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uruyaの日記: 完訳 千一夜物語(8) / 豊島与志雄 他・訳

日記 by uruya

完訳 千一夜物語(8) / 豊島与志雄 他・訳
★★★★☆

黄色い若者の物語
第夜五百十五-第五百二十六夜
アル・ラシードがいつものようにお忍びで歩いていると、ある屋敷から物悲しい響きの素晴らしい歌声が聞こえてくる。興味をひかれて立ち寄ると、その家の主アブール・ハサンはひどく黄色い顔色をしているではないか。わけを聞くと、ハサンは次のように語った。
わたしはオマーンで生まれ、父は大海商だった。父が死に遺産を受け継ぐと旅に出ることを思いつき、全財産を売却してバクダードへ出た。バクダードにはターヘル・アザンという老人がおり、一晩なにがしかの金を払えば彼の家の女でも若者とでも過ごすことができるという。まず十ディナールを三十日ぶん、次に二十ディナールを三十日ぶん支払って素晴らしい体験をしたわたしは、その家の中でも最も美しい娘を見て、たちまち恋に落ちた。それはターヘルの娘ジャミラで、彼女と一晩過ごすには五百ディナールが必要だという。わたしは全財産をつぎこむ覚悟で娘の部屋に居つづけた。
しばらくすると財産がつきてしまうが、娘は毎日五百ディナールをわたしに渡したため、滞在することができた。しかし一年ほどもたったころ、娘に折檻された女奴隷がターヘルに告げ口したため、叩き出されてしまう。わたしはバスラへ移り、父の旧友の助けを借り、市場に小さな店を開く。
ある日異国の男が来て、護符の書いてある小さな貝殻を法外な値段で買うという。からかっているのだろうと思い値段を吊り上げると、男は三万ディナールでそれを購入した。そして、もう少し様子を見ていたなら、百万ディナールまでは出したろうという。とても驚いたわたしは、それ以来顔色が黄色くなってしまったのだ。男に事情を聞くと、次のようである。
インドの王様の娘がひどい頭痛に悩まされていた。男が王様に進言してバビロンの賢者に護符を作ってもらうと、めでたく快癒し、王様はひどく喜んだ。しかしある日、船遊びに出た姫様は護符をさげた首飾りを切ってしまい、貝殻は海中に消えてふたたび頭痛に悩まされるようになる。男はふたたび護符を作ってもらおうと旅に出たが、賢者はすでに亡くなっていたのだ。やむなく失われた貝殻を捜索していたのだが、ここでそれを発見したのである。
大金を得たわたしはバクダードのターヘルの屋敷を訪ねる。屋敷は暗い空気に包まれており、恋わずらいで病みついた娘の命が旦夕に迫っているという。身分をあかすとターヘルは喜んで娘にひきあわせ、元気をとりもどした娘とわたしは、その場で結婚した。それが歌声の主、わたしの妻である。物悲しい響きは、離ればなれになっていた期間の悲しみを表したものなのだ。
この話に感心したアル・ラシードは、翌日アブール・ハサンを呼び出し、失われた百万ディナールの利益をとってつかわせた。

