von_yosukeyanの日記: 迷走するブタエモン銀行構想
予想通りというか、ブタエモン銀行構想が漂流している。ニッポン放送買収合戦の件があったにせよ、和解でかなりの資金を手にしたライブドアが銀行構想ではかなり後退を強いられているというのが微妙に面白い(といっても、ニッポン放送問題の件でも明らかなように新規参入への強力な意思はあるにせよ戦略に連動した綿密な戦術がライブドアには欠けていることを考えれば不思議でも何でもないのだが)
ブタエモン銀行構想を阻む障害をもう一度整理すると次のようなものがある。第一に、金融庁による銀行設立/買収認可の問題。第二に、銀行の設立/買収と開業に必要な資金の調達。第三に、銀行経営のノウハウや人材などを含んだ広義のインフラ確立の問題。第四に、設立後5年程度での黒字化可能な収益モデルの確立である
ブタエモン銀行は第一の銀行設立/買収認可で躓いている。元々、異業種からの銀行参入は金融庁の設立認可基準が不明確なために、異業種のみならず新規参入は事実上不可能に近い状態にある。金融規制緩和の影響で、90年代半ばから銀証相互参入と外銀による子銀行設立が、00年代からはネット銀行など事業法人の出資による銀行設立が相次いだが、やはり新規設立認可の基準は未だに参入希望者も、認可を行う金融庁も手探り状態であるというのが実際のところだ
そう言った銀行新規参入の不透明さが顕著だったのが、日本振興銀行問題である。日本振興銀行の設立認可を巡っては、アヤシゲな金融業者や元外食大手企業の創設者ら、彼らに担がれた元バンカーという異様なメンツに加えて、日銀出身の「エコノミスト」の不可解な暗躍で設立に至り、経営紛争を経て顧問だった「エコノミスト」がいつの間にか筆頭株主になり、経営を掌握してしまったという訳のわからない状態だ。一方で、00年以降に新規設立された銀行は、すべてが政府/日銀出身者が経営に参加しているか、設立自体が既存の大手銀行によって行われているケースのどちらかで、やはり設立認可時の経緯が不透明であることには違いない
こういった銀行免許の交付にまつわる不透明さを回避する目的であろうか、04年に東京都が買収したBMPパリバ信託銀行の件では「新たに銀行を設立するよりも免許だけ買ってくるほうが早い」という、新規参入の新たな方向性を示した。新銀行東京の設立では、自治体による銀行経営という「時代を逆行する」政策に、全銀協の猛反発を招いたばかりか政府・金融庁にも微妙な空気が流れたことは記憶に新しい。実は、買収による銀行経営参入は東京都が初めてではなく、97年に破綻した山一證券の子会社である山一信託銀行を買収したオリックス信託銀行、日本長期信用銀行を買収して「参入」した新生銀行、日本債券信用銀行を買収して参入したあおぞら銀行、東京相和銀行を買収して参入した東京スター銀行などの「先例」がある(古くは平和相互銀行を吸収合併した住友銀行なんかもこれに含めてもいいんじゃないかと思ったりするが)
しかし、これらのケースと東京都のBMPパリバ信託銀行買収が異なっていたのは、原則的に山一信託買収を除いて破綻金融機関の再建という目的での売却であったのに対して、BNPパリバの場合は外資が経営する「休眠会社」的な存在である信託子会社を買収することで「免許だけ買った」と言える点だった。実際に、従業員数では100人に満たないし、中小企業への資金供給と、小口預金者への普通銀行業務の提供に必要なインフラやシステムは一から構築しなければならなかったから、実質的には新しい銀行を一から作るのとさほど変わらないといっても過言ではない。今年に入ってから銀行業への「再参入」を決定したヤフーによるあおぞら信託銀行買収も、実質的には同じことである
こういった休眠状態にある銀行の買収は、何もライブドアのような国内の新規参入を狙う事業法人だけでなく、外国の金融機関も目を光らせている。外国送金業務や信託業など、銀行免許(や信託業免許)がないと行えない金融事業は数多く、需要が拡大している南米やアジアへの外国送金業務や、不動産や金銭債権の証券化による資産流動化に、銀行を欲しがっている外国企業や国内事業会社も少なくない。一方で、漏れの推定では、休眠会社状態にある銀行は外資系信託子会社を中心に5社程度存在し、「売り手」と「買い手」の条件はある程度揃っているといえる
