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uruyaの日記: ファミリーポートレイト / 桜庭一樹

日記 by uruya

ファミリーポートレイト / 桜庭一樹
★★★★☆

赤いどろりとした液体に足をつけて、「コマコ、逃げるわよ」とマコは言った。

美しい母マコと、口のきけない女の子コマコ。マコは、自分を肯定する存在、ちいさな神としてコマコに依存し、そのしるしにコマコを傷つける。コマコは世界のすべてである母親を受け入れ、肉体を投げ出す。一心同体ともいえる奇妙な母子は、各地を転々と逃げ回り、そのあいだにコマコは文字を覚え、物語に耽溺し、言葉をとりもどし、そして、女に成長した。

十年間の旅が終わり、コマコとはなれたマコは、父親にひきとられた。家にまったく寄りつかずに、誰でも入れる荒廃した高校に通い、暮らし、男を知る。やがて卒業したコマコは、文壇バーでアルバイトをするかたわら、物語を紡ぎはじめる。

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なぜこんなに凄いのかなあ。要約すると俗っぽいのに。劣悪な環境で虐待を受けながら育ったこどもが、成長したのちに、自分の中にある母親の存在と折り合いをつけようともがく姿、だよね。ありがちありがち。なのに何?この血を吐くような精神の吐露は。それをさらりと表現する一人称は。やられるねえ。

第一部は旅パート。母親のマコってのは、まあつまりとんでもないクズだ。女優のタマゴで映画にチラッと出たことがあることだけが自慢の女。事件をおこして逃げ回わり、行く先々で女を売って世を送る。コマコを学校にもいかせず、虐待することでうさを晴らしている。
コマコにとって母親は、こどもは誰でもそうであるように、全てをゆだねる存在。連れ回され虐待されようと、肯定する以外に方法はない。否定することは自分を否定するのに等しいから。受け入れることで、コマコはコマコであることができる。

濃密な、通常とは異なる母子関係が終わったとき、マコはコマコの中になにを残したのか。第二部では、腹を割いて内蔵をぶちまけるような、コマコの創作についてが語られる。見えてくるテーマは、家族とか、愛とか、そういったもの。そしてこのラストシーンは…!ひさびさ目頭にきたね。

これはまごうことなきブンガクであって、桜庭一樹は『私の男』を境にエンタメから脱皮したに違いない。だから「おもしろい」じゃなくて、「凄い」と思ったのだ。うむ。凄かったよ。

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ハッカーとクラッカーの違い。大してないと思います -- あるアレゲ

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