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uruyaの日記: KENZAN! 創刊号

日記 by uruya

KENZAN! 創刊号

柳生大戦争 / 荒山徹
第一部 剣神降臨ノ巻
禅僧として高麗の国師まで登りつめた晦然は、元寇に従軍し水死した高麗兵の霊を慰めようと一念発起。倭国に向けて勇躍と出帆するのだが、突然の嵐に見舞われ船は難破。ひとり日本へ流れ着いた晦然は元国の諜者であると看做され斬られそうになる。が、まさに首に太刀風がかかろうとするそのとき、一人の天狗がその危機を救った。それこそは柳生悪十兵衛、亀山上皇子飼いの剣の達人であった。
亀山上皇の理解を得た晦然は、高麗兵を慰霊するため、悪十と共に博多を目指す。途中で平家の怨霊、安部定、魔羅なし芳一らに関わりながら、ようやく博多についてみれば、なんと高麗の死者はすでに日本の僧によって慰霊されてしまっていた。とんだ徒労である。
このまま帰るのは馬鹿馬鹿しいと思った晦然は、日本に着いて以来、事あるごとに感じていた日本の神の重要性、それが朝鮮にも必要だと考え、日本神話をみっちり勉強した後に帰国するのであった。
そしてあるとき、朝鮮の一然という人物から悪十宛てに書状が届く。一然とは帰国後改名した晦然であり、そこには、日本書紀他をインスパイヤし、悪十をモデルにして檀君神話を捏造した一部始終が詳細につづられていたのだ。そして、朝鮮民族が神話を盲信するのあまり暴走を始めたときは、この書状を公開し、それを止めるようにと依頼していたのである。

雑兵 / 白石一郎
佐々成政の軍勢八千に囲まれた末森城、奥村助右衛門以下守兵八百。気丈な城代の奥方と腰元衆は、金沢から援軍が来る数日間を持ちこたえれば勝つ、と意気軒昂に軍を鼓舞して士気もあがる。しかし鉄砲組の浅利勘助は、とてもではないが持ちこたえられるわけがないと思っていた。よく予言めいたことを吐く同僚の小森小籐太も、城は三日ももつまいと冷淡に言い放つ。そして勘助は城が落ちる前に逃げだすだろう、とも言うのだった。
その予言どおりに戦況は進み、いよいよ丸裸にされた本丸のみに立て篭もる守兵たち。そのとき、忠臣と評判の高かった鉄砲組組頭小田軍兵衛が勘助に頼みごとをしてくる。城を落ちるのであれば、息子を連れて行ってくれというのである。

雨の離れ山 / 宮本昌孝
公儀御目付役長田三右衛門の妻幸江が拐わかされ、身代金が要求された。その犯人は妖気を漂わせる浪人者と、浪人が「兄者」と呼ぶ男らの一党である。三右衛門とその配下たちは、金の受け渡し時を衝いて幸江の奪還を図るが、手練れの使い手である浪人に多くの配下を斬られ、救出は失敗。幸江はその場で舌を噛み切って自害してしまう───
───三右衛門とは同僚である旗本御庭番村垣吉平は、妻が病のため亡くなったという話を三右衛門から聞き、娘紀乃に伝えた。幸江と紀乃は仲の良い女同士であったのだ。墓参りは無用という三右衛門の話であったが、紀乃は聞かない。そうこう話をしているうちに、一人の百姓女が屋敷に駆け込んでくる。鎌倉の駆け込み寺東慶寺へ向かう途中、追っ手に追われて逃げ込んできたというのだ。吉平は、紀乃に百姓女を鎌倉まで送っていくように勧める。それには、東慶寺門前の餅菓子屋の息子で、紀乃の想い人である和三郎と逢わせてやろうという含みがあった。

山彦ハヤテ / 米村圭伍
第一話 雪虫
入ることを禁じられている山、お留め山に住む不思議な少年、ハヤテ。ある日ハヤテは、斬り結んだあげくに力尽きたんだかのような格好で川端に倒れている若侍三代川正春を発見し、助ける。
ハヤテに助けられたこの男、実は陸奥国折笠藩五万石の藩主であった。折笠藩では、前藩主が没した後に跡目を継いだ正春を立てる筆頭家老派と、妾腹の弟光延を擁する次席家老派との間に、お家騒動が勃発していたのである。その争闘の末に正春は山中に行き倒れてしまう仕儀となったのだ。敵の一派に狙われている正春はヘタに帰るわけにもいかず、ハヤテの世話になるが、そうこうしているうちに一匹の痩せ犬を見かける。

楽昌珠 / 森福都
十八歳の蘇二郎は翡翠に誘われ、十六歳の廬七娘は猿を追いかけて、十七歳の葛小妹は虎に助けられ、桃源郷のような場所へ迷い込んだ。十年前まで仲のよい幼馴染だった彼らは、聖獣たちに導かれて不思議な再会を果たす。そして三人は、七娘を誘い込んだ猿の出す酒に酔って、夢の中に引き込まれる───
───三十六歳の二郎は、突厥の奇襲の報を受けて廬将軍の救援に向かう。突厥防衛の任に当たる陳総督と廬将軍は犬猿の仲であり、急を告げる使者を判官である二郎に使わしたのは、陳総督への救援の取り成しを願ってのことであった。おりしも総督は留守であり二郎は独断で援兵を率いて急行するが、時すでに遅く、廬将軍は戦死。勝手に兵を出した責任を問われて左遷された二郎は、廬将軍の娘で十五歳の少女清風を引き取って伴い、任地に赴く。二郎は清風を七娘と呼んだ。
その後僻地勤務を経て中央へ戻った二郎だが、その頃の朝廷は百鬼夜行の魔界と化している。武則天に取り入った美男の兄弟張氏が、思いのままに権勢を振るっていたのである。

