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von_yosukeyanの日記: インスース/アウトソース

日記 by von_yosukeyan

マネーメモで興味深いテーマが取り上げられていたので、ちょっと書いてみる。ちょっと例として、最近日経BP近辺でも取り上げられていた、JPモルガン・チェースのアウトソーシング契約破棄の話題を挙げてみたいと思う

この日記でも何度か取り上げているJPモルガン・チェースだが、少しおさらいをしてみよう。JPモルガンとは、かつて米国の金融のみならず産業界を支配した空前の金融財閥の末裔である。グラス・スティーガル法によって、投資銀行業務と商業銀行業務の分離が勧められた結果、モルガン商会の投資銀行業務はモルガン・スタンレーと商業銀行部門のモルガン・ギャランティー・トラストに分割された

#モルガン・スタンレーはその後、90年代に大手投資銀行ディーン・ウィッターを吸収合併して、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター(MSDW)となったが、後に名称をモルガン・スタンレーに復帰している

1970年代からの一連の金融危機と、規制緩和によって投資銀行業務への再参入を企てていたJPモルガンは、2001年に大手名門商業銀行であるチェース・マンハッタンとの経営統合提案を了承し、全米第二位の総合金融持株会社JPモルガン・チェースを誕生させ、傘下のJPモルガンに投資銀行業務を、チェース・マンハッタンを母体としたチェース銀行に商業銀行業務を集中させる形で経営統合を行った。この合併に先立ち、チェース・マンハッタンはIBMとの間で基幹系システムの長期アウトソーシング契約を締結し、システム部門の人員をIBMに転籍させるという経費節減策を講じた

ところが、2004年に入ってJPモルガン・チェースは大手スーパーリージョナルバンクの一つであるバンクワンと経営統合を発表した。日本ではJPモルガン・チェースによるバンク・ワンとの経営統合と報じられたし、日経BP近辺でもそのようなニュアンスで伝えられているが実態は非常に異なる

元々、90年代前半から米国の大手銀行は個人を相手とするリテールバンクの収益性の高さが注目されるようになった。特に、経営破綻寸前まで追い込まれたシティ・コープは、消費者金融やシステム部門の責任者を歴任したジョン・リード会長の元で、伝統的な商業銀行業務中心のビジネスモデルから、リテール基盤を重視する戦略に転換し、99年に大手投資銀行グループのトラベラーズ・グループ(ソロモン・スミス・バーニ)と合併し、世界最大の総合金融グループであるシティ・グループを誕生させた。それだけでなく、リージョナル・バンクであったバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)のような伝統的なグループから、ウェルズ・ファーゴ、フリート・ボストン(4月にバンカメに吸収)、ステート・ストリート、バンク・ワンといった新興のリージョナルバンクが、中小銀行を吸収合併して急速に勢力を拡大し、資産100億ドルを越えるスーパーリージョナルバンクと呼ばれる金融集団を形成していった

ニューヨークの伝統的な大手商業銀行であるチェース・マンハッタンも例外ではなく、元々の母体はニューヨークの大手商業銀行ケミカル・バンクが、90年代初頭にニューヨークのマニファクチャラーズ・ハノーバー(マニハニ)を買収し、95年に経営危機にあったチェース・マンハッタンを吸収するも、知名度の高いチェース・マンハッタンの名称を使いつづけた。JPモルガンとの合併も、対等合併であると言われたがチェース有利な合併であったと言われている

バンク・ワンとの経営統合も、よく見てみるとバンク・ワンの証券・投資銀行業務を分離してJPモルガン(投資銀行部門)に吸収させる一方で、商業銀行部門はバンク・ワンにチェースを吸収合併させて、チェース部門の人事はほとんどバンク・ワン系が握ることになる。システムもバンク・ワンに吸収合併させるという形なので、報道されているようにバンク・ワンは吸収合併された、というのはかなり偏見のある報道だ

こう言った長期アウトソーシング契約の破棄は、わが国でも珍しくない。大手銀行では、システム部門はほとんどインソースでアウトソーシングを行っているのは、メガバンクではUFJ(UFJ日立)とりそなくらいで、残りの大半は地方銀行であるというのも関係している。しかし、当のりそなも大和銀行時代にIBMに全面アウトソーシング契約を締結しているが、国有化後のシステム戦略見直しで契約を破棄し、旧あさひ側へのシステム統合への変更とNTTデータとの長期アウトソーシング契約を締結してる。あさひ銀行はIBM系なので、日立系のシステムを得意とするNTTデータへのアウトソーシングは大丈夫なのか、という声もあるが、そもそもIBM自身も島根銀行(富士通系)との間で今年アウトソーシング契約を締結している。こういったアウトソース契約では、開発部隊もアウトソース対象になるので、当面の間は大丈夫というのもある

