uruyaの日記: ひとりっ子 / グレッグ・イーガン 2
ひとりっ子 / グレッグ・イーガン
★★★★☆
行動原理
《行動原理》インプラントは、鼻から吸引して脳のリンクを組み換え、「望む自分」を作り出すシステムである。宗教、言語、性愛、普段は嫌悪しているものでさえもたちまち渇望するようになる。そして、プログラムされた期間が過ぎると、その記憶はすべて失われるのだ。
妻を銀行強盗に射殺されたわたしは、その復讐のために、特注の《行動原理》インプラントを手に入れる。
真心
インプラントの一種〈ロック〉は、ニューロンに作用してシナプスの変成を阻害する。「今」の精神状態を、完全にロックしてしまうのだ。
互いへの愛がうつろうことを極度に恐れているカップルが、〈ロック〉の使用を検討する。
ルミナス
この宇宙の数学法則とは矛盾する〈不備〉の存在を、SETIのような分散コンピューティングシステムによって突き止めてしまったブルーノとアリスンは、それを嗅ぎつけて利用しようとする企業、工業代数社に追われながらも、世界にたったひとつ残ったスーパーコンピュータ、ルミナスを使って〈不備〉の境界範囲を確定しようとする。
決断者
ホールドアップで中年の男から奪ったアイパッチ。現実の視覚にオーバラップさせてさまざまな情報を提供する装置である。贓物商の鑑定によると、それには非認可のソフトウェア〈百鬼夜行〉がインストールされているらしかった。
ふたりの距離
「宝石」と呼ばれるニューロコンピュータを、脳の動きを正確にトレースするように子供の頃から設定し、18歳になったときに〈チェンジ〉して有機物の脳と入れ替える世界。そこではまた、エキストラというクローンも、何らかの肉体的損傷に備えてストックされている。
マイクルとシーアンのカップルは、互いの宝石を交換したり、片方のエキストラと入れ替わったり、いろいろなプレイを楽しんでいた。
オラクル
二次大戦中は極秘プロジェクトに名を連ねていた数学者ロバートは、同性愛を告白して罪に問われた。ロバートをスパイに協力させようとするクイントは罪を盾にして彼を檻に閉じ込めるが、ヘレンという謎の女性が現れ、ロバートを救出する。
ケンブリッジ大学の文学教授ジャックは、最近学内に復帰したと思いきや、めざましい魔法のような成果をあげているロバートの研究を、悪魔の研究だと糾弾し、テレビ討論を申し入れる。
ひとりっ子
みごもった子供を流産で失ってしまった科学者夫妻は、AIの子供を受け入れることを決意する。
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最近のSFの人はどいつもこいつも口をそろえてイーガンイーガン言いやがりますよね。イーガンすげぇ、現代SFで最高の作家だ、などなど。だからね、そのうちやっつけてやろうと思ってたんですよ。ハードSF読むの何年ぶりかわからんからまずは短編集からね。
そしたらさ、いやあなるほど、これは面白いなあ。サイバーパンク的ガジェトと数学・物理学・量子力学の薀蓄を縦横無尽に駆使して、人と機械との関係、脳と精神、人工知能は生命たりうるかという問題を鋭く描いてるじゃあないですか。
『行動原理』『真心』の二編は、異なる効果を持つインプラントを扱ったもの。脳に直接働きかけて、一方は存在しないシナプスリンクを作り出し、他方は現在のリンクを永遠に固定させてしまう。精神は脳内の神経リンクと電気刺激によって作り出されているのだという理性的理解と矛盾する原初的な嫌悪・恐怖感というのが読者側にあるためか、ぐっと話に引き込まれる。
そんな設定をさらに突き詰めたのが『ふたりの距離』ここではすでに生身の脳を廃棄して、複製されたニューロコンピュータにチェンジしてしまっている。これは人?機械?日本の天才SFクリエイター士郎正宗がゴーストと呼んだものは、そこに宿っているのだろうか?しかしそんな命題はうっちゃっておき、ストーリー自体は馬鹿馬鹿しくもおぞましく進行し、皮肉な落ちがつくのだ。
『ルミナス』は、イーガンについてよく言われているところの、数学の薀蓄話爆発のお話。高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないと言ったのはA・C・クラークですが、まさに魔法にしか聞こえない言説が延々と続く。しかし、これって要するに「呪文」だよね。様式的な言の葉を放つことによって読者を呪で縛り、反証の余地をなくして論理の飛躍に説得力を与えるのだ。理解する必要など全くないような。
『オラクル』はこれ、読んでるときは何の話だか全くわかりませんでした。解説を読んでからようやく納得。主人公ロバートは人工知能の祖アラン・チューリング。俺でも名前程度は知っている。ジャックは『ナルニア国物語』の著者、C・S・ルイス。この二人を討論させようとする趣向らしい。
そして『ひとりっ子』ですよ。
機械と人間、脳と人工知能、多重世界、数学薀蓄、ここまで使ってきた全ての要素を注ぎ込み、極めて叙情的に、美しくまとめあげた傑作。表題のダブルミーニングも素敵ですね。間抜けなことに、最後の数行というところへ読み進むまで、あるものとの連携に気づかなかった笑 気づいたとき「あっ」と声が出ちゃった。
とりあえず最大の収穫は「鼻から吸引して脳に作用するナノマシン」ネタはイーガンだと気づいたことですかね。
あと触れてない『決断者』は、これはよくわからなかった。思考の視覚化というのはわかるんだけど、ぴんときませんでした。参考文献の知識があればわかるのかも。
宝石頭とかパンデモニウムとか (スコア:1)
「決断者」は…なんでしょうね。
私としては、意識とは(行動へと連なる)知覚刺激の束であるのではないかという想いがありまして、そういうことを語ったように思ったのですが。
全くの誤読かもしれません。
# いつも日記読ませてもらっています。ファンです。参考にしています。
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Re:宝石頭とかパンデモニウムとか (スコア:1)
なるほど「知覚刺激の束」ですか。うん、そういわれてみると確かに…参考になります。
イーガンはアイデアとテーマ性が噛み合った面白い作家だと思います。ご推薦の「祈りの海」は読む本リストに入れました。