「柘榴の花」と「月の微笑み」の物語
第五百二十六夜-第五百四十九夜
アジャミの国ホラーサーンのシャハラマーン王は子供がいないことが悩みだった。ある日商人が訪ねてきて、素晴らしい女奴隷を王に献上する。しかし女は、一切笑いもしなければ口をきかないのだ。それでも王は女を大事にし、寵愛した。するとある日、ついに女は口をひらき、懐妊したことを王に告げる。王はたいそう喜んだ。
女は「柘榴の花」といい、海の王の娘である。父王が死んだとき、母「いなご」と兄サーリハの態度に不満のあった彼女は、陸に上がって浜辺でうとうとしていた。すると男があらわれて彼女をさらい、市場で売り飛ばしてしまったのだ。商人に買われて王に献上されることになったのだが、もし手荒に扱われたならすぐに逃げ出そうと思っていた。しかし王は彼女を大切にし、さらに子供を身ごもったため、ようやく言葉を発することにしたのである。
海の女の出産は陸のものと異なっている。母や兄らを呼び寄せて仲直りし、手を借りて子供を産みたいと訴える柘榴の花に、王はそれを許可する。柘榴の花が呪文をとなえ秘法を行うと、海が割れていなご、サーリハと従兄弟らがあらわれた。王は彼らを歓待し、柘榴の花は無事に男の子を出産。「月の微笑み」と名づけられたその子は、母の血をひいて海中でも呼吸が可能だった。出産を見とどけた母と兄たちは、海の中へ帰っていった。
月の微笑みは美しい若者に成長する。十四歳になったとき王は位を譲渡して隠居し、その一年後に死去した。ひとりで政務を見るようになってからさらに一年後、久しぶりにサーリハがあらわれ、嫁取りについて柘榴の花と相談する。海の王サラマンドルの娘、宝玉姫は非常に美しく嫁としてうってつけであるのだが、父のサラマンドルは粗野な乱暴者で、いままで何度も縁談の話があったが、いずれもさんざんに追い払ってしまうのだ。この話は慎重に進めなければならぬ。
しかしその話を盗み聞いた月の微笑みは、姫に対する恋情が熱く燃え上がってしまった。それに気づいたサーリハは、柘榴の花には知らせず、いなごを説得してふたりでサラマンドル王を訪ねて求婚する。サラマンドル王は案の定怒り、いなごが差し遣わせた千人の軍と争闘になった。
戦いはサーリハの勝ちとなり、サラマンドルは捕らえられた。合戦の気配に驚いた宝玉姫は地上にあがり、自分のせいで戦いになったことを恐れた月の微笑みもまた海中を抜け、ふたりは無人島で邂逅する。しかし宝玉姫は、父のかたきとして月の微笑みを鳥の姿に変え、水のない島へ幽閉するよう侍女に命じた。憐れんだ侍女は、命を違えて緑の島へ鳥を放す。
月の微笑みは一人の鳥さしにつかまって、非常にめずらしい鳥だったので、その地の王に献上される。王の妃は魔法使いだったため月の微笑みの正体を看破し、もとの姿にもどした。王の助けを借りて故国に帰ることにした月の微笑みだが、途中で船が難破し、ある地へ打ち上げられる。すると多くの驢馬や騾馬が彼のまわりを囲み、戻るがよいという意志を示し、彼が帰ろうとしないことを知ると、深い悲しみと絶望を表すのだった。長老を訪ねてわけをきくと、次のようである。
この地はアルマナク女王という多情な魔法使いが支配している。美しい異国の若者が流れ着くと誘惑しては、四十日のあいだ媾合を繰り返し、男の精魂が尽きると姿を四つ足に変え、自分も牝驢馬などの姿に変わっては再度媾合し、ふたたび人間の姿に戻ると次の男を探し始めるのだ。
その話をしているうちに、アルマナク女王があらわれた。長老は、魔法をかけたりしない約束で月の微笑みを女王へ引き渡す。熟練した愛撫とやさしい態度に、月の微笑みは満足していたが、やがて四十日がすぎると、女王がなにものかを合成している場面を目撃する。長老に相談すると、それは獣に変えるための秘薬であるという。堪忍袋がきれた長老は、月の微笑みへパン菓子を与え、これを女王へ食べさせること、女王が出す菓子は食べないこと、女王の発した言葉をそっくり繰り返すことを指示。そのとおりにすると、女王の姿は牝驢馬に変わった。牝驢馬に乗って長老のもとへ変えると、長老は女王に代わってこの地を治めることを宣言し、魔神「電光」を呼び出して月の微笑みを故郷へ帰す。
月の微笑みが行方不明になったことを悲しんでいた柘榴の花、いなご、サーリハらは、彼が戻るとたいそう喜んだ。そして、あくまで宝玉姫を妻として迎える意志を示すと、サラマンドルを引き出してきて解放する。サラマンドルは感服し、宝玉姫を呼び出すと、月の微笑みと結婚することを命じた。姫は父の言葉を受け入れ、ただちに結婚式が行われた。

