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uruyaの日記: 覆面作家の夢の家 / 北村薫

日記 by uruya

覆面作家の夢の家 / 北村薫
★★★☆☆

姓は《覆面》名は《作家》。覆面作家の正体は、知性と美貌と巨万の富と、探偵の才能も合わせ持つ深窓の令嬢・新妻千秋。彼女にはもうひとつの秘密があった。一歩屋敷を出たとたん、お嬢様人格から活発なおてんば人格へとチェンジしてしまうのだ。

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覆面作家と謎の写真
岡部兄と静さんがめでたく結婚した。良介は新婚さんに追い出されるようにアパートに移って一人暮らしを始め、式場で千秋さんに捕まえてもらったイワトビペンギンと一緒に暮らしている。
ある作家主催のパーティーで良介は義姉と顔をあわせ、雑談がてら、千秋さんとの取材旅行(という名のデート)を計画しているディズニーランドの話になる。静さんは昔そこで、不思議な体験をしたという。件の式場経営者の奥さんは静香さんと編集仲間で友人だったのだが、どちらも独身のころに二人で行ったディズニーランドで撮った写真の中に、いるはずのない人物が写っていたらしい。

覆面作家、目白を呼ぶ
マルハナバチ(蜂)を取り上げた作品で今年の『推理世界』新人賞を受賞した金山真奈美は、マルハナバチのファンクラブ会員らしい。良介は、その受賞者の次回作打ち合わせのために、買ったばかりの中古の自家用車で福島県へ向かう。無事に現場のファミレスで落ち合い、打ち合わせを行う二人であるが、その途中、真奈美の上司であるという中年女性、森崎主任がその店に入ってくる。真奈美は良介に、近道があるから帰りは森崎の車の後を付いて行ったほうがいいと持ちかけてくる。

覆面作家の夢の家
ミステリ作家由井美佐子は四十がらみの美人で、独身である。由井先生は、文学者で評論家の藤山秀二とドールハウスの趣味を通じて知り合い、たいへん親しいようであった。千秋さんと一緒に由井先生らが出展している展覧会へ行って、由井・藤山と顔をあわせた良介。後日問われるままに覆面先生の武勇伝を語る良介に、由井先生はある相談を持ちかけてくる。それは殺人事件の解決依頼であった。
由井先生はある日、藤山さんと、ダイイングメッセージのミステリ作法に関してちょっとした話題を持った。その話の中で藤山さんは、由井先生に対し問題を出して挑戦してきたという。それが、殺人現場のドールハウス。ダイイングメッセージは「恨」

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濃い小説を読んだ直後であり、さらにまた次に濃い小説を読む予定なので、合間に読む一服の清涼剤として未読の山を切り崩し。あいかわらず知的で爽やかな謎解きと、今回はなんとラブストーリーですよ、奥さん!ネット書評・感想で千秋さん萌えの読者が阿鼻叫喚していてワラタ。

落としどころが本当にスマートで、すとんと収まるのね。ああ、この設定はここにすべて集約するんだ…という、ものすごい納得感がある。連作短編としてもきれいにうまくまとまっていて、なんというか、そつがないよねえ、この人のやることは。そりゃあ圧倒的なパワーとか、読者を惹きつけて離さないような魅力はないけども、楽しくて気軽で知的なひとときを一定のクオリティで提供してくれる、すばらしい作家ですねえ。

あと興味深かったのは「覆面作家の夢の家」で評論家・文学者としての一面を垣間見せるところね。この一篇は構造としても面白くて、そのまま小説にしちゃうと馬鹿馬鹿しいような純粋な推理ネタを、作中でのゲーム的な謎かけとして再現している。その謎の解き方が、文学的薀蓄世界なのですねえ。知的な謎解きと、トリッキーな構成の妙。地味だけど、なかなか読めないすばらしい作品だと思う。
ラストシーンも含めて、この一篇を読むために三冊読んできたと言ってもいいくらいだ。完成度の高い連作短編、これにて完結。文句のつけようがないファンタジー世界でした。面白かった。

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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

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