問題は買収価格で、サーベラスグループが資産つきであおぞら銀行をソフトバンクグループから買収した価格が約1000億円であるのは例外としても、BMPパリバ信託銀行が約100億円、金融庁の買収認可を必要とせずに議決権のない普通株への転換権を持った種類株式の形で実質的に買収するという巧妙な手段をとったヤフーによるあおぞら信託銀行買収でも120億円程度と、銀行と免許だけとはいえ決して安くない。これにシステム投資や、バックオフィスなどインフラへの投資を考えると最低でも100億円程度は必要なわけで、単独で設立するよりもはるかに資金が必要になるわけだ
ライブドアがMSCBによる増資と、フジテレビとの和解条項に夜普通株引き受けやニッポン放送株の買い戻しなどで、手元資金は1000億円強と銀行業参入には十分な資金が確保できているではないかという意見もあるが、実際のところこの資金は1000億円を下回り、しかも全額が銀行業参入に使用されるとは考えにくい。最大の理由は、銀行業以外の金融事業の強化のために半分くらいは使用されると思われるので、実際に銀行業参入に投入可能な資金は500億円程度と漏れは考えている。そうなると、休眠銀行の買収がギリギリの路線となりよう
話は前後するが、ライブドアやヤフーのような企業は元々銀行業への参入が非常に難しい。米国の大恐慌や昭和銀行恐慌などは、事業会社が支配下におかれた銀行が、庶民から低利で集めた資金を親会社に対して有利な条件で融資する機関銀行の存在が問題を大きくする要因となった反省から、事業会社が銀行を、逆に銀行事業会社を支配下に置くことは厳しい規制が課せられてきた。これは、80年代以降の金融ビックバン(金融規制の大緩和)移行も同じで、ゼネラル・エレクトリックやトヨタ自動車などの巨大産業企業がいくら金融事業を強化したところで、銀行を保有することはありえず、専ら社債発行とノンバンクを通した間接的な金融参入に止まっているのはそのためである
しかし、ソフトバンクによる旧日本債券信用銀行買収は、旧日債銀が旧朝鮮銀行の残余財産を元に設立された経緯から、在日韓国系に対する影響が大きく、韓国政府や在日韓国人団体からの強い圧力でソフトバンクへの譲渡が決定している。それでも、ソフトバンクグループやあおぞら銀行を、ベンチャー企業を中心とするスタートアップ企業への投融資を目的に買収しているから、必然的に金融庁/日銀との間で機関銀行化の歯止めが強く要求されたために、思ったような経営が行えず、ブロードバンド事業への投資資金の調達を契機に株式をサーベラスに譲渡することになった(つまり、ヤフーのあおぞら信託銀行買収による銀行業への再参入は、日債銀買収の時とは目的が異なる)
また、同じ事業会社による銀行設立であるアイワイバンク銀行やソニー銀行の場合でも、リテール(個人客)中心の営業に限定し、イトーヨーカドーグループやソニー本体への投融資を行わない収益モデルであるために銀行免許が交付されたという経緯がある。つまり、ライブドアによる銀行業参入は、必然的に収益モデルをリテール営業中心と、非金利収益(決済など非手数料収益)を中心とする対企業取引に営業分野が限定されることになり、イーバンク銀行のようにリテール基盤で集めた資金を投資銀行業務で運用するといった収益モデルは取りにくい
しかも、銀行免許交付/買収承認の前提が事業会社本体と銀行との間で安易な資金流用を行わない法令遵守体制と、会計の独立が求められる。昨年12月の株主総会で議決された、金融事業会社の中間持株会社として設立されたライブドア・フィナンシャル・ホールディングス(非上場)は、ライブドア本体と金融事業全体での会計独立を図る目的であると考えられる
最後に、銀行経営のノウハウや人材などを含んだ広義のインフラ確立の問題がある。これはあまり知られていないが、新設銀行の多くが銀行運営のインフラに大手金融グループの支援を受けている点を無視できないということだ。例えば、ジャパンネット銀行は三井住友銀行の出資であり富士通などの支援を受けているし、ソニー銀行は三井住友銀行と東京三菱銀行の、アイワイバンク銀行はUFJ銀行と野村総合研究所の、イーバンク銀行はりそな銀行といった具合だ。いずれも、役員の派遣からITシステム、ATMネットワーク、全銀システム接続、バックオフィスなど支援内容は多岐にわたり、資本関係を結んでいる例も多い。一方で、ブタエモン銀行がこのパートナーとして選んだのは、山口県の第二地方銀行である西京銀行である。この西京銀行は、先にも書いたが預金額6000億円で株式非上場の第二地方銀行と業容を見れば中規模信金並みの銀行である。システム面では来年1月に富士通の地銀向け次世代勘定系パッケージのPROBANKに移行する予定であり、システム面でこれといった強みがあるわけではない
