uruyaの日記: 水魑の如き沈むもの / 三津田信三
水魑の如き沈むもの / 三津田信三
★★★☆☆
波美地方には深通川に沿って四つの村が存在し、水利権調整のため各村の神社が中心となって番水慣行を行っていた。五月夜村の水使神社、物種村の水内神社、佐保村の水庭神社、青田村の水分神社である。宗主のような立場にあるのは最初に入植され村を形成した五月夜村で、さらに水使家は一つ目蔵といわれる謎の蔵を所有しており、それもあってか隠然とした権力をもっているようだ。
このたび、波美で十三年ぶりに雨乞いの儀式が行われることとなった。この儀式には増儀と減儀の二種があり、渇水時に行われるのが増儀、洪水時に行われるのが減儀である。いずれも、宮司代表の「神男」が、水源である沈深湖の奥にある水魑(ミヅチ)が住むとかんがえられている水中の穴に、貢ぎ物を落とし込むものだ。常識的に考えて、増水時に行われる減儀の方が危険であるのだが、なぜか村人たちは増儀の方をより恐れている。実際に二度、事故が起きており、二十三年前に実施されたときは水分の先代の宮司辰男が行方不明となり、前回には水使の宮司龍璽の長男龍一が心臓発作で死亡した。二度目の事故の時、村人は辰男が「ボウモン」となって龍一を呼んだのだ、と噂した。ボウモンとは、溺死者の亡霊のことである。他にもこの土地には、一日で畑を耕すように言いつけられ力つきて死んだ嫁の化け物「泥女」や、嫁の死を知って首つりを試みたあと川に身を投げて死んだ夫の伝承があった。
宮木佐霧は終戦後、命からがら満州から引上げてきた。軍人だった夫は戦死。鶴子、小夜子の娘ふたりと、正一少年を連れて頼った先は、養女として育った五月夜村の水使家である。しかし当主の龍璽は、佐霧らに対して露骨に冷たくあたりボロ小屋に住まわせ、村人たちもこの家族を白眼視する。水内家の跡取り世路は、佐霧を想っていたため、一家の面倒をみさせてほしいと再三申し入れる。佐霧は「それでは水内神社が消える」と言って拒否していたが、そうするうちに急死してしまった。子供たちは龍璽がひきとることになるが、龍璽は長女の鶴子だけを特別扱いし、儀式の際、神男の作業のあいだ踊りをおどる巫女「苅女」として育てる。そして子供たちは、村人たちとさまざまなかたちで関わりながら、六年の歳月を過ごす。
刀城言耶は増儀を取材するため祖父江偲とともに五月夜村へ入るが、儀式の最中、衆人環視のなか神男の龍三が船内で刺殺される。さらに第二第三の殺人が発生。事件は「神男連続殺人」の様相を呈していく。
登場人物:
【宮木家】
佐霧 龍璽の養女。神々櫛家出身。夫とは死別。満州から引上げ後病死。
鶴子 佐霧の長女。水使神社の巫女として育てられる。清楚な美女。引上げ時十三歳、事件時十九歳。
小夜子 佐霧の次女。活発な娘。引上げ時十歳、事件時十六歳。
正一 佐霧の長男。不思議なものを見る能力がある。引上げ時七歳、事件時十二歳。
【五月夜村・水使家】
龍璽 当代の宮司。独裁者である。
龍一 龍璽の長男。十三年前の儀式で神男を務めて変死。
龍三 龍璽の次男。今回の儀式で神男を努めて変死。
汨子 龍璽の妻。ボケ老人。
八重 龍三の三番目の妻。
【物種村・水内家】
龍吉朗 当代の宮司。次席の宮司として、龍璽に意見できる唯一の存在。
世路 龍吉朗の四男。佐霧を愛した男。
芥路 世路の長男。事件時十七歳。
【佐保村・水庭家】
流虎 当代の宮司。
游魔 流虎の養子。ニヒリストで、旧海軍伏龍特攻隊の生き残り。
【青田村・水分家】
辰男 先代宮司であり、二十三年前の儀式で行方不明になった。
辰卅 当代の宮司。
【その他】
青柳富子 庄屋の家。代々苅女を務める。
清水悟郎 酒屋の家。代々船頭を務める。
重蔵 水使家使用人。もとは神々櫛家用人。
留子 水使家使用人。噂好き。
─────
さんまが大勢おる。
佐霧は神々櫛家からの養女という設定。刀城言耶がその姓に反応していないところをみると、時間軸的には『厭魅の如き憑くもの』より前の事件ということになる。土俗ホラーとミステリが融合したこのシリーズ、今回も設定は膨大だ。五七〇ページのうちかなりのボリュームを割いて波美の背景が説明される。ももももうたまらん。これだけでどんぶり飯三杯食える。脳汁ドバドバ垂れ流し状態。変態読者ですまん。
とはいえ人間関係は、これまでのシリーズと比べてだいぶすっきりしている印象。そのぶん読み進めやすいのだが、もっと書き込んでほしいような気もする。変態なもんで。
解決編ではシリーズおなじみの手法、複数解の反復が行われる。行き着いた最終解は、その手前までは予想していたがひとつ上を行かれた。しかしこのシリーズ、自分の中ではあまりミステリとしての印象強くないのよね。解決についての興味は付け足しみたいなもので、世界観にどっぷりひたるのが読む目的というか。なので、あまりにもバカミス的な解決でないかぎり、そんなところか、くらいで受け入れてしまう。そういう意味では、本作の解は論理的に破綻のないものだったと思います。
あと気になったのは、言耶と偲のラブコメ要素が強くなってきていることか。読む人によっては、雰囲気ぶちこわしと思うかもしれない。個人的には、この程度のお遊びはあってもいい。
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