「モースルのイスハーク」の冬の一夜
第五百四十九夜-第五百五十一夜
アル・ラシードおかかえの歌手「モースルのイスハーク」は、ある冬の一夜、美しい娘サイーダを思い浮かべた。するとノックの音がして、サイーダが彼を訪ねてくる。使いが来て呼び出されたというのだが、そんな使者は出した覚えがない。ともかくも招じ入れ、歌曲を謡って楽しもうとするが、彼女は今宵は下々の人たちの歌でなければ聞く気がしないと言い張る。そこで、ちょうど戸外にいた盲目の老人を引き入れた。
乞食の老人は、ホストたるイスハークとサイーダにまず歌うように所望し、さんざんに批判したあと、世にも玄妙な琵琶の調べを奏ではじめる。しかしかの老人が歌う詩は、今この状況を、事細かに説明するかのような内容である。イスハークは、これは贋の盲人であると確信した。
厠へ行きたいと言った老人のために、ろうそくを取ろうとほんの少し席をはずすと、戻った時には老人も娘も姿を消していた。イブリースは、魔王である老人が最初は仲立ちをしたが次には娘をさらっていったものであり、はじめから幻にすぎなかったのだ、と結論づけた。

エジプトの百姓とその色白き子供たち
第五百五十一夜-第五百五十四夜
カイロの太守ムハンマドがエジプトを巡視していたとき、その日の宿とした家の村長は、褐色の肌をしているのに子供たちはみな白い。村長の妻が欧州人なためであった。
もともと亜麻農家だったわたしは、シリアのアッカーへ行商に行っていたが、そこで店に来ていた欧州人の娘に恋をする。お付きの老女に五十ディナールを渡して手引きを頼み逢い引きするのだが、異教徒と姦淫することを恐れたわたしは、娘に手を出せずに朝をむかえた。次の夜、こんどは百ディナールを支払って再度娘を呼び寄せたが、やはり思いとどまる。そして三夜め、またも娘と会おうとするが、回教徒と基督教の休戦がやぶれたため、アッカーを退去せざるをえなくなった。
ダマスまで戻ったわたしは、そこで手広く商売をはじめた。戦いは回教徒の勝ちとなり、捕虜の取り引きなどをおこなうことも度々だった。ある日美しい女奴隷が手に入ったため、帝王サラッディーンへ献上しに行くが、戦費のために手元不如意であった帝王は、捕虜のうち気に入ったものを代価として持っていくように指示する。わたしはその中から、あのときの娘の姿を見つけたのだった。娘はわたしの求愛を受け入れ、回教徒への改宗を誓う。
それから数か月たち、欧州人との捕虜交換が進んでいた。わたしの妻も欧州人の大使から呼び出されたが、妻は自分が回教徒であることを宣言し、帰ることを拒否した。大使はいまいましい様子だったが、妻の母から預けられた妻当ての包みを差し出す。その中には、最初に渡した五十ディナールと百ディナールが入っていた。
それからわたしは妻とともにエジプトに移り住み、幸せに暮らした。

