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von_yosukeyanの日記: 北は平和利用のためにウラン濃縮をおこなている? 7

日記 by von_yosukeyan

http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__953802/detail

久しぶりにこういうアホな主張を見た。この日記でも何度か取り上げているが、北朝鮮が保有する黒鉛炉(マグノックス炉)は、ウラン濃縮の必要がなく、従って北朝鮮のウラン濃縮技術は100%軍事目的以外の利用は考えられない

北朝鮮は、平壌の北の寧辺市近郊に、いわゆる寧辺核施設と呼ばれる原子力研究・生産設備を有している。ここには、核燃料加工工場、濃縮実験プラント、再処理プラント、研究用原子炉に加え、寧辺原子力発電所1号機(5000kw稼動中)と2号機(5万kw建設中)の二つがあり、さらに泰川にはやはり建設中の泰川1号機(20万kw)がある

寧辺1・2号機と泰川1号機は、いずれも北朝鮮が独自に開発したマグノックス炉である。一般的に、黒鉛炉と呼ばれているが、黒鉛炉で最も一般的な炉としては旧ソビエトの開発した黒鉛チャンネル炉(RBMK)がメディアに取り上げられる。チェルノブイリ原子力発電所4号機などは、RBMK-1000だが、この形式の炉は黒鉛減速軽水冷却式圧力管型原子炉で、マグノックス炉とは形式が異なる。マグノックス炉で最も有名なのがイギリスが開発したGCRで、マグネシウム・ベリリウム合金のマグノックスを燃料棒被覆材に使用していることからこの名称がある。マグノックス炉は、減速材に黒鉛を使っている点ではRBMKと同じだが、冷却材には炭酸ガスを使用するガス冷却炉で、ガス一次系と蒸気熱交換機(SG)を介して発生した二次系の二系統がある

北朝鮮が開発したマグノックス炉は、GCRと同じく燃料には天然ウランを使用し、ウラン転換・濃縮・再転換・燃料加工の必要があるRBMKや一般の西側の軽水炉のような燃料加工の必要性がない。北朝鮮は、自国内に天然ウラン資源が存在するために、燃料加工工場と原子炉のみで核利用が可能であり、そもそもウラン濃縮施設や再処理施設の必要性がそもそもない。また、北はマグノックス炉以外の発電用の原子炉技術を有していないので、寧辺にある濃縮・再処理施設は軍事目的の施設である可能性が高いのだ

さらに、寧辺のマグノックス炉はそもそも発電用や熱供給用といった平和利用の目的で建設された可能性も低い。マグノックス炉に限らず、黒鉛炉は減速材の黒鉛が多く必要であるために、出力密度(炉の熱出力量と炉の規模の割合)が低く、規模の割には出力が小さい。また、燃料から取り出せるエネルギー量も小さいために、元々効率がよいとはいえない

また、燃料の燃焼効率が悪いために、黒鉛炉は頻繁に燃料棒を交換する必要がある。RBMKやGCRでは、燃料交換機を使用して、1日に何度も稼動中の原子炉から燃料を交換する必要がある。しかし、北朝鮮のマグノックス炉は原子炉稼動中に燃料交換ができなず、原子炉を停止させてから燃料を交換するバッチ交換方式を取っている

バッチ交換方式では、燃料の燃焼効率や出力を悪化させ、原子炉の安定稼動ができない。このような炉で本格的な発電や熱利用が可能なはずがない。出力から考えても、北の原子炉は核兵器に使用する軍事用プルトニウムの生産を目的とした原子炉であることが強く推定され、平和利用目的は、付随的なものというよりも、軍事目的を隠蔽するための偽装的な目的でしかないだろう

もう一つ、田中は北朝鮮は、KEDOスキームで提供される軽水炉用燃料のために、ウラン濃縮技術が必要であるというトンデモな主張を行っている

KEDOスキームで北に供給される予定だった原子炉は、韓国標準型原子炉(KSNP)と呼ばれる原子炉である。KNSPは、米国のCE社が開発したSystem-80をベースに90年代初頭韓国が独自に改良したPWR(加圧水型軽水炉)である

そもそも、94年の米朝の枠組み合意は、北がNPT(核拡散防止条約)に止まりIAEAの査察・検証体制を受け入れること、マグノックス炉だけでなく燃料加工プラントや濃縮プラントも停止することでマグノックス炉計画全体を停止させること、そしてマグノックス炉で燃焼させた使用済核燃料を第三国に移送することの三つを約束し、その代償として軍事転用が難しいKSNP(100万kwh)二機のターンキー方式での供与と、建設終了までの暫定処置としてやはり軍事転用が難しい火力発電所向けの重油供給を約束したものであり、その実施機関としてKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が設立された

