uruyaの日記: 七回死んだ男 / 西澤保彦
七回死んだ男 / 西澤保彦
★★★☆☆
大庭久太郎は十六歳の高校生。「反復落とし穴」にはまる体質の持ち主だ。
反復落とし穴とは、同じ一日を何度も繰り返してしまう現象である。久太郎の精神だけがタイムスリップするのであり、いつ起こるか制御できない。反復されるのは深夜零時からのきっちり二十四時間で、いったん起これば九回連続して同じ日が繰り返される。当然ながら、反復に気づいているのは久太郎のみであり、その行動次第で一日に起こる結果を変化させることも可能だ。最後の九回めに変化させた事象は、最終結果として反映される。
久太郎の祖父、渕上零治郎は外食チェーンの総帥である。もともと腕のいいコックであったが、若い頃には放蕩の限りをつくし、借金を作って久太郎の母らに多大な迷惑をかけていた。零治郎には長女加実寿、次女胡留乃、三女葉流名の三人の娘がいたが、祖母が死ぬと、加実寿と葉流名は零治郎を捨てる。
大学の同級生大庭道也に嫁いだ加実寿は、富士高、世史夫、久太郎の三人の男子を産み、高校教師鐘ヶ江等の押しかけ女房となった葉流名は、舞とルナの二女を得る。ふたりは、実の父親を結婚式にすら呼ばなかった。
一方で、捨てられた零治郎は胡留乃を連れて漂泊。あり金を使い果たし身投げして死ぬつもりで賭けた馬券が的中したことをきっかけに、株に手を広げてとんとん拍子に財を築く。それを元手にレストランをはじめた零治郎は、本来のコックとしての本能がよみがえったものか、見違えたように仕事に励み、胡留乃もそれに協力して盛り立て、一大チェーンを築くことに成功したのであった。
そうして長く絶縁状態になっていた加実寿と葉流名だが、このところ零治郎に急接近している。というのも、零治郎の後継者問題があるからである。高齢な零治郎だが、胡留乃は未婚で子がいない。誰かを胡留乃の養子とし、後継者としなければならないのだ。ふたりの娘からすれば願ってもない話である。エリートサラリーマンだった大庭道也はリストラにあい、堅実な高校教師だった鐘ヶ江等は教え子に手を出して免職されていたからだ。
年に一度、全員が集まっての新年会。本年の参加者は、大庭道也と鐘ヶ江等を除いた関係者と、零治郎の秘書友理絵美と秘書の槌矢龍一。零治郎は毎年この場で遺言状を更新し後継者を指名していたのだが、今年書いた分でもう二度と書換えを行わないと宣言。その次の日、撲殺死体となって発見される。そしてそのとき、久太郎は反復落とし穴にはまっていたのである。
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「七回死んだお床」に変換されて笑った。ぐぐってみたら「がんばりすぎです」とコメントがあってさらに笑った。
祖父の死を知った主人公が、「反復落とし穴」のレギュレーションの中で殺人を阻止しようと奮闘します。ある犯人の犯行を妨害すると、ちがう犯人が伏兵としてあらわれる。なんとかすべてを封じ込める方法はないかと、各周回で情報を収集しつつ、行動の最適解を模索する。
おもしろいです。その周回の行動と結果はどうなるか、次の周回に何がおこるか、興味を失うことなく最後までぐいぐいと読ませる。人より多くの時間を生きてきたことで多少じじむさい高校生が語り手で主人公であり、軽妙な文体と設定がマッチしています。評判や設定から見て、おそらくどこかにトリックが仕掛けられているのだろうな、と思ってはいたけど、まったくわかりませんでした。みごとにやられた。
設定自体は目新しくはなく、時間反復ものといえば、すぐさま何例も思いつく。この作品のインスパイアもとは映画『恋はデジャ・ブ』ということですが、この映画、めずらしく既観。鼻持ちならない男が永遠に反復する一日に陥って、絶望を通り抜けた先の希望として、女を口説き落とすことや、自分の周囲に小さな奇跡を起こすことに喜びを見出す、みたいな話だったか。楽しかったように記憶しています。
その設定を使って本格ミステリを書いたらどうなるか、というのがこの作品の眼目。落ちやトリック、主人公に関する仕掛けなど「騙されているかもしれないと思いつつ読んでたらやっぱり騙された」という感覚を味あわせてくれました。満足。
騙されたと思って食べたら絶対騙される♪信じられるのは自分だけ♪
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