uruyaの日記: 痾 / 麻耶雄嵩
痾 / 麻耶雄嵩
★★★☆☆
和音島から帰った鳥有は、島で起こったことや桐璃のことなど、一部の記憶をなくしていた。仕事上は問題がなかったことから、退院と共に、晴れて編集部に正社員として迎えられ、最初の仕事としてアーティストの巫女神清孝を取材することとなる。巫女神のアトリエに出向いた鳥有は、そこで助手のようなことをしている弟子の「わぴ子」に出会った。わぴ子は鳥有の前の恋人にそっくりだった。
その後わぴ子と偶然再会した鳥有はたびたびデートをする仲になる。が、毎週土曜日、わぴ子とデートをした日には、決まって夢うつつの状態で神社や寺に放火をしてしまうのである。そしていずれの場合にも、火災現場から殺人とみられる死体が発見されるのだ。
鳥有は連続放火殺人事件の犯人となってしまった自分に動揺する。放火をした記憶はあるが、殺人をした覚えはない。死体は見ず知らずの人間である。何より、自分がなぜ放火を繰り返しているのか、わからないのだ。ただ、火を見ている間、和音島の記憶が見える気がする…
そして鳥有の部屋に脅迫状が届く。
「次は何処に火をつけるつもりかい?」
─────
『夏と冬の奏鳴曲』の続きのお話。前作を読んでいないと重要なことに気づかないので、読んでいることが必須である。といっても、こういう場合普通は前作の内容が伏線になっているわけだが、麻耶の場合は少し違う。前作を未読だと、不整合な部分を読み流してしまうからだ。
全ての登場人物への感情移入を拒否している感じがあって、読者を世界に入ってこさせないことを意図しているのだろうか。「お前は観察者としてただそこから見ていろ」というメッセージ?力づくでメタ視点を強要されている気がする。
だいたいわぴ子なんていうネーミングからしておかしいわけで、すべてが調子っぱずれなわけだ。しかしこれはもちろん計算された不協和音であって、本格推理小説のグロテスクなイミテーションを、意図して作り上げているわけですね。なまじ本格の雰囲気がベースにあるおかげで、逆に戯画化が際立たっている。デッサンがくずれた人形の不気味さ、と同じ種類の感覚ですね。
ちょっと前に読んだ『匣の中の失楽』はボロクソ言ってたのに、同じくメタ作品である本書をなぜ褒めるのか。なぜだろう。著者の意図の異様さが独特の世界を作り出している、その世界感が面白いから、かな。
部品のひとつひとつはとっぱずれた、ちょっとおかしいとしか言いようのないものであり、たとえばメルカトルの風貌なんてギャグでしかないし、トンデモトリックを平気で持ち出してきて、しれっとした顔をしてるし。しかし、それらをうまく組み立てて本格推理を作り上げてしまうんですね、この著者は。さらに最終的には、そうして組み上げたものを、自らの手で根底からぶち壊してしまう。何がしたいんだ。でも、その意味不明な行為がすごく興味深い。面白い。
内容的にはあらすじのとおり、記憶をなくした鳥有が放火魔になっちゃって、でも殺人はしてねえよということで犯人探しを開始、そこに探偵の木更津やメルカトルがからんでくる、という話。
前作の『夏と冬の奏鳴曲』を読んで怒らなかった人は読むといいと思う。怒っちゃった人は、読んでも怒りを増大させるだけです 笑
しかしスナック"東方不敗"には笑った。
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