カリーフと教王の物語
第五百五十四夜-第五百七十六夜
バクダードの漁師カリーフは貧乏で、妻を迎えることすらできないでいた。あるとき、いつものとおり海へ網を投げると、片目で不具の大猿が引き上げられる。あまりに醜いので打擲しようとすると、猿は、もう一度網を上げると良いことがあるという。そうしてみると、今度は美しい大猿が引き上がった。美猿は、わたしをもういちど海に投げよという。すると、大きな魚を持ってもどってきた。そして、それを市場の両替商の長老、美猿のあるじ、ユダヤ人アブー・サアーダの店へ持っていき、いくらで売るのか聞かれたら「漁師カリーフの猿とあなたの猿を取り替えるのがその値段だ、わたしの運とあなたの運は交換される、周囲のひとびとが証人である」と言え、と指示する。
そのとおりにして運を交換した帰り、海へ網を投じてみると、とんでもない大漁である。しかも次々に客があらわれて魚を購入し、カリーフはたちまち百ディナールの大金を手にした。持ちなれない金が手に入りパニックぎみのカリーフは、肌身放さぬことに決めて袋に入れ胸に吊るしていたが、網を投じたはずみにそれごと海中に落としてしまう。あわてて服を脱ぎ海中を探すが見つからず、しかも海から上がってみると、着物を何者かに盗まれている。しかたなくカリーフは、網をはだかのうえに巻きつけて歩きだした。
このところ寵愛している女奴隷「心の力」に溺れぎみのアル・ラシードは、ジャアファルにそれを諫められ、気分転換の散歩に出かけた。すると、ある漁師がはだかに網を巻いて歩いているではないか。おもしろがって近づくと、アル・ラシードを竪笛吹きだと思い込んだ漁師は、勝手に弟子に任命して網の引き上げを手伝わせ、とった魚を市場に出すための籠をもってこいと命令する。アル・ラシードはすっかり悪ノリし、ジャアファルのもとへ戻ると、カリーフから魚を買ってきたものには一ディナールを与えると兵たちに告げる。すると皆、先を争ってカリーフから魚を奪い、略奪するのであった。カリーフはほうほうの体で二匹の見事な魚を持って逃げ出すが、遅れてあらわれた黒人の男は、カリーフが投げつけた最後の魚を拾うと、今は持ち合わせがないが宦官サンダールを訪ねれば相応の対価を支払うと告げて立ち去る。
そのころ宮殿では、教王が心の力に夢中になっていることをセット・ゾバイダが聞きつけ、ひそかに殺してやろうと画策していた。しかし呼びだしてみると、心の力があまりに美しいため、自分も心を奪われてしまう。そのため死を与えることはやめ、麻酔薬を投じて眠らせて箱につめ、市場で箱ごと売るように指示。そして心の力が急死したという噂を流した。戻ってきたアル・ラシードは知らせを聞き、深い悲しみにとらわれた。
次の日、カリーフがサンダールから代金を受け取りにきているのを見かけたジャアファルは、教王の気晴らしのために謁見させる。教王は、一ディナールから千ディナールへの金額、教王から卑職までのあらゆる官職、棒打ちから縛り首までのあらゆる刑罰を紙に書かせ、くじびきさせることにした。カリーフは三十回の棒打ちをひき、棒で打たれる。気の毒がったジャアファルは二回目をひかせるが、ひいた紙の内容をジャアファルは言わず、これは白紙であると申告した。最後、三度目をひくと紙には一ディナールと書いてあり、カリーフは一ディナールだけを持って宮殿を後にする。帰り際、やはり気の毒がったサンダールは、カリーフへ百ディナールを与えた。
帰り道市場を通ると、宮殿からの下げ渡し品であるという長持が競りにかけられている。カリーフは持っている百一ディナールをすべてはたき、それを購入し持ち帰る。その長持には心の力がつめられていた。麻酔が切れて長持から出てきた心の力は、礼儀作法をカリーフに教える。すると、今まで度しがたい男であったカリーフの内面はみるみる変貌をとげ、すっかり都会人になってしまったのである。
心の力は、宝石商人イブン・アル・キルナスへの手紙を届けるようカリーフに頼む。心の力を教王へ献上した当人である。手紙を受け取った宝石商は、カリーフに金と上等な衣装をあたえ、湯浴みをさせてこざっぱりとさせている間に心の力と合流した。さらにカリーフは、宮殿へ行って教王を賓客として招待する。カリーフの変わりように驚いた教王は招きに応じ、そこで心の力と再会した。気絶せんばかりに狂喜した教王は、カリーフを地方太守のひとりに任命し、さらに宮殿の女たちのなかから、心の力が選んだ女をカリーフの妻として与えた。

