフェクトすぎるがために、他作品で《道々の輩》たちが宿している翳のような側面が無く、多少お話が単純すぎるような印象もありました。
「だがそこがいい」
そうね、だからこそ少年マンガの原作としてはこれ以上のものはないんでしょうね。
伝奇と少年マンガメソッドって相性いいんだなあ、と改めて思い知らされました。
一夢庵風流記 / 隆慶一郎 More ログイン