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uruyaの日記: 李歐 / 高村薫

日記 by uruya

李歐 / 高村薫
★★★★☆

両親の離婚にともない、美しい母親に連れられて降り立った大阪の地。小学校に上がる年頃だった吉田一彰は、母子が住み着いた文化住宅のすぐそばにあった守山工場に、いつも入り浸って遊んでいた。韓国籍や中国籍の、得体の知れない工員が住み込みで働く旋盤工場で可愛がられていた一彰。だが、彼の母親が、その工場で匿われていた中国人の一人、趙文礼と共に消えたとき、その生活は終止符を打つ。

十五年の歳月が過ぎる。
大学生となり、夜はクラブでボーイのアルバイトをしている一彰に、かつて守山工場で働いていた中国人の一人が接触してきて告げる。今は陳浩と名乗っている趙文礼が、クラブに現れる。彼はそこで死ぬ運命にある。一彰は中国語の電話を受けて陳浩に取り次げ、と。
ヒットマンは、同じクラブに最近入ってきた美貌のボーイ。後に彼は、李歐と名乗った。

─────

腐女子乙(枕詞

すばらしい。一読して取り留めのないように思えるストーリーの中からにじみ出るわけのわからないパワー。「わたしはッ!これをッ!書きたいんだッ!」という渾身の妄想が、文章を通してガンガンに伝わってくる。純粋な意思は、それだけで人を感動させる力を持つ。この妄想を生み出した高村薫の頭脳に敬服したい。

話は大きく前半と後半にわかれます。
前半の話はさらに二つの要素で構成されていて、一彰の過去の回想と世界設定の説明、それから、李歐に出会った事件について。回想で描かれるのは、少年期における母親の印象と工場=ワンダーランドが渾然となって創出される、陰鬱ではあるけれども、まぎれもない男の子ファンタジーの世界。高村薫はどうしてこれが思いつくのかなあ。実はちんこついてんじゃねえの。
その世界上に「翳を負った美貌の青年二人」という多少浮世離れした主人公が動き回り、設定と微妙にからみあって、不思議に感情移入しやすいキャラクターが出来上がった。そしてちりばめられるボーイズラブ。

後半に入ると、地を這うように生きている男たちを克明に描くいつもながらの高村節のごとく、一彰の生き方をじっくりと描いていくわけですが、しかし、違うんですね。違うんです。一彰のいる場所は常に李歐のそばにあった。地に足をつけて生きている自分と矛盾する夢想。成長した男のファンタジー。高村薫はどうしてこれが思いつくのかなあ。実はちんこついてんじゃねえの。そしてちりばめられるボーイズラブ。

一言で言えば、文庫カバーの煽り文にあるとおり、極上の青春小説であります。一人の青年の過去、成長、夢を30年というスパンで綴った物語。
…だが、あえて言おう、妄想であると。高村薫の腐女子力が生み出した壮大な妄想。「男のファンタジー」をも軽々と想像力の翼のうちに収めてしまうその恐るべき力によって紡ぎ出された、雄渾なるボーイズラブ小説こそ、本作なのであった。いや、直接的表現で溢れてるわけじゃないけどね 笑

いつもより文体がやわらかめな印象を受けるけれど、物語世界に集中していくとともにぐぐっと引き込まれていく没入感というのは相変わらずであって、さらに感情移入しやすいキャラ造形により、読みやすくなった。高村薫を読んではずれだったときはないけども、読みやすさの部分も含めて、中でもかなり完成度の高い作品だと思った。高村薫未読者は、これから読むといいと思う。

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