ハサン・アル・バスリの冒険
第五百七十六夜-第六百十五夜
ペルシアとホラーサーンの王たちの中に、ケンダミル王がいた。王は物語が好きで古今の話を収集していたが、ついに聞いたことのない話などなくなってしまう。王は語り部アブー・アリを呼びだすと、いまだ余の知らぬ希代の話を持ってこい、成功すればあらゆる栄誉と財貨を与えよう、失敗すれば串刺しの刑が待っている、と告げる。アブー・アリは一年間の猶予を取りつけると五人の白人奴隷を五方面に派遣し「ハサン・アル・バスリの冒険」を探してくるように指令する。そのうち四人は虚しく帰るが、ダマス方面に派遣した一人が、ダマスの語り部から採話することに成功する。彼が帰ったのは、処刑のわずか十日前であった。「ハサン・アル・バスリの冒険」を聞いたケンダミル王は、これほどまでにおもしろい話を知ったならば、もう一生退屈はすまいと考え、満足してアブー・アリを総理大臣の職につけ、多くの所領を与えた。その「ハサン・アル・バスリの冒険」とは、以下のようなものである。
バスラの町にハサンという非常に美しい若者がいた。商人だった父親が亡くなると遺産を受け継ぐが、世間知らずだったためにたちまち使い果たしてしまい、不憫に思った母親が自分の財産から市場に金銀細工の店を出してやった。彼の美貌を見物にくる人たちなどで店はなかなかの流行りようだったが、あるときペルシア人があらわれて、ハサンに錬金術をみせ、お前を養子にしてこの技を伝授しようという。ペルシア人の言うことなど信用するなという母の忠告を聞かずにペルシア人を家に招いたハサンは、麻酔薬を飲まされて船にのせられ、みも知らぬ土地へ拉致されてしまった。
ペルシア人はバーラムという拝火教徒の魔法使いで、毎年回教徒の若者をさらっては、邪悪な儀式を行っているのだった。バーラムが魔法の小太鼓をとりだして一打ちすると、羽が生えた黒馬があらわれてふたりを切り立った山の山頂へ運ぶ。ここで宗教を捨てるよう迫られたハサンは、拒否して小太鼓を奪い、バーラムを崖に追いやって突き放す。すると魔法使いは転落して死んでしまった。
帰る道を探すと、広い平原の中に黄金の宮殿があるのを見つけた。そこには末っ子「薔薇の蕾」をはじめとした七人の乙女たちが暮らしている。彼女らは魔神の王の娘たちであり、一生結婚などさせないという誓いをたてた父により、けして男の目にふれないこの宮殿で日々を送っているのだ。ハサンの姿が美しいことに喜んだ乙女らは、彼を弟として向かえ、ハサンはかわいがられて楽しく過ごした。
ある日魔神の使いがきて、乙女たちを魔神の国の祝祭に招く。薔薇の蕾はハサンにすべての部屋の鍵をわたし、ただしトルコ玉が飾られた扉はけして開けてはならぬと言い残して出発した。しかし好奇心に負けたハサンは扉を開き、湖に面する露台に出る。すると十羽の見事な鳥が飛んできて、羽衣を脱ぐと美女に変身した。そしてハサンは、そのうち最も見事な美女に恋をし、恋煩いに陥ってしまった。
やがて乙女たちが帰ると、まず薔薇の蕾がハサンの様子がおかしいことに気づく。すべてを話すと、その娘は彼女らの父王をも越える魔神の大王の王女らに違いないという。そして、王女を手に入れるには羽衣を奪うしかないと助言した。その言葉にしたがって羽衣を盗み出すと、帰る手段を失った王女は宮殿に留まざるをえなくなった。王女は名を耀い姫といった。はじめは嘆き悲しんでいた耀い姫だが、乙女たちの説得や、ハサンの美しさ、詩の巧さもあり、ついに結婚に承諾する。
しばらくのうち宮殿は歓喜に包まれていたが、四十日目に母が嘆いている夢を見たハサンは、バスラへ帰る決心をする。一年に一度は顔を見せるよう乙女たちと約束し、小太鼓で呼びだした馬に莫大な土産物を積み込んで、別れを惜しみつつ帰途についた。帰宅すると、息子が無事に、しかも高貴な娘を妻にして帰ってきたことに母は喜ぶ。急に金持ちになったことを不審がられることを恐れ、バクダードへ移住することにし、豪勢な屋敷を買い求め、一年のあいだ一家は幸せに過ごした。その間に耀い姫は男の双子ナセルとマンスールを産み落とした。
