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uruyaの日記: 太陽の帝国 / J.G.バラード

日記 by uruya

太陽の帝国 / J.G.バラード
★★★★☆

一九四一年十二月、富裕なイギリス人の父母とともに上海にいたジェイミーは、日本軍の連合国への攻撃に巻き込まれ両親とはぐれてしまう。日本軍に接収された自宅に忍び込み、ふたりの帰りを待つが、いつまでたっても帰ってこない。両親は収容所に収監されたものと考え、日本軍に投降する機会を伺いながら、無人になっているかつての富裕層の家々に忍び込んで食料をあさり、露命をつなぐ。しかしその食料も尽き、ねぐらも失い浮浪するうち、ベイシーというアメリカ人に拾われる。ベイシーの目的はジムを売ることだったが、買い手がつかぬうちにジムとベイシーは日本軍に囚われてしまった。

囚われた後ジムは熱病に冒され、映画館を使った施設に収容される。そこは、もう回復しないと見なされた重病人が入れられる、死を待つだけの場所だった。やがて大きな怪我を負ったベイシーもそこに到着し、ふたりは互いを利用しながら、たくましく回復していく。

回復したジムは、ベイシーや若いイギリス人医師ランサムらとともに龍華収容所に入れられ、そこで三年余りを過ごす。ジムは十四歳になり、一九四五年の夏が近づいていた。

─────

むかし映画は観たはずだが、テレビ放送を横目でちらちら見てた程度で、内容はまったく記憶になかった。プロットから想像して、少年の目を通して戦争の悲惨さを描くようなお話かと思っていたら、とんでもない。そんな生易しいものじゃ、ぜんぜんなかった。これは悪夢だ。まがまがしいナイトメア。

感情を排して淡々と、見える情景だけを書き連ねていく文体は、非常に読みにくい。常に脳内スクリーンに情景を映して再現していかないとすぐに置いてけぼりになる。しかし、いったん脳内映像が動き出すと、途端に目が離せなくなる。スクリーンに浮かぶのは、死。大量の死、死体が腐敗する腐臭、糞尿の悪臭、黒雲のように飛び回る蠅…なんですかこの煉獄の風景は。半ば強制的に世界に入りこまされているだけに、非常に生々しく脳に再現される。本当に夢に出そうだ。

そんな死に満ちた世界の中で、ジム少年は懸命に生きてゆくんだね。極限状態で人はたやすく野獣となる。一切の希望を捨てた者は野獣となり、わずかの希望を持つ者はそれにすがりつく。無力なジムはすがるものを追い求めるわけだけど、それが幻だということもちゃんとわかっている。わかっていても、求めざるを得ないんだな。
そしてラストに提示される、終わらない悪夢の象徴…いやあ、そうとう胸に迫るものがあった。もう腹いっぱい。しばらく重い作品は読まなくていいよ…過去に読んだ重苦しい後味の小説のうちでもダントツでナンバーワンに挙げたい。読みにくい文章を押して読み遂げるだけの価値は、十二分にある小説だ。

こんな話だったか?と思って映画版のあらすじを調べてみたら、やはりまったく違っている。映画を観たあとに原作を手に取った人は、相当面食らったのではなかろうか。特に普段翻訳文学を読みつけない人は、かなりの苦行を強いられたと思われる。

あと題名のダブルミーニングに関しては触れないほうがいいのかしら。敗戦国国民の末裔としては。

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普通のやつらの下を行け -- バッドノウハウ専門家

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