黒鉛炉を放棄させてKSNPを供給するのは主に二つの理由がある。まず、KSNPなどの軽水炉は、重水炉や黒鉛炉と比べて転換比(燃焼させた燃料から新たにプルトニウムを生産できる割合)が低いために、軍事転用がしにくい。第二に、軽水炉燃料は天然ウランではなく濃縮ウランを使用するために、北朝鮮の核開発を燃料供給を行う米国が間接的にコントロールできる点の二つである

現状、韓国の原子炉はCE型PWRと、最新のKSNP、それにカナダ型加圧水型重水炉CANDUの三つの形式が存在し、将来的に次世代原子炉APR-1000の開発を進めている。CE型PWRとKSNP、APRの三つはPWRであり、ウラン資源が存在しない韓国は全量をアメリカ(米エネルギー省)とフランスのCOGMA社から濃縮ウランの形で購入し、国内で燃料加工している(CANDU用燃料は自国で転換)。KEDOのスキームでは、北に供給されるKSNP用燃料は韓国内で生産されて、処理も国外で行われる予定だった

そもそも、原子力プラントというのは単に原子炉が存在するだけでは足りず、原子炉に供給する燃料の転換、濃縮、再転換、燃料加工、原子炉、再処理といった一貫した工程が標準化されたものである。多少は流用は可能だが、これまでマグノックス炉用の燃料しか製造経験がない北朝鮮が、軽水炉用の燃料を自国で生産するのはかなり難しい話だ。ましてや、まだ稼動していない原子炉のために自国で濃縮を行うというのはありえない話で、KEDOスキーム用に平和利用のために濃縮を行っているという主張は、実に馬鹿げた主張だ

似たような馬鹿げた主張を行っているのは、田中だけでなく日本経済新聞政治部の弟子丸幸子も同じである。技術的に軽水炉と黒鉛炉の違いは、減速材の違いだけではないし、KEDOのスキーム自体がマグノックス炉の放棄だけではなく、濃縮や燃料加工を含めた、マグノックス炉開発プログラム全体の中止を目的としていた枠組み合意の内容を完全に無視している。北が、ウラン濃縮を再開した時点で、枠組み合意は崩壊していたわけだし、それ以前に原子炉から取り出した時点ですぐに再処理を行う必要性のあるマグノックス燃料(マグノックス被覆は水中での腐食性が高く危険)を海外に移送する計画が頓挫していた90年代後半の時点で、枠組み合意だけでなくKEDOスキームも崩壊の危機にあったことには違いはない

KEDOスキームが崩壊した理由にしても、田中の米国陰謀説や、弟子丸の軽水炉危険説とは全く無関係だ。KEDOスキームは、KSNP2機のターンキー方式での供給を行い、北は無利子20年で6ヶ月ごとに建設費用を返済する契約になっていたが、発電所から需要地までの送電設備の整備費用や技術援助は含まれていない。KEDOによって供与されるKSNPは、1980年代に旧ソビエトがVVER-440(ソビエト型加圧水型原子炉)2機の供給を約束して建設計画があった、新浦市近郊の琴湖に建設される予定だったが、琴湖から電力の大消費地帯である平壌など、西海岸地帯に送電網を建設する必要がある

北のエネルギー問題は、発電量の不足というだけでなく、送電設備や配電設備の老朽化の問題も大きい。消費地から遠く離れた新浦(とはいえ、植民地時代に大規模な重化学工業地帯が建設された北東部にもそれなりに電力需要がある)で電力を生産できても、消費地まで送電し、各所に配電できなければ意味がない。KEDOスキームは、原子炉建設と不可分な関係にあるにもかかわらず、エネルギー開発という北朝鮮側の目的を達成するための「送電網建設」がKEDOのスキームに含まれていなかったことが、枠組み合意の決定的な欠陥であったと言えなくもない

では、これは米国や当時の韓国政府の陰謀なのか、というとそれも違うのではないかと思う。送電線網建設は、枠組み合意やKEDOとは別に、両国(そして日中を含めた四ヶ国)による経済協力として進められるべきだったし、実際に経済協力は、朝鮮半島の情勢安定化のために不可欠であった。従って、あえて送電網建設は、核放棄が主目的だった枠組み合意やKEDOから分離されたと考えるのが自然だし、実際に90年代には北を国際社会に復帰させるための方策の一つとして考えられていた

しかし、北は内部での守旧派との対立や、軍との関係などで混乱し、一方で核開発だけでなくミサイル開発や大量破壊兵器の拡散問題、人権問題と、西側を硬化させる事件が相次いだ。KEDOが崩壊したのは、枠組み合意の構想者たちが、枠組みが崩壊した場合に備えた安全装置(送電設備の欠如)が作動したと考えてもいいだろう

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  • ネットで簡単に入手できる情報をもとに、既に自分の知ってることと、
    妄想を交えて好きなこと書いてる人ってイメージがありますね。
    週間アカシックレコード [akashic-record.com]なんかと同じ路線じゃないのかな。
    こっちの人は彼をひどく嫌っているみたいだけど。
    はた目で見ると、似たもの同士なんだろうなと思います。
  • Therefore we can't think of the utilisation other than 100% military purposes as to what uranium concentration technique by North Korea is aiming at.

