uruyaの日記: さなぎ / ジョン・ウィンダム
さなぎ / ジョン・ウィンダム
★★★★☆
〈試練〉の後の世界。その爪痕は〈悪地(バッドランド)〉という形で残されている。そこはあらゆる動物も植物も生きることができぬ死の世界。侵入したものは必ず死に、近づいたものも大部分は死に至る。その周辺をとりまいて〈外辺地方(フリンジ)〉が広がり、〈悪地(バッドランド)〉に近くなるほど偏奇率が上がっていく。生き残った人々は、圧倒的な破壊のなかでかろうじて残された書物、聖書に依って、偏奇を忌み嫌っていた。神は自らの姿に似せて人を造りたもう。完全なる姿たらざるもの、そは悪魔の業である。それが彼らの信仰だった。なんらかの偏奇がみつかった場合、田畑なら焼き払われ、家畜であれば屠殺され、人間ならば〈外辺地方〉へ追放されるのだ。
〈外辺地方〉に近い開拓地〈未開地方(ワイルド・カントリー)〉ワクナックの大農場に生まれたデイヴィッドは、肉体的な偏奇はなかったがテレパス能力があった。同じ能力を持っているのは燐家に住む彼の従姉妹であり恋人のロザリンドを含む、わずか数人である。その力は、狂信的人物であるデイヴィッドの父ら、村人たちからなんとしてでも隠し通さなければならない。理解し協力していくれるのは、アクセル叔父ただひとりであった。
だが、その秘密がついに発覚するときがきた。デイヴィッドはロザリンドと、強力な能力の持ち主である妹ペトラを連れだし、アクセル叔父から伝え聞いた南西の島へ向けて逃亡を開始する。
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核戦争後の世界。文明は退行し、人々は産業革命以前のヨーロッパのような暮らしをしている。キリスト教をベースにして歪んだ進化を遂げた思想が、開拓地の村を支配しており、偏奇を憎み暴き立てるさまは、さながら魔女狩りの様相だ。
そんな場所が舞台の前半と、逃亡劇がはじまる後半にわかれます。息詰まる閉塞感と、ゆるやかな緊張感が全体を覆いつつ、デイヴィッド少年の周囲におこる状況をたんねんに描いている前半が秀逸です。とても叙情的で、映像的美しさを感じます。
転じて後半は、追われる者のハラハラ感が主体です。イスカンダルのスターシャみたいなのが出てきて、ものすごく上から目線です。あげくに言うことは、どちらが優生かみたいな話です。つまり立場を変えて村人と同じことを言っているだけです。うーむ。逆説的にテーマを語っているようにも見えないけど…まあどちらにしろ、個人的には前半の方が好きだな。
ミュータントものとしては古典らしいけど、要するに『スラン』だよなあ(読んだのがあまりに昔すぎて冒頭の名台詞くらいしか覚えてないけど)。スラン+イギリス古典青春小説みたいな感じでしょうか。放射能の影響による偏奇と、宗教をうまくからませるアイデアはよかった。その点と、前半の描写でかなりの好印象。
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