一年がたつと、ハサンは約束どおり乙女たちが暮らす宮殿を訪ねることにし、留守の間耀い姫を外へ出さないことと、隠してある羽衣を渡さないことを母親に言い残して旅立った。しかし浴場へ行きたいと訴える耀い姫の訴えに、母はついつい許可してしまったのである。浴場にはセット・ゾバイダの女奴隷が居合わせており、素晴らしい美女がいたことをゾバイダ妃に報告する。ゾバイダは持ち前の嫉妬心を発揮し、教王が美女の存在を知る前に確認しておこうと考え、耀い姫を呼びだした。ゾバイダは耀い姫の美貌に驚き、何か特技はあるかと質問する。羽衣があれば空を飛ぶことができると答えると、屋敷を調べさせて羽衣をみつけ、耀い姫に渡した。久しぶりに空を飛んだ耀い姫は昔を思い出し、子供たちを抱き上げると魔神の国へ帰ってしまう。ハサンがわたしや子供たちに会いたければワク・ワク諸島を訪ねよと言い残して。
戻ったハサンは、妻子が帰ってしまったことを悲しみ、ワク・ワク諸島へ向かうための知恵を借りに乙女たちの宮殿へとって返す。だが乙女たちは、そこへたどり着くなど到底無理であるという。一縷の望みをたくし、彼女たちの叔父アブド・アル・カッドゥスを呼びだして相談をしてみる。叔父君も不可能だと断言するが、ハサンの深い悲しみを見ると、自分の乗る白像の後ろにのせ、七年の距離を三日で駆けて洞窟へ到達する。そこでハサンの覚悟を再確認し、青毛の馬と長老「羽の父」への紹介状を渡した。ハサンは青毛の馬にのり、十年の道のりを十日で走破すると、ある山の洞穴に着く。事情を知った羽の父は、ひとふさの毛を渡し、危機に陥ったときは一本の毛を焼けば助けに行くといい、鬼神を招くと、ハサンを白樟脳の地まで送らせた。
白樟脳の地について一人で歩き出したハサンだが、すぐに巨人につかまってしまった。悲鳴や嘆きを鳥の声と思った巨人は、これを王様に献上する。下げ渡された巨人の姫は、この鳥が巨人の男と同じ構造をもっていることをおもしろがり、毎夜のように媾合を強いるのだった。ハサンは隙をみて毛の一本を燃やし、羽の父を呼びだす。救出を頼むと、次の瞬間ハサンはワク・ワク諸島の海岸にいた。ハサンは侵入者として鳥たちに囲まれ、魔神の守備隊、娘子軍が迫る。
娘子軍の隊長「槍の母」は醜い老婆であったが、ハサンを気に入って親身になって世話をする。妻を探していると聞くと、娘子軍全員を水浴びさせて、この中に妻がいるか確かめさせるが、見当たらない。そこで特徴を聞くと、それは王女のうちのひとりに違いないのだった。身を滅ぼすのであきらめた方がいいと説得するが、ハサンの覚悟はゆるがない。そこで、王の長女であるヌール・アル・フダ姫に相談してみることにした。
話を聞いたヌール・アル・フダ姫は、ハサンを引見してその恋情を訴えられる。しかし王女は、あくまで刑罰をもって対処する心であった。とりなそうとした槍の母は、王女の美貌を見せればハサンの素晴らしい詩句の才がわかるだろうと訴える。王女がヴェールをとると、ハサンはあまりに耀い姫に似ていたため衝撃を受けるが、やはり違っていると訴えた。内心で、自分の美貌を見ても一切なびこうとしないハサンに嫉妬を感じた王女は、妹のうちの誰がこの男を夫にしたのかつきとめ、ふたりとも刑罰をうけさせてやろうと考え、六人の妹たちを召集する。末っ子の王女とともに住んでいる父王は、七つの宝石のうち最も小さいものを奪われる夢を見たとして召集に応じることに反対するが、結局全員が長女のもとに集まった。
ヌール・アル・フダはひとりずつ妹を引き入れてハサンに見せる。どれもとても似ていたが、少しずつ違っている。そして最後に入ってきた末娘「世界の飾り」こそが耀い姫に間違いなかった。犯人が判明すると、王女はハサンを海辺に投げ捨てるように命令し、耀い姫を梯子へしばりつける。すべてを父王へ報告すると、刑罰は王女に一任するとの返事をもらった。
海岸で目覚めたハサンは、娘子軍の小さな娘たちが帽子をめぐって争っている現場にでくわす。その帽子は、かぶった者の姿を消す魔法の帽子だった。ハサンの姿が消えたことに驚いた子供たちがその場を逃げ出すと、ハサンはそのまま王女の宮殿に戻る。
まず槍の母がつながれている牢獄を発見し、その案内で耀い姫がつながれている梯子へたどり着く。出奔したことを謝す姫に、ハサンはひとりで出かけたのが間違いだったのだと諭す。そして子供たちを救出して槍の母の両肩にあずけ、羽衣を三つ入手すると、バクダードへ向けて飛び立った。
母の元へ帰った一同は、それからを幸せに過ごす。そして年に一度、全員で乙女たちに会いにいくことを欠かさなかった。