南大門の墨壺 / 岩井三四二
以仁王の平家追討の令を受け、頼政・以仁軍に呼応し立った興福寺と東大寺の大衆勢。当時の奈良は実質的にこの二寺が支配していたのである。しかしそれに対して平清盛は万を越す大軍を派兵。ついに二寺は陥落し、奈良の町は火に包まれ、その火勢は大仏殿に及ぶ。東大寺の番匠(下級大工)夜叉太郎は、この火災で母と妹を失った。火急の時は大仏殿に逃げ込むよう支持したのは、ほかならぬ夜叉太郎であった。
その四年後、大仏殿は復旧工事に着手している。この再建を任された重源商人は、宋人の技術によって建築を行うことを方針とし、それに従う大工と、反対して旧来の工法を支持するものの二派に別れ、争っていた。まだ修行中の身であるとされる番匠の夜叉太郎は、この争いにはまだ加わっていない。

ちよこれいと甘し / 畠中恵
明治を二十年も過ぎたころ。岩崎小弥太は、彼が手に持っているものを狙う何者かに追われ、馬車鉄道に乗って逃げようとするが、タッチの差で乗り逃がしてしまう。その馬車鉄道に乗り合わせていたのは、西洋菓子職人の皆川真次郎と、その知り合いの女学生小泉沙羅だった。馬車に追いすがる小弥太とその追っ手を見た真次郎は、小弥太を助けて馬車へ引っ張りあげる。
ちょうど巡査の慰労会へ菓子を届けにいく途中だった真次郎は、そのまま小弥太と沙羅を伴って会場へ。巡査たちに問われるまま、小弥太は追われていたいきさつを語る。それは、御一新の際に跡目が決まらぬまま爵位をもらいそびれた旧大名家の家臣たちによる、御家復興騒動だった。行き場を無くしている小弥太は、長瀬巡査の口利きによって真次郎の店「風琴屋」に世話になることになる。

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文芸誌感想その二。
荒山徹だけ読んで放っておいてるうちに第二号が出たので慌てて全部読んだ。

柳生大戦争
まあ荒山徹のひどさについては今さら論を待たないわけであるが、荒山徹に「実験してください」と言い放ったという編集の暴挙にはほとほと弱りきってしまうわけでありまして、実験の結果がこれかよ、ひたすら下品な下ネタの連続と歴史捏造講座かよ、と突っ込む気力もなくすほどのこのひどさ。手当たり次第に思いつくままバッサバッサと切り捨てていったとしか思えないこの筆致にはあいた口がふさがりません。これからどのように気が狂った時空に展開していくのでしょうか。恍惚と不安に苛まれることしきり。

雑兵
これは貫禄の面白さ。ちょうど少し前に読んだ『一夢庵風流記』の名脇役の一人、奥村助右衛門がその武名を上げた末森城の篭城戦を描いた短編。視点を雑兵に置いたところが良い。白石一郎という作家はノーマークだったが、このクオリティの作品を書く人なら、そのうち他のものも読んでみたい。

雨の離れ山
これはちょっと構成に懲りすぎかなぁ。二本の話が同時進行して互いにほとんど関連しないという迷走ぶり。「影十手活殺帖」というシリーズっぽいので、とりあえず舞台設定を全部揃えようとしちゃったんだろう。詰め込みすぎだ。

山彦ハヤテ
再録の白石一郎、別格の荒山徹以外では、この雑誌の中で一番面白かった。軽妙なユーモアを含んだ語り口が軽やかで読みやすく、「子供と動物」というある種の反則技を使用しているとはいえ、読後に受けるせつなさが素晴らしい。読みきり短編としてきれいに成立してるんだけど、これ第一話なのよね。ここからどう話が進んでいくのだろうか。楽しみなお話のひとつです。

楽昌珠
さあ、この作品はよくわからない。どう受け取っていいものやら。幻想的な設定の中でグロくて不気味なお話が進んでいくわけだけど、どうしてそういう構成にしたのか、意図がつかめない。おそらくこれも続き物…だよなあ?じゃないと本当に意味不明。

南大門の墨壺
さっき第二号の目次を見るまで読みきりだと信じきっていた。長編の端緒だったのか。
舞台は平家物語の時代。何も出来ないうちに自分の力の及ばない流れに翻弄され、無常に生を続けていくしかない下級職人の悲しさみたいなものを描いた短編だと思っていた。じゃじゃじゃじゃあ、これが長編なら、ここから話が飛躍して展開していくのね。うむ、これはこの先面白くなっていくような予感がなきにしもあらず…

ちよこれいと甘し
「スイーツ文明開化」だそうで、西洋菓子のレシピを絡めて事件を書くつもりかな?はっきり言えば、今ひとつ。どこに力点を置いて何を描こうとしているのか。まあ二回目以降でどうなるかだな…

全体的雑感。
「実験してください」の要求に則した作品が揃ってるのかもしれない。ユニークで、なんだこれ?と思わせるような作品が何編かあり。中でも森福都の作品が不思議すぎ、かなり興味を惹かれた。あと文芸誌やアンソロジーを読むときの最大の楽しみは新しい作家との出会いにあると思うわけで、そういう意味では米村圭伍の読みやすさと白石一郎の正統的面白さは出色。

ということで『KENZAN! 第二号』へ続く。

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海軍に入るくらいなら海賊になった方がいい -- Steven Paul Jobs

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