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uruyaの日記: アジアの岸辺 / トマス・M.ディッシュ

日記 by uruya

アジアの岸辺 / トマス・M.ディッシュ
★★★☆☆

降りる
本に夢中になっていた文無しの男は、いつしか無限に下るエスカレータに乗ってしまっていた。

争いのホネ
死体に防腐加工を施す技術によって、マルタは家族の遺体とともに暮らしていたが、夫のテディはそれが気に入らない。

リスの檻
男は真っ白い立方体の空間に閉じ込められていた。外部とのつながりは、毎日入れ替わるタイム紙と、「むこう側」に出力されるらしいタイプライタのみ。

リンダとダニエルとスパイク
想像上のボーイフレンドと交際していたリンダだが、妊娠を疑って受けた診察で、子宮ガンが発見されてしまった。リンダは腫瘍を産むことを決意する。

カサブランカ
アメリカ人老夫婦がカサブランカへ旅行中、突如戦争が勃発してアメリカ本土が焦土と化してしまった。一夜にしてドルは紙切れに変わる。

アジアの岸辺
イスタンブールに長期滞在している旅行者の男の身辺に、彼の部屋を夜な夜な訪ねてきて「ヤウズ」と呼びかける女と、謎の子供がまとわりつき始める。

国旗掲揚
レザーマニアのおかま、という性癖をショック療法で矯正した男が次に取りつかれた性癖は、ナショナリズムだった。

死神と独身女
死を望んだ女は、死神に連絡して来てもらうが、なかなかうまくいかない。

黒猫
先住者が自殺して空いた部屋に引っ越してきた男は、先住者が飼っていた黒猫と暮らし始める。

犯ルの惑星
その星では、女が一定の年齢に達すると快楽島という場所に送られて、強姦されなければならないのだ。相手は、星間航行からそのために戻ってくる、男という生き物。

話にならない男
会話するために免許が必要な世界で、バリーは仮免許を交付された。本免許を取るには、次の試験で合格するか、本免許所持者三人から推薦を受けなければならない。

本を読んだ男
高校卒業後一度も正業に就かず犯罪ばかり繰り返していたジェロームは、保護士から本を読むだけで金が入るという仕事を斡旋される。

第一回パフォーマンス芸術祭、於スローターロック戦場跡
スローターロック戦場跡に集まったクレイジーなアーティストどもが行うイカれたパフォーマンス。

─────

ニューウェイブSFの代表的作家であるらしいディッシュの日本独自短編集。収録作の中では『リスの檻』が高名で、発表時にはニューウェイブ論争を巻き起こしたらしいが、今読むとまあ普通にメタ視点をまじえた奇想SFかと。全体的にも特に難解な部分はないし、奇想コレクションの一冊ですといわれても違和感がない。

んで、俺的にはディッシュといえば殊能将之が自サイトで「弟子になりたい」と書いていたのがとても印象的で、あのひねくれ者(いや一面識もないし著作と日記を読んでるだけだし想像ですけど)が弟子志願するくらいだから、一筋縄ではいかないんだろうと思っていた。実際に読んでみたら、なるほどね、この人はものすごーーーーーく意地の悪い、冷笑的な皮肉屋だ。ほとんどの作品にそこはかとない悪意を感じますなあ、面白い。

気に入ったのは『カサブランカ』『アジアの岸辺』の異質な文化を拒絶しつつも逃れられなくなった旅行者という、たぶん米人に対する嘲笑が含まれている構図、『本を読んだ男』のネタ落ち(ずっこけた)、『犯ルの惑星』の馬鹿馬鹿しさ。あとやはり『リスの檻』は名が知られているだけはあって、まあこれはいろいろな解釈があるんだろうけど、俺は見えるとおりのメタ小説だと読みました。

遠慮なく言えば、話自体は非常にくだらないものばかりです。知性派作家といわれているディッシュの知性は、底意地の悪い視点の方に注がれているようだ。俺はこの作家が好きになりました。意地の悪さという一点において。

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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー

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