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uruyaの日記: 13 / 古川日出男

日記 by uruya

13 / 古川日出男
★★★☆☆

天才少年橋本響一は片目だけが色盲というめずらしい疾患があり、そのためか、非凡な色彩感覚を持っていた。響一が十三歳のとき、アフリカで猿の研究をしている従兄の伝手で、原住民ジョ族の少年ウライネのホームステイを受け入れる。ウライネから何事かを感じ取ったらしい響一は、中学を卒業すると高校には進学せず、アフリカはザイールに渡りウライネを訪ねる。

ワツァ族の美しい少女ローミは、幼児の頃、死にかけた傭兵に遭遇した。傭兵は結局傷が悪化して死ぬが、その間に傭兵が話す聖書の言葉を聞き覚えてしまう。十四歳になり幼時の記憶もすっかりなくなったころ、副首長であった父親が亡くなった。父親は、何故か白人の言葉を話すローミこそ、白人の神と黒人の神を融和させ諸部族も統合する救世主になるであろうと遺言する。傭兵の記憶がないローミは自分が白人の神の言葉を話す不思議を思い、それに父親の言葉を思い合わせ、彼女の中でしだいに白人の人格が育ち、分離していく。その人格は死んだ傭兵がつけていた認識票の数字にちなみ「13」と名づけられた。

響一とローミはザイールで邂逅し、その十数年後、響一は神を映像に収めることに成功する。

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古川日出男が日本でもトップクラスの大法螺吹きであることはすでに常識ですが、そのデビュー作からしてものすごい法螺を吹いていた。嘘に嘘を重ねて何事かを捏造してしまうこの男、最初に吹いた大法螺は「神話の捏造」と「読む色彩」でありました。

作家の全てはデビュー作にある、とはよく言われるけれども、自由奔放に拡げるだけ拡げた物語をそのままのスケールでまとめちゃう豪腕は、すでにこの時点で見えているわけです。本当にこの人は天才だよなぁ…さすがにアラビアやベルカほどのまとまりも突き抜け方もこの時点ではないけれども、底に流れているものは同じ。古川日出男は世界を騙る。松方弘樹は世界を釣る。

お話としては第一部と第二部でがらっと様相を変えるような構成になっています。第一部では呪術的な雰囲気あふれるアフリカを舞台にして、響一とローミの視点から幻想的な色覚と宗教を描いていく。それに対して第二部は、ハリウッドにおいて映画、音楽などポップカルチャーの世界に身を置くクリエイターたちを中心に、その仕事を語っていく。最終的にそれらはある映像に収束して…という感じになるのですが、まあこの構成に関しては、今の古川日出男ならもっとうまく書くんだろうなあ、という気もしてですね、このあたりは若書きでしょうね。今ならたぶん、もっとはっちゃけて書くと思う。しかしこの形であっても、作品を読むと浮かんでくる色彩というのは素晴らしいものがあり、一定の成功はしてるんでしょう。

なんにしろこんな話は古川日出男にしか書けないことは明白なわけであり、天才はデビューから天才だった、という話でした。すごいよ日出男さん。

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