uruyaの日記: KENZAN! vol.12
蒔絵の重ね / 浅野里沙子
第一回
「御探し物請負屋」藤井文平は、小柄でまだ元服前の前髪姿だが、もう四年もこの商売をしている。父母は健在だが代々の貧乏浪人で、父は手習い所を開いて尊敬を集めてはいるが、家計は苦しい。すこしでも家計の足しになればという思いがある。
この度の依頼は、紙問屋の隠居夫婦からのものだ。妻がむかし武家奉公していたときに下賜されたもので、蒔絵がほどこされた漆塗りの文箱。桔梗の絵がはいっているため、銘桔梗。棚に置いてあったものが、いつのまにかなくなっていたという。妻は体を壊しており、残念ながらそう長くはない様子。生きているうちに見つけだしてくれとの頼みだ。
調査をはじめた文平は、身なりのよいふたりの若者と出会う。すらりとした色白の男前は名を森川哲哉、岩のような大男は名を体で表し本田岩五郎という。このふたり、頼まれもしないのに、なぜか文平を手伝ってくれるという。後で知ると、父と懇意にしている八丁堀同心柿本琢己・通称小だぬきと道場の同門で、剣の腕はかなりのものらしい。さらに昌平黌に学んだ秀才でもある。父によれば、哲哉は六百万石の旗本妾腹の次男で部屋住み、岩五郎は代々御書院番組頭の三男坊とのことだ。哲哉は以前弟を亡くしたことがあるといい、手伝いをしてくれているのは、それが関係しているのかも知れなかった。
古物商を総当たりして聞き込みを続ける三人は、やがて妙な情報をつかんだ。人相のよくない二人組が、最近まとめて売りに出されたものはないかと聞き回っているらしい。さらに有力な情報があり、似たような文箱を売ったことがあるという商人があらわれた。一月ほど前のことで、買ったのは材木問屋木曾屋の番頭で、嫁入りするお嬢さんへの贈り物として購入したようだ。
さっそく木曾屋へ向かうと、人だかりができている。主の留守に、何者かが家探しに入ったらしい。番頭は二十日ほど前に押し込みにあって殺されており、死人のでた部屋は気味が悪いということで、その部屋にあった家具調度類はすべて焼き捨てられたようだ。
春疾風 / 田牧大和
第一回
浜松藩では、藩主水野忠邦を倒そうとする動きが起こっていた。もともと水野家は唐津藩に封じられていた。唐津藩は石高に比して豊かな地である。今の浜松藩へ転封したのは、より幕閣としての出世が望めることから、忠邦がみずから願い出たのが原因である。いわば忠邦の出世欲が原因で、家臣は貧窮を強いられているのである。さらに忠邦は、贈賄をよく行ない、その資金がどこから出ているのか知れたものではない。それらのことから、若手らの不満分子が結集し計画を練っているのだが、その背後には江戸家老坂江田主税の姿が見え隠れしている。
それらの情報を、金四郎は忠邦の料理人彦太から入手した。彦太は金四郎が忠邦のもとへ送り込んだ男だ。つかみどころのない男だが、今のところ金四郎がコントロールしている。送り込むとき、金四郎の間諜であるとはっきり表明したのだが、忠邦はかえっておもしろがり、身近に置いている。
一方、耀蔵が聞き込んでいた情報では、浜松藩上屋敷に二本松大炊の幽霊が出ると吹聴している女講釈師がいるという。二本松大炊は、浜松転封の際に諫死した家老だ。金四郎らが接触すると、その女講釈師小夜は、反忠邦派との接触するためにそのような噂を流しているらしい。金四郎は、接触の仲介を約束し、首謀格の加藤、羽鳥らと引き合わせる。
さらに金四郎は、彦太を介して反忠邦派の動きを忠邦へ知らせる。忠邦は何を考えたか、耀蔵を呼び寄せた。
星火綺譚 / 葉室麟
第二回
あいかわらず内密に活動を続けているらしいバクーニンに、ジョセフ・ヒコがあらたに通訳として加わった。海難事故でアメリカ船に救助され、帰化した元日本人だ。
ロシアは対馬への不気味な工作を続けている。その対応にあたっているのは小栗忠順という外国奉行。遣米使節に目付として参加し、その後世界を一回りして帰国した、諸外国の外交官からも切れ者と目されている男である。小栗は、ロシアを牽制するイギリスの動きなどを利用しながらロシア側と交渉を続けていた。父シーボルトは、バクーニンはロシアのスパイであり、対馬で騒動を起こすことで事を有利に進めるのが目的ではないかと推測する。
やがてわたしは、幕府との雇用契約が成立した父シーボルトとともに江戸へ移動した。
横濱お吉異聞 / 山崎洋子
最終回
