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von_yosukeyanの日記: イラクの対外債務 1

日記 by von_yosukeyan

イラク復興問題がらみで、米国と対イラク戦で消極姿勢をとった仏独露加の四カ国との間で亀裂が走っている。ここで問題になっているのは、米国が独自の予算を組んでイラク復興を行う事業に対する入札要件であるから、米国が非同盟国を排除するというのは、一応は論理的であるが四カ国がイラクに対して保有している債務の放棄を拒否する姿勢を見せるなど、米国と非同盟国の間で亀裂が表面化している

このイラクの対外債務とはそもそもどのような性質を持っているのだろうか。日本もイラクに対して70億ドルの対外債務を保有しており、イラク復興では50億ドルの直接支援に加え債務放棄によって最終的には120億ドルの負担を行う予定である

ところで、現在ドイツで政治問題になっている案件の一つに、中国に対するウラン再処理施設の売却問題がある

与党SPDと連立を組む緑の党は、党の方針としては売却に消極的だが、SPDは中国に対する設備売却は合法的であるという見解を崩していない。核関連施設は軍事目的に利用されるわけではなく、合法的かつ平和的に利用されるというのがSPDの見解だ

これと同じ見解が示されたのが1980年代ドイツがイラクに対して売却した核関連設備でも行われた。当時、フセイン政権はドイツから核再処理設備と核燃料の原料となるイエローケーキの購入を積極的に行い、フランスからは時代遅れの研究用原子炉を、また当時のソビエトからも各関連設備の購入を行っていた。ちなみに、この原子炉売却時にイラクに対してトップセールスを行ったのが、当時のフランス首相だった現フランス大統領のシラク氏で、後にアメリカの援助で購入されたイスラエル国防軍(IDF)のF-16戦闘機によって破壊された

湾岸戦争後の、国連による経済制裁下でも、ドイツとフランス、ロシアはイラクに対して様々な設備売却を行っていた。通信設備、医薬品、石油取引などだ。元々、イラクはオスマントルコ帝国の領土を分割した時、フランス勢力下をシリアに、イギリス勢力下をイラク、ヨルダン、パレスチナ(後にパレスチナとイスラエル)に分割してできたという歴史的な経緯から、きわめて人工国家的な要素が強かった。そういった理由で、イラクはイギリスの勢力圏にあったが、1960年代のイギリスの対外政策の変化によってアメリカの勢力も入ってくるようになった

隣国イランでイスラム原理主義政権による革命政権が成立し、またソビエト軍がアフガニスタンに侵攻すると、ガルフ諸国はイランの革命輸出を深刻に懸念するようになった。特に、イラクは強権的な独裁体制の下で、一応は複雑な国内勢力を抑えていたが、同じく強権的な王政が転覆されたのを見て、革命政権の打倒と国境地帯の石油資源を獲得しようとする。これがイラン・イラク戦争で、ガルフ諸国はイランの革命政権に正義の鉄槌を下したイラクに対して膨大な経済・軍事援助を行った

#といっても、ガルフ諸国で民主的な政権は現在も存在しない

これに同調するように、先進国もイラクに対して膨大な援助を行うようになった。特に、アメリカとイギリス、そして日本はイラン・イラクの不安定化がサウジ・アラビアに波及することを恐れ、膨大な軍事援助を行った。日本の70億ドルの経済援助も、実質的には軍事援助であった

この中で、ヨーロッパ諸国はガルフ諸国の安定という観点だけでなく、軍事物資の輸出を通じた実益を狙っていた。フランスは、すでに用済みとなりつつあったシュペール・エタンダール戦闘爆撃機やミラージュ戦闘機を高値で売りつけたし、イギリスやイタリアは攻撃ヘリコプターや上陸用艦船を、ドイツは化学兵器関連設備を、日本は軍事転用可能な民生品を「戦時価格」で売りつけた

イラン・イラク戦争期の最大の経済犯罪が、BNL事件である。イタリアの大手国営銀行バンカ・ナツォナーレ・デル・ラボーロ(BNL)ロサンゼルス支店は、アメリカの農産物輸出補償制度(CCC)を悪用し、イラクや隣国ヨルダン向けの農産物輸出と偽って膨大な輸出補償枠を引き出し、この資金でアメリカや日本、イタリア、イギリスから攻撃ヘリコプターや軍用品をイラクに輸出した。この輸出に関与したのは、イラクがアメリカに設立したマトリックス・チャーチル社というダミー会社で、正規の取引を偽装してヒューレットパッカード社を初めとする民間企業から膨大な軍事物資を購入した。これらの融資の一部は、南米でひそかに製造されていた安価な集束爆弾(クラスター爆弾)の購入にも充てられ、対イラン戦や国内のエスニッククレンジング(民族浄化)などにも使用された

湾岸戦争の最中でさえも、イラクに対する軍事援助が行われ続けた。アメリカの情報機関は、ドイツ経由でソビエトから購入した対空ミサイルをイラク戦の最中に床を特別に強化したB-707輸送機でヨルダンに物資を送り、それが結果的にイラクで使用された

そして湾岸戦争後、イラクの対外債務返還が停止すると、欧米諸国は新しいマーケットを獲得した。ソビエトや西側の最新の武器で武装していたイラクが簡単に多国籍軍に敗北したことに衝撃を受けたガルフ諸国が、膨大な武器購入を開始したからである。サウジ・アラビアは、米国からE-3早期警戒管制機(AWACS)とF-15戦闘機をセットで購入し、ボーイング社やマグドネル・ダグラス、NG社といった軍産複合体は冷戦後の需要縮小下でも生産ラインの閉鎖を免れた。それだけでなく、サウジアラビアの軍備拡張を脅威と見たイスラエルは、大量の最新型F-15G/Iを購入しF-15の生産ラインは90年代後半まで稼動し続けた。他のガルフ諸国も、ヨーロッパからホーク攻撃機、ミラージュ戦闘機、トーネード戦闘爆撃機、各種陸戦兵器を大量購入し、数百億ドルの金が西側に流れた。クウェート復興でも、米国、欧州、日本のゼネラルコンダクターやプラント企業は、膨大な復興需要を担い、大手銀行は融資や決済で潤った

対イラク戦でも、大手軍産複合体が潤っている。高価格なために購入が滞っていたボーイング社のC-17戦略輸送機は対アフガン・イラク戦でその性能を実証したし、イラク戦のために大量のAH-64ロングボウ・アパッチが投入されている。それでも、米軍の前線で支給されている兵器はきわめて劣悪なものだ。兵士たちは、30年以上前に製造された老朽兵員装甲輸送車でパトロールし、彼らに物資を届けるCH-47輸送ヘリやC-141戦略輸送機は、製造後30年から40年が経過し、耐久性能の低下から搭載貨物重量を半分以下に制限されているのに、本土やドイツの補給基地から貨物を満載してノンストップで往復している

イラク戦には正義はなかった。だが、イラク戦を批判する仏独露にも正義はない。そして、イラク復興に手を貸そうとする日本政府も、それに反対する勢力にもまた正義は存在し得ない。なぜならば、現在のわが国の経済的繁栄と平和もまた、不正義な戦争によって生み出されたものだからだ

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