    Technically speaking, you are very correct, but it is also true that the very utilisation of military purposes allows the countries concerned to have equilibrium of powers, and eventually contributes to peace in the region.

    --
    Ancient Greek Philosophers -18c Enlightenment Thinkers -Slashdotters
    • その指摘は正しいとも言えるし、同時に間違っているとも言える

      第一に、核兵器を保有することによって、緊張が緩和したことは歴史上存在しないことだ。確かに、冷戦期には米ソは巨大な核戦力を保有することによって、直接対立することはなかった。しかし、それは単に戦時ではないという消極的な平和に止まり、ベルリン危機からマルタ会談までの約50年間に渡って両国は緊張関係にあった。1969年には、お互いに核兵器を保有しているソビエトと中国は、ダマンスキー島を巡り大規模な戦争を行っているし、冷戦期であっても米ソは第三世界において、代理戦争を繰り広げた。このように、例え北朝鮮と韓国が核兵器を保有したとしても、消極的平和は達成できても、緊張の緩和には繋がらない

      第二に、核兵器を保有したとしても、軍事的均衡を達成するためには、通常兵力の削減が行えない点だ。これは、上記の言及から導き出せる。即ち、現在南北は38度線の停戦ラインを挟み、それぞれ100万人近い地上兵力を待機させている。こういった地上兵力の維持には、両国は毎年国家予算の10%以上の経済的支出を強いられている。しかし、経済的に破綻状態にある北朝鮮にとっては、保有する装備の更新だけでなく、兵力の維持も困難な状況にある。北朝鮮のような独裁国家でも、巨大な通常兵力の維持と、軍事目的の核開発の両立は難しい。核兵器を初めとした、大量破壊兵器の開発に着手した時点で、両国の平和的均衡は崩壊している

      第三に、核の保有は朝鮮半島の軍事的均衡を保てたとしても、周辺国に対して与える軍事的脅威が、東アジア地域全体の勢力均衡を崩壊させる事実だ。歴史的に見れば、朝鮮半島を巡る周辺国の利害関係は、19Cから変化していない。19Cには、李氏朝鮮(大韓帝国)の領土を巡り、清(中華帝国)、大日本帝国、ロシア帝国、アメリカ、イギリス、フランスが勢力を競い合った。21Cの現在、朝鮮半島問題は、南北の問題だけでなく、日本、中国、アメリカ、ロシアがそれぞれ利害関係を持っている

      経済的に見ると、日本は韓国とアメリカに対して最先端製品を輸出し、韓国から完成品を、アメリカから最先端製品を輸入して依存関係にある。中国は、日本と韓国から最先端製品を輸入し、アメリカ、日本、韓国、ロシアに完成品を輸出している。ロシアと中国は、エネルギー貿易と、低価格な製品の取引を通じてやはり依存関係にある。しかし、仮に分裂した朝鮮半島の南北の政権が、平和的に統一されたとしても、こう言った経済的な生態系は破壊される。なぜならば、南北の経済的格差が大きすぎ、韓国の経済的基盤が崩壊する可能性が高いからだ

      最も楽観的な、南北の平和的統一シナリオにおいても、東アジアの政治的な共存関係は崩壊する。それが、北朝鮮による軍事的な拡張、特に核兵器の保有が現実になれば、東アジア諸国は軍備の拡張という悲観的な状況に陥る。現に、北朝鮮は弾道ミサイルを保有することで、あらゆる核兵器に対して拒否反応を示す日本に、弾道ミサイル攻撃に対する防衛プログラム(TMD)を急がせている。しかし、日本がTMDを保有すれば、核兵器を保有する中国は、日本の弾道ミサイル防衛に対抗するために、核兵器の増強を行うであろう。そういった、中国の軍備拡張は、潜在的に中国を脅威とみなす、台湾とASEANに対して軍備拡張を行う動機を与えることになる。
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      • The reason is first off we have had no detente in history by holding nuclear weapons.

        I don't raise any questions as to your assertion. All right, but can't we say that you see we have had war in history by not holding nuclear weapons?