もうひとつ、日経BPの記事でも錯誤があるようだが、バンク・ワンのシステム開発はIBMとの共同であるという点だ。バンク・ワンの電子小切手システム(チェックトランケーション)は、IBMも開発に参加しており、システムの外販はIBMが担当していて、いくつかの大手銀行もバンク・ワンのチェック・トランケーション.システムに興味を示している。アウトソース先の変更や、アウトソースとインソースの変更が頻繁な米国では、契約破棄はそれほど珍しい話ではないし、結局はIBMはバンク・ワンのシステムに関与するので、なぜそう大騒ぎしているのかという感じすらある

こういった観点から見ると、なぜインソースなのか、アウトソースなのかという話は別の視点から見ることもできるだろう。実際のところ、大抵の銀行は自社の子会社という形ですでにアウトソースになっていて、銀行本体や持株会社にはシステム企画部門しか残っていない。システム企画部門の大半も、システム開発子会社に移行しているという例すらある

例えば、大手投資銀行・商業銀行の野村證券のシステム部門は、すでに上場している野村総合研究所(NRI)に移行していてシンクタンクといっても研究部門は野村證券本体(野村金融研究所)に帰っている。同様に、大手銀行だとみずほ情報総研(MHIR)、SMFGの日本総合研究所(JRI)、BTMの東京三菱インフォメーション・テクノロジー(TMIT)と、情報システム部門は集約されつつある

歴史的に見ると、これらの情報システム子会社は、単に親銀行のシステム開発と運用を担当する「計算機子会社」という立場の第一次アウトソース時代と、現在のシステム運用、構築、企画を一手に引き受ける第二次アウトソース時代、そしてシステム関連業務だけでなく与信管理や、カード発行業務などバックオフィス業務すべてを包括的に受注する第三次アウトソース時代の三つに分離することができる。これらは、日経BPの記事でも触れられている

私見だが、わが国の銀行業界のシステムアウトソースは未だに第一次世代から第二次世代への移行期にあると思うが、証券業界ではNRIや大和総合研究所(DIR)、日本フィッツなどを中心とした三社による第二次世代が大半で、消費者金融業界では第三次世代に入りつつあると思う。証券業界では、フロント系システムを自社開発する場合が多いが、バックオフィス業務は大半がNRIやDIRに委託する例が多い。一方で、消費者金融の場合は、大手4社のうち武富士を除いた3社と三洋信販を中心とした4社が、主に地方銀行の消費者金融業務を中心に、システム、与信管理、カード発行業務などを完全にアウトソーシングする形態が一般的になっている

ただ、金融業界のアウトソース化はパラダイムとしてわが国では進行していく傾向にあると思うが、そもそもシステム子会社というだけでなく、完全に外部の企業にアウトソース化した形から、インソースに戻すと言う現象は、日本でも起こりうる話であると思う。インソースかアウトソースか、という問題は単にシステム部門を含めた特定部門を、企業のバランスシートから切り離すか否かという問題以上に、企業の収益や存在意義の源泉を内部とするのか外部とするのかという問題に直結するからである

つまり、JPモルガン・チェースの例のように合併によって、アウトソースを行うよりも競争力のあるインソースを入手することができればアウトソースを放棄することもありえるし、実際に競争力のあるインソースを保持していれば、それを武器により企業規模を拡大したり、逆に外部の企業に外販することによってシステム部門単体での収益性を高めるといったことも可能であろう。後者の実例としては、国内でも端的に言えばNRIやNTTデータがそれにあたるし、単にシステム部門の収益性を高めるだけでなく、システム部門のコストを削減するために、直接的には競合関係にはない同業会社が協力することもありえるだろう。この実例としては、八十二銀行を中心とした「じゅうだん会」や、広島銀行・福岡銀行の共同システム、肥後銀行・山陰合同銀行・みちのく銀行の三行共同システム、東京三菱銀行と三菱系地方銀行を中心とした地銀共同システムなど実例としては多い

#この中でも興味深いのが、じゅうだん会の例で、単にシステムを八十二銀行にあわせるというだけでなく、システム企画、ATMや通帳の統合や業務の共通化、法務対応など包括的なバックオフィス業務の共通化に特徴があり、ほとんど第三次的なアウトソースである

皿菌(差別用語)やクレジットカードのように、与信管理のための破綻予測モデルの構築や、トランザクション量の非常に多い消費者金融関連のシステム関連であると、単にシステム開発という点だけでも中小のカード会社が単独でシステムを更新することが難しくなりつつある。そして、労働集約的なプロセッシング業務などを含めたバックオフィス全体の業務の集中化によるコスト削減効果は高く、今後もアウトソース化は進行していくものと考えられる

しかしながら、業務のアウトソース化と経営統合というのはサービスの質の均一化という観点から見れば同義であっても、経営の実態としても、財務やバランスシート的な問題から見ても全く異なるものである。最近、提携という名において会うとソース化を図ったり経営統合を行う例があるが、よく内容を見て確かめないと、実態としてはどちらなのかよくわからないということが普通にあるというのが、また難しいところで・・・。

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にわかな奴ほど語りたがる -- あるハッカー

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