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NTT

von_yosukeyanの日記: 金融取引と本人確認 2

日記 by von_yosukeyan

koufuu氏のコメントから

金融ビジネステクノロジーの記事は少し誤解してる点があると思います

まず、金融取引と本人確認上の問題点ですが、法的には民法478条(債権の準占有者に対する弁済)と、民事訴訟法228条第4項(文書成立の推定規定)の二つの問題があります。前者は債権の準占有者(真正な債権者ではない者)に対して行った弁済(返済、払戻)は善意であれば有効であるという規定、後者は署名または捺印された文書は、本人の意思によって作成された文書であると推定すると言う規定です

過誤払い訴訟で問題になっているのは、民法478条の方で昭和41年最高裁判例(民集21-10-2613)以降、準占有者(預金通帳などを持っている者)に対する過誤払いは、478条を適用して有効であるとし、この他の判例構成から「善意・無過失で過払いを行った場合には銀行は免責される」という法理が確立しました。判例を挙げてみると次のような感じになります

昭和37年最高裁判決(民集16-91-1809)
478条の適用につき、善意に加え無過失を要件とする

昭和41年最高裁判例(民集21-10-2613)
預金債権の払戻につき、478条適用を是認

昭和41年最高裁判例(民集20-8-1565)
定期預金の期限前弁済の場合でも478条の適用がある

昭和59年最高裁判例(民集38-3-445)
定期預金債権を担保とする貸付において、債権者とは異なる第三者に対して貸付を行い、預金債権を受動債権として貸付を相殺した場合でも、金融機関として負担すべき相当な注意義務を尽くした場合には、478条を類推適用し有効とする

 

特に、昭和59年最高裁判例が、478条が規定する債権の弁済だけでなく貸付契約における本人確認にまで拡張した意義は大きく、後の昭和63年最高裁判例(民集未登載)が総合口座取引における定期預金を担保とした当座貸越にまで概念を拡張したことに対して問題視する学説があります。

いずれにせよ、過払い訴訟で争点とされているのは478条適用の問題であり、キャッシュカードによる暗証番号入力による本人確認が争点とされた訴訟とは少し問題が異なるということがいえます。特に、今年の最高裁による親和銀行判例はキャッシュカードではなく預金通帳と暗証番号による払戻が争点となった事件で、UFJ事件や東京三菱銀行事件横浜地裁判例とは争点が異なります

実はキャッシュカードの暗証番号確認に関する判例は、明確に478条を適用したものがないという背景があります。平成5年最高裁判例(民集未登載)は、『現金自動支払機によりキャッシュカードと暗証番号を入力した場合には、責任を負わない旨の免責約款により免責される』と判示し、キャッシュカード取引約款上の免責約款を直接適用したものなのか、それとも478条及び前述最高裁判例の具現化した取引約款を適用したものなのか定かではなく、学説にも争いがあります

もう一つ問題となるのは、東京三菱銀行事件横浜地裁判例は定期預金と普通預金の過払いに対して前者と後者では、金融機関として払うべき注意義務に差異があるとして、前者に対しては返還を命じ、後者に対してはその義務にないとした点に大きな意義があります。即ち、定期預金の払戻は流動性預金である普通預金と同程度の注意義務ではダメだ、ということです

では、果たすべき注意義務とはどのようなものか、というと例えば手元のUFJ銀行普通預金取引規定24条は以下のような規定を置いています

【第24条】免責事項等
当行は、以下の事由により生じた損害に対しては責任を負いません。

(省略)

(4)当行が書類に使用された印影を届出の印鑑の印影と相当な注意をもって照合し、相違ないものと認めて取り扱いを行った場合において、それらの書面につき偽造、変造、盗用その他事故があったために生じた損害

こう言った規定は、程度の差はあれ大体の銀行の取引約款に置かれている条項ですが、この規定自体は478条が要求する注意義務を免責したものではありません。例えば、定期預金では印章以外の本人確認手段、例えば免許証などの公的書類による本人確認や、記載事項の確認(例えば前掲の横浜地裁判決では明らかに間違った住所が記載された書類が提出されていたにも関わらず払戻が行われている)などの必要がある訳で、結局印影が合致しているからとか暗証番号が合っているから(自動機取引を除く)、という理由で銀行が注意義務を果たしたとはいえないのです

よって、過払い訴訟で問題となっている印影以外の本人確認技術が確立されたとしても、銀行の注意義務が免責されることはありませんし、記事が結論としている顧客の自己責任原則の強化、などという主張は適当ではないと思います

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 確かに、脊髄反射でリンクを紹介してしまった感がします。ただ、個人的には、銀行の注意義務を求めた結果、利用者に不当に不便を強いるのであれば、別の道を用意することも必要じゃないかとは思いますが。このときは、手数料や利便性の面で利用者にメリットがあり、かつ、その結果としてのデメリットやリスクを利用者が認知するということが必要だと思いますが。もちろん、最善は、銀行が適切な水準の注意義務を行ったとしても利用者に不便を強いないということではありますが。

    #んー、それにしても、他にニッキンの記事を紹介しているようなサイトは無いんかなぁ…。

    規定については、 全銀協は雛型改訂を検討(要PDF) [zenginkyo.or.jp]しているようです。但し、von_yosukeyanさんが指摘するように、判例との兼ね合いをどう解決するのかが課題なんでしょうが。
    --
    written by こうふう
    • ん~個人的には少し別の問題を考えていました

      金融取引の認証手段として、印鑑を用いるというのは東アジア系の国家(日本、韓国、台湾、中国)辺りでは一般的ですが、少なくとも韓国では窓口業務では印影だけを認証手段としているのではなく、暗証番号も認証手段として使用していると記憶しています。

      取引の利便性の点からいうと、仰る通り普通預金に関しては厳重な本人確認は現実的ではありませんし、実際に前掲の横浜地裁判決も定期預金とは別の取り扱いの可能性について言及していますが、定期預金に関しては478条適用の場合、裁判時に注意義務の有無に関して銀行側ではなく、顧客側が立証責任を負っている原状から考えると、銀行側にも相当な注意を行う義務が存在するのではないかと思います

      #全銀協の了解事項とは別なんですが、報道によると盗難通帳による過払い被害者に対して大手行の中には訴訟を検討している顧客に対して、個別に保障を行う動きがあるようです。ただ、銀行側が保障を行った顧客に対して口止めを条件としているみたいなので…。

      で、別の問題というのですが、デビットカードの問題です

      ご存知の通り、BTMはJデビットサービスを提供していないのですが、デビットカード決済に関してはクレジットカードと異なり暗証番号の入力の必要性がある(サインの認証を代理店が行っていないという問題は別として)ことが、利用者拡大のネックになっていると思います。さらに、暗証番号の入力が決済時間の遅延に繋がっている問題を考えると、生体認証を電子マネーに適用する方向性というのは、新しい決済システムの展開の動きの一つではないかと思うのです

      どうも、官主導で作られたJデビットの方向性が、あまり金融界の中でも評判がよくないというのが関係しているのではないかと思うのですが、Masterデビットとの兼ね合いを考えるとちょっと興味深く感じています
      親コメント
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