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von_yosukeyanの日記: Reproduction interdite

日記 by von_yosukeyan

ジャン=ミッシェル・トリュオン『禁断のクローン人間』(新潮社)1993,1989

・あらすじ
2036年(?)、ヨーロッパ連邦、フランス共和国ストラスブール。
前世紀後半に、ヒト・クローニング技術を確立したヨーロッパ連邦は、世界最強の経済力を誇っていた。工業的に大量に生産されるヒト・クローンは、外見は人間でも知性を持たず、家畜と同等のロボットとして、産業部門、医療、軍事部門で大量に消費されていた。
主人公の予審判事(手元にないので名前は忘れた)は、数年前の政治スキャンダルによってエリートコースを踏み外し、アルザス地区で予審判事としての左遷同然の日々を送っていた。
その彼の日常を乱したのは、一人の男の自殺だった。かつて、ヒト・クローニングの基礎技術を開発し、世界で最初にクローン人間の量産化に成功した巨大バイオテクノロジー企業、RSA社の会長だったアランだった。しかし、一代にして莫大な財産を築き、科学者としての栄光の真っ只中に謎の失踪を遂げた彼の自殺に、主人公は司法コンピュータ"アガタ"と、かつてパリ時代に共に働いたことのある警官と共に、アランの死の真相に迫る・・・。

ジャン=ミッシェル・トリュオンは、本業は人工知能研究者で、この本は処女作にして唯一邦訳されている小説である。この作品が驚異的なのは、諜報機関による盗聴資料や、公共データベースによって提供される公開情報、銀行や政府機関の公文書といった、時系列的には断片的な資料の羅列によって構成されている点である。

この小説が書かれた1980年代後半という時代は、まだWWWがCERNで産声を上げたばかりの時代だし、インターネットはまだ研究者と政府によって運営されている時代だった。そういった時代背景から、公共ネットワークとしては現在でもフランスでは広く使われているフランステレコムのミニテルが登場する。また、フランスの独特の法制度(予審判事制度だとか破棄院とか)は、これを読んだ当時中学生だったボクにとってあまりなじみのない世界だった

とはいえ、捜査活動を支援する人工知能であるアガタの推論システムだとか、東欧革命の熱が冷めやまず、マーストリヒト条約締結以前の冷戦後の不安定な世界だった当時としては、政治的にも経済的にも統合され、アメリカや日本の経済力を凌駕したヨーロッパ、というビジョンは新鮮に感じた。

あれから10年経ったわけだが、ヒト・ゲノムの解析が部分的ながらも終了したり、(ヒト・クローニング技術を確立したと騒いでる宗教団体があったりするが)ヒト・クローニングはおろか動物レベルのクローニングも技術的にはまだ未熟な状態にある。だけど、ネピュラ賞を受賞したNicola Griffith『スローリバー』(早川書房)が示したようなバイオテクノロジーを応用した公益システムだとか、アフィメトリックス社(NASDAQ:AFFX、実はこの会社の株を一時期しこたま持ってたが今1株だけ記念に持ってる)のDNAチップみたいな技術を使った遺伝子診断システムだとか、セレーラ・ジェノミクス社(NASDAQ:CRA)みたいな遺伝子特許の独占だとか、Aventis社(NASDAQ_ADR:AVE)の遺伝子組み替えトウモロコシだとか、挙げればギリがないけどバイオテクノロジーだとかバイオインフォマティックスが実現する世界は、実はトリュオンが示したディストピアなんじゃないかと脳裏を過るときがある。

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犯人は巨人ファンでA型で眼鏡をかけている -- あるハッカー

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