von_yosukeyanの日記: 植民地銀行
「わが国で最も古い銀行はどこか?」という非常に難しい歴史的命題がある。そもそも、銀行をどのように定義するのか、によっても大分異なってくるのだが、日本で初めて、銀行行政法として立案された国立銀行条例(1872)に基づいて設立された、第一国立銀行(後の第一銀行)がそれにあたるのではないだろうか
しかし、国立銀行条例の施行前にも、わが国には銀行制度が存在していた。例えば、三井銀行の設立は1878年だが、三井家の金融事業はすでに江戸時代には、公金御用達として活躍していたし、室町期に創業した住友家にしてもそうである。史上最強の金融財閥として君臨した安田銀行にしても、(乾物屋兼両替商として)創業は1864年(安田銀行発祥の地とされる日本橋小船町に移ったのは1866年)である
一方で、日本の開国(1859)前後に、日本に進出してきた外国の金融機関がある。米国と英国の銀行がそれで、主に貿易金融を取り扱う冒険的な銀行が多かった。1863年に横浜に支店を開設したマーカンタイル銀行(後のチャータード・マーカンタイル銀行)がそれで、1866年には香港上海銀行、1872年にはドイツ銀行(ドイツ銀行の海外支店としては最初の拠点)がそれぞれ開設されている
1959年に、HSBCはチャータード・マイカンタール銀行を買収しているので、HSBCはわが国で最古の近代的銀行組織であると言えるのだが、実際にHSBCに代表される外国金融機関は単に貿易金融だけを行っていたわけではない。当時脆弱だった幕府や明治政府の財政を、やはり貿易金融機関として設立された横浜正金銀行(後の東京銀行)や三菱銀行、三井銀行と協調して海外からリスクマネーを集める役割も果たした。やがて、横浜正金銀行や日本興業銀行(1902)が戦時公債の募集など、海外からの資金調達を直接行うようになるが、こういった外国金融機関の中でも植民地銀行と呼ばれる金融機関が、わが国の近代化に果たした役割は決して小さくないと言える
こういった植民地銀行は、主に植民地進出が活発だったイギリスやフランスに現在も残っている。HSBCのほかに、英スタンダード・チャータード銀行(近東やアフリカ圏)、仏クレディ・アグリコル・インド・スエズ銀行(近東・インドシナ半島)などがそれである。クレディ・アグリコルは、現在ではドメスティックな銀行ではあるが、農業銀行の中央系統金融機関的や役割を果たしていることから、膨大な年金運用ポジションを抱えており、わが国の株式市場でも重要なプレイヤーの一つである。
HSBCは言うまでもなく、イギリスのアジア圏の植民地政策の中で成長した銀行で、現在ではイギリス本土やコモンウェルズ圏だけでなく、近東、南アジア、東南アジア、東アジア、北米にも巨大な拠点を築いている。1980年代から、HSBCは金融ビックバンの流れに乗り、買収や自己拠点の充実を通じて世界各国に拠点を築き、91年には現在の持株会社制に移行した。リージョナルバンク化と、マネーセンター・バンク化という極端に異なる二つの形態に特化しつつある米国の巨大金融機関や、国営金融事業の統合によって誕生した欧米の巨大金融機関(オランダ銀行やクレディ・アグリコルなど)とは異なり、"The Worlds local bank"を標榜し、各国拠点でリテールバンキングを含めたフル・バンキングを提供している稀有な存在である
こういった、フル・バンキングを提供する金融機関は、基本的にわが国ではシティ・グループくらいしかないのではないかと思う。HSBCの日本拠点は法人業務とプライベート・バンキングしか行っていないが、90年代の日本版金融ビックバン時代初期には、こういった外国金融機関がわが国でリテール業務も展開するのではないかという懸念があった。結局は、メリル・リンチの日本展開が失敗したように、現実には外国金融機関が、独自のブランドを使っての展開はあまり成功しているとはいえない
その代わり、UBS系のローンスター・グループによる東京相和銀行の経営権取得や、シティー系のリップル・ウッド・ホールディングスによる新生銀行経営権取得に見られるように、破綻した銀行の再生には一定の力を入れているように思える。一方で、シティー系のCFJや、GEキャピタルのように消費者金融に力を入れている場合もあるが、ポジションの割にはそれほど成功してはいないのではないか、と思う
わが国で外資によるリテール・バンキングがそれほど成功していない理由は、おそらくは日本の金融機関がリテールでは儲けられないという理由に通じるものがあるのではないかと思う。本質的には、日本の金融機関は証券会社や消費者金融などを除いてリテールでは赤字を垂れ流しているし、業態間の相互参入にも大きな障壁がある。そこで、確実に儲けが出る消費者金融や、邦銀がこれまで手を出さなかった企業再生などに的を絞っているのだろう
しかし、外資系金融機関が日本に進出できない理由の一つが、規制が障壁になっているのだとしたら、それは同時にわが国の金融機関の営業をも阻害する要因になっているのではないかと思う。金融の機能不全の問題を金融機関の責に帰する前に、規制緩和をもっと進めて欲しいと思う強固の頃
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