        Even if North & South Korea held nuclear weapons, and even if we could achieve negative peace in the region, that does not lead to detente.

        Don't you think that the negative peace is equal to detente?

        The third point is that even if nuclear weapons kept a military balance in the peninsula, in fact military threat to the surrounding countries makes the balance of force in whole East Asia collapsed.

        Very true. Good point.

        East Asia Nations would fall into pessimistic situations of the incessant military expansions if the military expansion by North Korea, especially the holding of nuclear weapons were in reality.

        For the first time in several months, I encountered very sober analysis as to the military circumstances in the region. Excellent, but the problem is North Korea already has two or three nuclear warheads, and of course in the South, the US forces have nuclear weapons. The fact is East Asia is already a nest of nuclear weapons. That is why I think current peace is the result of power politics. Negative peace is from point of view in peace and detente is from point of view in conflict, they are similar and enough for us all.

        --
        Ancient Greek Philosophers -18c Enlightenment Thinkers -Slashdotters
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        • >I don't raise any questions as to your assertion. All right, but can't we say that you see we have had war in history by not holding nuclear weapons?

          核兵器を含む大量破壊兵器を保有、または保有の意思を持ったことによって戦争が防げたという例は、戦争を防げなかった例と同じくらい多い。例えば、サダム・フセインは1980年代にフランスとドイツから購入した核施設をイスラエルの爆撃によって失っているし、イラク戦争においても(ブッシュ政権の大量破壊兵器の有無の主張は別としても)、開戦の動機は大量破壊兵器の保有であった

          核兵器を保有していることによる勢力均衡は、単に一方の勢力が核兵器を保有しているだけでは達成できない。核兵器の保有数、運搬手段、都市の人口密度、反撃手段、外交関係などの要素から総合的に導かれる。例えば、冷戦期において米ソの核均衡が達成されたのは、1950年代にソビエトがICBM(SS-7 "Sapwood")を配備した時期か、1960年代初頭にソビエトがSSBN(Hotel Class)を配備した時期である。それまでは、ソビエトは米国の戦略爆撃機による核攻撃に対して、有効な反撃手段を持っていなかった

          1990年代以降の研究では、SS-7やHotel Classは実際には米国による核の先制攻撃に対して有効な阻止能力を持つほどの性能を持っていなかったことが判明している。しかし、重要なのは、単に大量破壊兵器を保有することが勢力均衡に繋がるのではなく、戦争という政治的な意思を打ち砕くほどの破壊力を相手側が持っているという認識が存在すれば、核兵器による勢力均衡は達成できるという点である

          大量破壊兵器を保有していると疑われたイラクやリビアに対して、アメリカやイスラエルが軍事攻撃を行えた理由は、イラクやリビアが保有する大量破壊兵器がアメリカやイスラエルに対して使用される可能性がほとんどなかったからだ。これらの対立する二つの勢力は、地理的にも離れた場所に存在するし、イラクやリビアの兵器技術の信頼性が低いと推測されたこともある。また、1970年代以降にはアメリカ軍の精密爆撃技術が進歩し、兵器生産手段だけを破壊することが軍事的に可能になったことも、地上兵力を動員する大規模な軍事作戦ではなく、空軍力による小規模な軍事作戦によって問題を解決できたことも大きい。しかし、北朝鮮と韓国の関係では、韓国の首都であるソウルは、北朝鮮側軍の長距離火砲の射程範囲に入るくらい近接している。それだけでなく、ソウルは韓国全体の人口の50%近くが集中する大都市である。つまり朝鮮半島は、核兵器の有無に関わらず高度な緊張関係にあると言え、常に戦争の危機を抱えているのである。そして、北の核開発は、その情勢を悪化させる危険を伴う

          >Don't you think that the negative peace is equal to detente?

          この点については次の機会に
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          • We were able to prevent war by having the willingness to hold nuclear weapons or holding the weapons of mass destruction including nuclear weapons. We can find those cases as many as the cases we were unable to prevent war.

            This is a very important point. Normally we tend to believe that we have to start war because they have already developed weapons of mass destruction including nuclear weapons. But the fact is that because they have already developed weapons of mass destruction including nuclear weapons, we are unable to start war, thus preventing further conflict between them and us. This is an irony of history, though, it's true.

            Sadam Hussein lost a nuclear facility which was purchased from France and Germany (in 1980s) by bombing of Israel (in 1980s).

            I didn't know that, though I've got to look it up when the purchase and bombing were taken place.

            Korean peninsula seems under high tension regardless of whether there're nuclear weapons.

            It depends on how we see the situation there, I don't believe both current administrations are antagonistic to one another.

            --
            Ancient Greek Philosophers -18c Enlightenment Thinkers -Slashdotters
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