陽気で無作法な連中の座談集
第六百十六夜-第六百二十二夜
(歴史的な放屁)
ベドウィン人アブール・ホセインは長いことやもめ暮らしであったが、友人のすすめで再婚することになった。しかし披露宴の席上、でかい屁を放ってしまったことを恥じ、その場を飛び出して船に飛び乗り、一気にインドまで逃げてしまう。
十年がすぎて郷愁を感じたアブール・ホセインは、ひそかに故郷へ帰り、母娘の会話を聞いた。「わたしの年はいくつだったかしら」「お前はアブール・ホセインが放屁をした年に生まれたのだよ」
自分の屁が歴史上のできごとになっていることを知ったアブール・ホセインは、そのまま引き返し、二度と故郷へ帰らなかった。
(二人の悪戯者)
ダマスのいたずら者が、もっとすごいいたずら者がカイロにいるという話を聞き、合いに行った。挑戦を宣言してふたりでカイロの町を歩いていると、寺院の厠で、大勢の人が並んで用を足している。どういういたずらを仕掛けるかと問われたダマスの男は、箒の柄で尻をつついてやると答えた。するとカイロの男は、しゃがんでいる人たちへ次々と花束を差し出し、うやうやしく話しかける。どの人も困惑の極みの顔つきをし、それを見ていたものは爆笑した。ダマスの男は敗北を悟った。
(女の策略)
留守がちの夫を持つ身分の高い女は、若い愛人を持っていたが、その男が男色の誘いをかけてきた老人を殴り倒し、逮捕されてしまった。釈放を掛け合いに奉行を訪ねるが、奉行は下心丸出しで女をハリームへ誘う。女は、夕刻に私の家で会いましょうと言ってその場を出る。次に法官を訪ねるが、また誘ってきたのでこれも家に呼ぶ。その次は大臣、最後に王様だが、すべて同じ次第である。女は指物師の店に寄って上下四段の箪笥を注文するが、指物師さえも女を誘うので、五段の箪笥に注文を変更し、夕刻に家へ運んでくるように頼んだ。
まず奉行が来たので、女はじらしつつ、服を脱がせて黄色い帽子と黄色い着物に着替えさせた。するとノックの音がするので、キョドる奉行を箪笥の一段目に隠れさせた。ノックの主は法官で、同じように赤い帽子と赤い着物に着替えさせ、恋人釈放の命令書を書かせると、ちょうど次のノックがしたため二段目に入らせる。同じように大臣は緑で三段目、王様は赤で四段目、最後に指物師を騙して五段目に入れさせた。それが完了すると女は愛人を釈放させ、家中の財産をかき集めて家財を売り払い姿をくらませた。
さて二日もたつと、閉じ込められた男たちは尿意をこらえられない。ついに指物師が小便をすると、それは王様にかかり、王様の小便は大臣にかかり…という具合である。たまらず声を放った一同が、お互いの声の主に気づくと箪笥の中では大騒ぎ。そこへ女の夫が帰ってきて、近所のものと一緒に箪笥を開いてみると、中から小便まみれの珍妙な格好をした王様たちが出てくるではないか。人々は大笑い。王様は、妻を失った夫を慰めるため、第二大臣に任命した。

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この巻はものすごく充実してます。おもしろいなあ。『カリーフと教王の物語』『ハサン・アル・バスリの冒険』あたりは鉄板。特に後者は、物語に飽いた王様が納得したというのもうなずける内容。類似の話の集大成ともいえるけど、だからこそエッセンスが詰まっているというか。二十一世紀現在でも普通に読めますよ、むしろ下手な現代小説なんざ足元にも及ばない出来。すばらしい。あと個人的にツボだったのは『陽気で無作法な連中の座談集』。三編とも笑った。古典で声出して笑うことってあまりない。

羽衣伝説ネタは以前にもあったけど、これ本当に全世界に類似の話があるんだな。興味深い。

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未知のハックに一心不乱に取り組んだ結果、私は自然の法則を変えてしまった -- あるハッカー

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