慎太郎が正式に結婚を申し込んできたらしい。直接ことわりに行った瑠璃は、慎太郎と口論になる。慎太郎は、元次を襲わせたのは吉だろうと決めつけ、瑠璃の本当の母親は吉だと瑠璃に告げる。帰り道、もの思いにふける瑠璃の足は、自然に元次の長屋へ向かっていた。
荊軻 / 高陽
最終回
嬴政への謁見が許された。乾坤一擲の大舞台が幕をあげる。
迷子石 / 梶よう子
最終回
長兵衛が孝之助へ告げた情報によれば、巧妙かつ大がかりに裏金の作成が行われているということだ。その金は老中阿部伊勢守との縁談を進めるために使われているらしい。
一斤染 / 西條奈加
連載第四回
四十次郎は通いでお蝶の稽古を受けるようになっていた。ある日稽古をつけていると、紀津屋京兵衛という商人が訪ねてくる。安右衛門とは古なじみだということだが、じつはこの男、安右衛門が遺した何かを狙っているものたちの元締めだった。
京兵衛と安右衛門の話をしたお蝶は、父が隠居屋敷として使っていた家を訪ねてみた。近所の人の話では、この家はあれから二度も家探しの被害にあっているという。そして、ときどき年老いた夜鷹が家の前に立っていることがあるらしい。次の早朝、ふたたび隠居所に行ってみたお蝶は、その夜鷹に会うことができた。女はお綱といい、安右衛門にたびたび施しを受けていた。安右衛門が死んだ日も隠居所に来ていたお綱は、斬り殺された安右衛門が紙人形を握っているのを目にしたという。紙人形はお蝶が父へ贈ったもので、一斤染の色で染めたものである。そして現南町奉行岩淵長門守の俳号を、おなじ読みの「一今」という…
その日の夜、千吉と雉坊がなにやら相談している。このふたりも、安右衛門が遺した何かを狙うものたちだった。
風不死岳心中 / 佐藤友哉
第四回
葬儀のあと一同会食になるが、口論が起こる。アイヌのひとりが赤間を殺そうとするが、凶器は赤間をはずれてグレッグに当たる。後頭部を強打されたグレッグは死んでしまった。
村へ戻ると協議が行われ、グレッグなど最初から来なかったことにしようと結論が出た。反発する多一郎だが、グレッグがこなかったことにするなら当然シエナも殺すつもりだろうと思い至り、受け入れたふりをする。
─────
『蒔絵の重ね』
少年探偵に協力する、ワケありの青年。ありがちな図式だが、キャラは立ってる。展開に期待。
『春疾風』
遠山金四郎、鳥居耀蔵、水野忠邦。一時は協力し合い、やがて袂をわかつことになる悪人どもの、三者三様の悪知恵を絞った、狐と狸の化かし合い。おもしろい。オリジナル作をはさんで『三悪人』の続編スタート。やはり前々作のほうが評判よかったらしい。知名度の高い登場人物は、それだけ読者側にも予備知識があるわけで、キャラ付けしやすい。オリジナルでこのレベルのものを書いてくれれば言うことないのだが。
『星火綺譚』
ロシアの対馬占領事件がメインらしい。この事件にバクーニンがどう関与していったのかを、アレクサンダー・シーボルトの目を通して捏造するのが目的と思われる。
『横濱お吉異聞』
どんでん返しの末のほぼハッピーエンド。「客人」としての役目をつとめた吉がたどるこの後の運命を思うと、物悲しさが残る。伏線の回収で多少なんじゃそりゃというのもあったが、おおむねきれいに回収していきました。メイントリックの使い方はうまかったですね。
『荊軻』
史上もっとも高名な暗殺者の物語、完結。結果は史実の示すところ。荊軻の遺志はなおも続いてゆくと示唆する。この時期の秦王はまさしく英雄であり、わかりやすい悪役として描くのもどうかと思うが、晩節を穢し死後は悲惨なことになったのも事実。荊軻を主人公とした小説の組み立てとしては、暴君とするのが当然だろう。
中国史ものって、たまに無性に読みたくなる。欲求を満たしてくれた。
『迷子石』
孝之助の成長を描く青春小説でした。お家騒動に巻き込まれた青年が道に迷っている姿を、迷子にみたてた。テーマ性とのからめ方がうまい。登場人物みな迷子みたいなものだしね。主人公もまだまだ迷い続けるみたいだし。
迷いなく生きていける人なんていないよね。そんなことを思いました。
『一斤染』
お蝶だけをつんぼ桟敷(言葉狩り対象表現)にして陰謀渦巻いていることが見えて来ましたの回。盛り上がってまいりました。
『風不死岳心中』
徹底したコミュニケーション不全の末に起こった殺人事件。そして始まる逃避行?「転」の回ですね。
KENZAN! vol.12 More ログイン