なぜ、このような金融機関がライブドアと提携するのだろうか。これはパートナーを探しているライブドアの面よりも、西京銀行頭取の大橋光博氏によるものが大きい。大橋光博は、京大卒業後日銀に入行し、広島支店長などを歴任した後に95年に天下りの形で西京銀行に入行、97年に頭取に就任している。日銀のキャリア職の天下り先としは、西京銀行レベルの第二地銀はちょっとありえない人事であるように思える。また、繰り返しになるが中国地方はバブル期に土地投機に走らなかった銀行が多く、財務体質が健全な銀行が元々多い。一方で、過疎化や産業の空洞化で融資対象の先細りが深刻で、有力な地方銀行がひしめいている中で、融資先の奪い合いが起きている
山口県には、西京銀行のほかに地方銀行の山口銀行がある。中国銀行、広島銀行、山陰合同銀行と中国地方では四傑に数えられる金融機関で、県内の金融シェアトップを占める銀行だが、昨年行内クーデターで頭取が追放された後、会長派の頭取が広島県の第二地方銀行持株会社で経営が悪化していたもみじホールディングスを吸収合併し、広島県への本格的な進出を果たすなど生き残りに向けて県外への進出を活発化させている
一方の西京銀行は、広島銀行、中国銀行、山口・もみじ連合、山陰合同銀行などが進出してシェアの奪い合いを行っている広島への進出ではなく、東京への進出を強化している。これは、バブル期に融資先の新規開拓の一環として、地方銀行が海外進出や大企業融資に走った(関東か関西での営業基盤を強化)のと同じような現象で、地銀の営業体制としては時代を逆行するという批判がある(実際、経営危機に陥った横浜銀行などは不採算な大企業融資をストップして地元回帰によって業績回復を果たしている)。資本金が小さく、極端に山口県経済に依存した西京銀行が、関東での営業を強化するのはかなりリスキーであり、その人材の量的・質的な内容が伴っているのか極めて疑問であるといわざるを得ない
1月に公表された時点での西京ライブドア銀行構想は、西京銀行とライブドア(ライブドアフィナンシャルホールディングス)の折半出資の形で新たに銀行を設立し、全く独自の勘定系システムを構築するとある。議決権ベースでは、西京銀行が過半数を獲得するために、ライブドアの機関銀行化は形の上では防げることになるが、実際に監督官庁がどう評価するのかという点を考えるとかなり微妙だ。単に、西京銀行が名義貸しとして出資するのではれば問題であるし、西京銀行の資本金ベースの半分を越える額を出資すること自体が、株式非公開の第二地方銀行に許されるのか、という根本的な問題も存在する
一方のライブドア側にも、金融システム系の開発能力が全くないにも関わらず、一からシステム開発を短期間に行えるのかという問題がある。最近のネット銀行のシステムは、従来の勘定系を中心に、ATMや窓口などのチャネルシステムや、情報系システムを配置する形ではなく、ネット商取引サイトなどでよく取られるRDBMSを中核としたWeb指向のシステムが多い。しかし、大半のシステムがW-bankやFlexcubeなどの大掛かりなネット銀行向けパッケージソフトを使っているケースが多く、完全に自主開発したイーバンク銀行のケースだと全銀システムには直接接続せず、りそな銀行のシステムを流用する形でシステム運用を行うなど完全に自前でシステム開発した例はない
既存のパッケージに手を加えるにしても、ライセンス料に加えカスタマイズに膨大なコストが必要であるし、自前で開発するとなるとさらに費用は膨らむ。自前開発でコストの圧縮とトランザクションコストの低下による経費削減を達成するのは若干どころかかなり難しいのではないかと思う。それも、プレスリリース段階での資本規模ではなおさら無理に近い
これに加えて、コールセンターやカードの発行にかかるプロセッシングセンターの費用などの開設、運用体制の構築が加わる。ライブドアがいくら自前でコールセンターを持っているにしても、金融機関のコールセンター業務はそれなりな人材集めが必要で一筋縄にはいかない
以上の点を考慮すると、ブタエモン銀行構想は悪く言えば市場の反応を狙ったアドバルーンか、例によって企画調整段階でのプレス発表というライブドアにありがちな安易な公表であったといえるのかも知れない。現段階では全くの白紙に近い状態にあるのではないか、と疑いたくもなるわけだ
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